とりあえず、歯磨きと片付けのために一足先に戻らせていただき、用意を整えます。
……これでよし! では、白部さんに連絡しましょうか。
ややあってインタホンが鳴ったので、門へ。皆さん揃い踏み! 白部さんは一度取りに行ったのか、ノートパソコンを抱えています。
「ようこそ」と、中へ招き入れるのでした。
「これ、優輝から」
頂いたのは、大袋入りのチョコ菓子「ミットマット」とクッキー。それと、飲み物を色々。ありがたいことです。
「後で、優輝さんにお礼しなきゃ」
「さらに伝言。『ミケのお世話していただくんで、お気になさらず』ですって」
相変わらず、快活な人だ。そうはいっても、言葉でのお礼ぐらいはしないとね。
とりあえず、アメリの案内で寝室に先に向かっていただき、お茶菓子を用意する。
「お待たせしました」
さすがに、折りたたみ机に七人は厳しいので、二人ぶんのお茶菓子をトレイに載せたままベッドに置き、白部さんと近井さんに腰掛けていただくことに。
「すみませんね、どうにも狭くて」
「いえいえ。押しかけけたのこちらですし。仕事がなければ、ノーラちゃん一人で遊ばせても良かったんですけど」
白部さんが仰る。猫耳人間の、あらゆる行動をモニタリングするというのも、大変ですねえ。
ともちゃんも、さすがにまだ近井さんが目を離していい歳ではないしね。
「何して遊ぶー?」
アメリが声をかけ、子供たちでわちゃわちゃ相談。ぬいぐるみ遊びはノーラちゃんとミケちゃんが難色を示し、ブロック遊びに落ち着きました。
ブロックも、割と久々の出番ね。
かちゃかちゃ、わいわいと、みんなで色々作っていく。
白部さんはそれのデータを取り、彼女の仕事内容に興味を持った近井さんが、色々と尋ねています。
私も、ミットマットとクッキーを少し小皿にいただき、お仕事お仕事~。
◆ ◆ ◆
「できた……!」
クロちゃんの声が聞こえたので、そちらを見てみる。見事な松の木ができていました。
「おお~、すごい! なんて名前?」
「夕凪……」
し、渋い……。相変わらず、渋い! いぶし銀ネーミング!
「ミケもできたわ!」
可愛いくまちゃんですねえ。
「名前はシンスケよ!」
こちらも相変わらずな、ミケちゃんネーミングセンス。
アメリとともちゃんは、合作の模様。なんだか、例によって名状しがたい代物になりつつあります……。
「アタシもできたぜー! 倒した記念に、ブンレッツだ!」
緑の、人型のオブジェが出来上がっていました。
「……できたー!」
アメリとともちゃんが同時に宣言。その姿は……四次元からの来訪者というか、なんというか。
ぱちぱちと、我が娘の作品を拍手して褒め称える近井さん。私も褒めよう。ぱちぱち~! 個性、個性!
「アメリちゃん、名前どーする?」
ともちゃんが、命名を一任。
「おお? 決めていい? じゃあ、『まそにゅう』! パン屋さん!」
その姿でパン屋さんかー……。これで案外、美味しいクロワッサンとか焼くのかしら?
おっと、見とれている場合じゃないな。優輝さんに短時間切り上げでと言ったんだから、お仕事に集中~!
◆ ◆ ◆
子供たちは、その後もしばらくブロック遊びに興じていましたが、おしゃべりがメインになってきたようです。
「ともは、『NKM33』って知ってる?」
話を振るミケちゃん。
「なんか、聞いたことあるー」
「一緒に、千多ちゃんを応援しましょ! もうね、すっごいカリスマなんだから!」
おおう、布教活動に熱心ですねえ。アメリにとってのエスカルゴのような。
「千多ちゃんって、どんな人ー?」
「神奈おねーさん、BDプレイヤー使っていい!?」
「んー? どーぞー」
特に断る理由もないので、OKする。
「ディスク取ってくる!」
そう言うと、疾風のように背後を走り抜けていくミケちゃんでした。
◆ ◆ ◆
「ただいま!」
はあはあ息を切らせ、戻って来ました。
「アメリ、プレイヤーの使い方教えて」
「おお。えっとね……」
アメリに使い方を教えてもらい、起動。
ちょっと、私も見てみよう。
「NKM、33ー!」
どうやら、ハモリさんが司会を務める、音楽番組の録画らしい。三十三人ぶんの掛け声が聞こえてくる。文字通り、センターで目立ってるのが千多ちゃんですかね。なるほど、たしかに可愛い。みんな、猫耳と猫しっぽが特徴的だね。もちろん、こちらは作り物だけど。
そのままライブに移行。へー、みんな歌も振り付けも上手だなあ。
ライブは盛り上がっていき、フィニッシュ! 客席から拍手と歓声が起こる。私たちも拍手。
千多ちゃんと、ほか二人が代表として、ハモリさんとトークを繰り広げる。へえ、喋りも上手いなあ。明るくて、ハキハキしてる。これは、ミケちゃんがリスペクトするのも納得。
まさに、THE・アイドルって感じねー。私も、ちょっとファンになっちゃった。
トークも終わり、三人は退出。ここで、録画は終わっている。
「どうだった!?」
さっそく、グイグイと意見を求めるミケちゃん。
「すごかった!」
幼児語彙力で千多ちゃんを評価するともちゃん。
「でしょ、でしょ!? もうね、歌も踊りも上手いし、性格いいしで、完璧なのよ!!」
ミケちゃん、ボルテージ上がりまくり。
「ボクはこういうのあまり見ないけど、たしかに上手だったね」
「だなー」
クロちゃんとミケちゃんも、控えめながら同調する。
「ふふん。二人とも、見る目あるじゃない。アメリはどうだった?」
「おお~。ミケはあの人が目標なんだね。すごいと思う!」
「ええ。ミケもNKMに入って、千多ちゃんみたいになってみせるんだから!」
胸を反らし、ふんすと鼻息が荒い。
その後もミケちゃんの、千多ちゃん愛あふれるマシンガントークが、しばらく続きました。
とりあえず、面白いもの見せてもらったし、仕事に戻りましょ。
◆ ◆ ◆
子供たちも手を変え品を変え色々遊び尽くし、もうすぐ夕刻ということで、帰り支度を始めます。
「今日は、突然のお申し出にも関わらず、ありがとうございました」
近井さんから丁寧なご挨拶とお辞儀をいただく。
「こちらこそ、いつもアメリと遊んでいただいて、ありがとうございます」
立ち上がり、お辞儀で返す。
「私も、今日は子供たちのコミュニケーション力に関する、いいデータが取れました。ありがとうございます」
白部さんがお辞儀してくるので、こちらも返礼。
「神奈おねーさん、今日はありがとー!」
ミケちゃんを筆頭に子供たちもお礼を言ってくるので。「どういたしまして」と笑顔で応える。
「じゃあ、門まで見送りますね。クロちゃんは車だね」
「ありがとうございます」
というわけで、ぞろぞろと門へ向かい、お見送り。
一同を見送った後は、クロちゃん、アメリを乗せて、宇多野家へと向かうのでした。
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