神奈さんとアメリちゃん

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第四百八十八話 天才の育て方 ―前編―

公開日時: 2022年2月6日(日) 21:01
文字数:2,463

 とうとう! とうとう、この日がやってまいりました!


 アメリちゃんの特別授業、初日です! もう、色んな意味で、ドッキドキですよ。


 ちなみに、現在プロットの執筆中。これ、今日中に真留さんに提出しないと、諸々アウツです。


 でもね、魔の三ヶ月を乗り越えたんですよ! 一週間ぐらい遊びたいじゃないですか!


 とまあ、脳内で言い訳しつつ、速記しております。今月の原稿は、だいたい構想してあるからなんとかなりそうだけど。


 ことによると、「あめりにっき」は次々号で終了させなければいけないので、継続でも終了でも、どっちでも行けそうな話にしてあります。


 よっし、できたァ! 送信! 続いて、真留さんのお返事を待たずに、ネーム執筆!


 だって、こうしないと間に合わないんだもん。明日打ち合わせと同時にネーム提出しないと、実家から帰ってくる十七日まで、作業がストップしてしまう。さすがにそれでは間に合わないので、頑張っています。


 切符も、帰省のチャンスも失いたくないもんね!


 なにより失いたくないのが、真留さんの信頼だ。原稿を落としたことがないのが、私の自慢!


 バリバリと書き進めていると、チャイムが。時計を見ると、ピッタリ一時。いらっしゃいましたか。


「はい、どちら様でしょう?」


「こんにちは、押江です。お隣のお子さんもご一緒です」


「今行きまーす」


 ぱたぱたと、アメリと一緒に門へGO!


 押江先生に加え、ミケちゃんが、ちょこなんと隣に立っていました。とりあえず、互いに「こんにちは」とご挨拶。


「改めまして、アメリさんの授業を受け持つことになりました、押江です。よろしくお願いします」


 お辞儀する彼女。


「こちらこそ、よろしくお願いします。ちょっと今、仕事で立て込んでいまして。とりあえず、中へどうぞ」


 というわけで、ささっとお通しする。


 ただ、いくら忙しいといってもお茶ぐらい出さないのは失礼よね。


 先にアメリに寝室に案内してもらい、アイスティーを作ります。


「お待たせしました」


「ありがとうございます」


 三人からお礼を言われたので、「どういたしまして」とお辞儀を返す。


 名刺を受け取った後、「失礼ながら、お話は仕事しながら伺いますので」と断りを入れ、執筆再開!


「神奈おねーさん、忙しそうねー」


 ミケちゃんが、言葉をかける。


「うん、超忙しい! 自業自得だけど」


 喋りながら、バリバリ書き進めます。


「では簡単に、これからやることを説明させていただきますね。アメリさんには、ギフテッド向け教育を受けていただきます。日本式の、ゼネラリストを是とする教育ではなく、アメリさんが本当に興味の向く授業だけ受けてもらうのです」


 押江先生が、レクチャーを始めるので、筆を走らせつつ傾聴する。


「まずは、学力を見るため、各教科のテストを受けてもらいます。続いて、アメリさんが興味ある科目を教えてもらい、それを伸ばしていきます」


「そういうのは、アメリカでは一般的なんですか?」


「はい。みんなと同じでなければいけないという、日本式教育の、強迫観念めいた思想はないです」


 ほへー。


「ちなみに、芸術に適正があれば、そちらの支援もします。では、テストを始めさせていただきます。アメリさん、わからないところは飛ばしていいですからね」


「はーい」


「調べ三協いないけど、ミケちゃんはどうするの?」


「自習~。クロも来るわよ」


 ほー。というわけで、アメリと押江先生の、マンツーマン授業が始まりました。


 少しして、チャイムが。クロちゃんだな。


 「失礼します」と中座して、応対。果たしてクロちゃんだったので、中に通し、アイス緑茶をれる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ぺこりとお辞儀するクロちゃん。アメリは、今のところ苦戦する様子もなく、テストに励んでいる模様。


 見守っていたいけど、そうもいかないので、お仕事再開。


 お、LIZEに着信が。真留さん、いつものように、明日の二時にいらっしゃるようです。


 三十分ごとにテストは終了し、先のものになってくると、「おお?」とか、「う~ん?」などと、アメリちゃん苦戦の様子が伝わってきます。クリアするごとに、難しくしていってるんだね。



 ◆ ◆ ◆



「では、十分じゅっぷん休憩にしましょう」


 そう押江先生の声が聞こえ、アメリがぷはーっと、息を吐く。


「あ、お菓子持ってきますね」


「ありがとうございます」


「ありがとー」


 押江さんとアメリから、感謝の言葉をいただく。


「ボクたちも、休憩にしようか」


「さんせーい」


 クロちゃんたちも休憩宣言。お疲れ様。


 キッチンで新しいお茶とクッキーを用意し、寝室へ。クロちゃんは、もちろん濃い目の緑茶。


 皆がお礼とともに受け取り、しばしの休息を愉しみます。私も輪に混ざりたいけれど、突貫工事しないとねえ。


 デスクに自分の取り分を手に戻り、お仕事再開!


「そういえば、押江先生は何科が専門なんですか?」


 筆を走らせつつ、素朴な疑問を尋ねる。


「ああ……申し遅れてました。私、アメリカの天才児向け特別支援学級で教えていた、教師なんです」


 あれ! お医者さんじゃなかったんだ!


「今回、アメリさんの件で招聘されまして、帰国した次第でして」


 ほえ~。


「アメリのために、そこまでなさってくださるなんて……」


「お気になさらないでください。今までいろんな子を教えてきましたけど、さすがに猫耳人間というのは初で、ぜひにと、むしろお願いしたぐらいでして」


 彼女の情熱もすごいけど、ここまでしてくれるCH研も大したものです。


「アメリカ万歳というわけでもないですけど、日本の教育は、天才には息苦しいですね。今後の課題だと思います」


 うーん……。私は、アメリを学校に通わせるのが、この子の幸せと考えていたけど、なんだかそういう気持ちが揺らぐな……。


「押江せんせー、アメリ大丈夫かな?」


「大丈夫。絶対、悪いようにはしないからね。今回は、『どこまでできるか』を見るだけだから」


 難問に突き当たり、自信喪失するアメリに、安心させる言葉を投げかける押江先生。


 アメリが、遠い世界へ行ってしまうようで若干寂しいけれど、私が一番応援しなくちゃね!


 それはそれとして、お仕事も頑張りまっしょい!

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