神奈さんとアメリちゃん

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第三百八十八話 ともちゃんといっしょ

公開日時: 2021年10月21日(木) 21:01
文字数:2,312

「アメリちゃーん、見て見て~。ミケおねーちゃん!」


「おお~! 似てる!」


 六月六日の日曜日のお昼前、仕事も順調に済んだので近井さんに打診したところ、快くご承諾いただき、アメリはともちゃんと砂遊び。


 しかし、ミケちゃん胸像……あの子もここ公園で歌って踊ってるから、なんだかんだで有名人になってるのね。


 猫耳人間の子供たちも、アメリを筆頭にすっかり人気者のようです。


「そういえば、ほかのお子さん、あまり見かけなくなりましたね?」


 近井さんが頬に手を添え、「どうしたのかしら?」といった具合に疑問を呈す。


「あー、あの子たち、土日は習い事始めちゃったもんで。ミケちゃんはダンスと歌、クロちゃんは将棋、ノーラちゃんはサッカーを」


「すごいですねえ。友美も何かやらせてあげたほうがいいのかしら?」


「ともちゃんが、自発的に『これやりたい!』って言ってからでいいと思いますよ。興味がないものを押し付けても、長続きするものでもないですし」


 アメリたち越しに、ぼーっと遠景を見つめる。小学生から趣味で漫画を描き始めて、ついに連載を持ったまま八年選手にまでなった私。もう、二十年近くも漫画を描き続けてるんだなあ。思えば遠くへ来たもんだ。


「猫崎さん?」


 近井さんに声をかけられ、ハッとなる。


「すみません。少しぼーっとしてしまいました」


「ああ、よかった。お声がけしても反応がないものですから、どうなさったのかと。友美の習い事、本人の希望を待つことにしますね」


「はい。ともちゃんが夢を見つけて、それを実現できるといいですね」


 クロちゃんも、ミケちゃんも、ノーラちゃんも、そしてアメリも。夢を実現することは簡単な道のりではないだろう。特に、猫耳人間という未だ法的に宙ぶらりんな彼女らの運命は、未知数のままだ。


 研究のことはさておき、人権法そのものが頓挫することはないと思いたいけれど、私のように小さい頃からの夢がストレートに叶うほうが、世の中ではレアな存在。誰もがみんな、自分のやりたい仕事ができる。そんな世の中になったらいいのに。


「ともちゃん、『にょこたん』できた!」


 また、謎のオブジェクト作ってる……。


「なーに、それ?」


「えっとね、リスボンでお砂糖作ってる!」


「りすぼん?」


「えっとね、ぽ……ぽるとるがだっけ? そこの街!」


 ともちゃんと珍問答を繰り広げる愛娘。ポルトガルですよ、アメリちゃん。


「楽しそうだね。私も混ざっていい?」


「「いいよー」」


 童心に帰り、子供たちと一緒に砂いじり。ふふ、こんなの二十年ぶりぐらいかなー。


 泥団子作ってみたりして。懐かしいな。よく、りんちゃん幼馴染とおままごとしたものだ。


「猫崎さん、子供お好きですよねー」


 近井さんも、しゃがんで話しかけてくる。


「そうですね。もともと子供は嫌いではなかったですけど、アメリが今の姿になってから、『自分はこんなに子供好きだったんだ』と、新たな発見にちょっとびっくりしました」


 二人と一緒にトンネル掘り。三方向トンネルが、もうちょっとで開通しそう。


「育児って、大変なことも多いですけど、それ以上の喜びを与えてくれるものですね」


「ええ。友美は、本当に大切な宝物です」


 微笑み合う、二人の母。トンネルも、無事開通!


 その後、子供二人が混ざりたそうに砂場を見ていたので、場所を譲る。


 アメリたちは、たちまちその子らとも打ち解けてしまいました。アメリもともちゃんも、本当に社交的だなあ。


「手、洗ってきますね」


「はい。いってらっしゃいませ」


 少し離れたところにある水道で、泥砂で汚れた手をきれいに洗い流す。もうだいぶ気温も高くなっているので、流水で冷えるのが気持ち良い。


「お待たせしました」


 近井さんと、おしゃべり再開。


 彼女によると、Webデザイナーの仕事も大口から小口まで様々で、今までで一番大きな仕事は、映画の宣伝ページ作りだったとか。その映画の名を尋ねると、見たことはないけれど、名前は知っているという作品でした。


「私も、趣味で作ってたホームページが将来の生業になるとは、当時思ってもみませんでした」


 始めた当初はまだブログすらなくて、四苦八苦しながら映画交流メインの、良く言えば手作り感あふれる、簡素なホームページを作っていたらしい。


 もし、当時からブログがあったら、今の仕事はやっていなかったかもしれないとは彼女の弁。


「私のお友達にも、映画好きな方いますよ。あの、ミケちゃんの保護者の背の高い……」


「ああ、あの方ですね! 彼女、どんな映画をご覧になるんですか?」


 そこで、答えに窮してしまう。まさか、グロ多めのB級映画とか言えないし……。


「ええと……個性的な映画がお好きなようですよ」


 うん、嘘は言ってない。


「そうなんですかー。今度お会いしたら、映画談義してみたいですねー」


「それはいいかもしれませんねー……ははは……」


 思わず、乾いた笑いが出てしまう。近井さん、心に傷を負わなければいいけど。


 すると、アラームが鳴り響く。この音、たしか近井さんのスマホだ。


「あら、すみません。もうこんな時間。友美にごはん食べさせなければいけないので、お先に失礼しますね」


「はい。またお会いしましょう」


 互いにお辞儀し、ともちゃんはお母さんに促され、名残り惜しそうにアメリと新しいお友達にバイバイ。


「ともちゃん、またあそぼーねー!」


 アメリも、ぶんぶん手を振ってお見送り。


「アメリはどうする? お昼の時間だけど」


「んー……。たしかに、お腹減ったかも」


「じゃあ、帰ってごはん食べようか。君たちも、アメリと遊んでくれてありがとうね」


 新しいお友達にお礼を述べ、アメリも「また遊ぼうね」と別れのご挨拶。


 手とスコップ、バケツをきれいに洗い、自転車にまたがり二人で家に向かうのでした。

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