神奈さんとアメリちゃん

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第二十話 まりあさんちへやって来た!

公開日時: 2021年4月17日(土) 11:31
文字数:2,292

歩くこと約十五分。「宇多野」の表札がかかった、おしゃれな白くて広いお家の前にやってきました。いやー、緊張するなあ。


 私の格好は水色のワンピースに白い帽子、アメリはピンクのワンピースに白いキャスケット。おかしくないよね? うん。


 ただ、アメリがクロちゃんのところにイカのぬいぐるみを持って行きたいというので、彼にもご同行願っており、アメリに抱えられている。


 彼女は、このイカぬいに「そめごろう」と名前をつけた模様。なぜ、そめごろう……。どこでそんなちょっと微妙なネーミングセンス身につけたのかしら。


 ともかくも、インタホンを押すと「はい、どちら様でしょう?」と、まりあさんの穏やかな声が返ってくる。


「こんにちは、猫崎です」


「こんにちはー。今開けますね」


 ややあって、まりあさんが門戸を開けて出てくる。白いワンピースがよく似合う。っていうか、ワンピースだだ被り祭りね。


「いらっしゃいませー。どうぞどうぞ」


 まりあさんの案内で、リビングに通される。お宅の印象は、「きれい」「清潔」。白基調の家具が多く、明るくてなおかつ落ち着いた感じを醸し出している。


 私みたいに来客時に慌てて準備した感じはなく、普段からきっちり整理整頓と清掃を心がけてるんだろうなあ、と素直に思う。いや、うちもそれなりに普段からお掃除してるけどね。


「クッキー焼いてみました。アメリも手伝ってくれたんですよ」


「手作りですね! 偉いわね、アメリちゃん」


 まりあさんに頭を撫でられ、「うにゅう」と気の抜けた声を上げるアメリ。


「こんにちは……」


 奥のドアから、おずおずと半身を出し、黒ワンピースのクロちゃんが挨拶してくる。ほんとにワンピース祭りね。結構、楽だものねー。


「こんにちは」


「クロー! こんにちはー! 見て見て、そめごろう!」


 高々とそめごろうを掲げるアメリに、「あ、うん。すごいね……」とどう反応を返したらいいかわからずに、戸惑うクロちゃん。ほほえまー。


「飲み物持って来ますけど、ご希望あります?」


「あ、ではアイスコーヒーお願いできますか? 砂糖抜き、ミルク多めで」


「アメリちゃんは?」


「コーラ!」


 どんだけ気に入ったの? 思わず苦笑。


「たしか、冷蔵庫にあったかな。クロちゃんは緑茶よね」


 こくこくとうなずく彼女。クッキーのお茶請けが緑茶とは、渋い幼女だなクロちゃん……。


 まりあさんが飲み物を持ってくるまで、内装を拝見しつつ女の子二人の微笑ましい会話を見守る。


 例によって、アメリなりに距離感に気を使いながら、クロちゃんにほぼ一方的に話しかける感じ。相変わらずだねー。


 会話に耳を傾けると、そめごろうは「ほえほえさん」のおかげで最近「さめのすけ」と仲がいいらしい。ほえほえさんがくじら、さめのすけがサメのぬいぐるみかしらね。


 クロちゃんはというと、アメリのマシンガントークを若干引き気味に聞きつつ、相槌を打っている。でも、その表情には多少困惑こそあれど嫌悪感はない。クロちゃんも、間違いなくアメリを好いてくれている。良きかな良きかな


「お待たせしました」


 二人のやり取りを眺めていると、まりあさんがお皿と飲み物の載ったトレイを手に戻ってきた。


 配膳する彼女に、「ありがとうございます」とお礼を述べる。アメリも私に促され、「ありがとーございます!」とお礼を述べる。よしよし、いい子だね。


 ちなみに、まりあさんの飲み物は紅茶。見事なまでに各人バラバラ。お手数をおかけします。


 お皿にクッキーを空けると、クロちゃんが無言で目を輝かせる。一方まりあさんは、「かわいいですねー。すごく美味しそうです」と惜しみない賞賛の声を上げる。


「いただきます」


 四人でいただきますをして、クッキーをつまむ。


「あ、これクロちゃんみたいだね」


 黒猫クッキーをクロちゃんに見せるまりあさん。かすかにはにかみ、「ほんとだ……」と声を上げるクロちゃん。一つ受け取り、自分の分身 (?)を感慨深げに食む。皆もめいめい、クッキーを口に運ぶ。


「とてもおいしいです。お時間かかったでしょう?」


「まあ、そこそこ程度に。でも、喜んでいただけたようで良かったです。あ、喜ぶといえば。くろねこクロのたび、まだ一巻ですけど買わせていただきました。アメリもだいぶ気に入ってくれたみたいです。読むのに合わせて、続きも買わせていただきますね」


「ありがとうございます。ご期待に添える内容だったようで良かったです。やっぱり、子供に気に入ってもらえると絵本作家冥利に尽きますね。私もアメリちゃんの漫画、今三巻まで集めてます」


「ありがとうございます~! 私の漫画も、引き続き気に入っていただけたようでありがたいです」


 などと、ほのぼのトークを繰り広げながら、クッキーと飲み物をいただいていく。う~ん、平和だなあ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていき、かなりの量あったクッキーも底を突いてしまった。時間も五時過ぎで、お開きにはちょうどいい時間。


「もういい時間なので、お暇させていただきますね」


「はい。クッキーごちそうさまでした。またこうやってお話ししましょう」


「こちらこそ、お飲み物ありがとうございました。クロちゃんも、アメリと仲良くしてくれてありがとうね」


 笑顔を向けると、恥ずかしそうにうつむいてしまう彼女。


「クロー! 今度はクロのお気に入りのおもちゃで遊ぼーね!」


 アメリが思わず抱きつこうとするが、考えを改め手を差し出すと、おずおずとクロちゃんが握り返し、「うん……」と呟く。その手を勢いよくぶんぶん振るアメリに、驚くクロちゃん。


「では、失礼しますね。今日は急な提案にも関わらず、ありがとうございました」


 二人のお見送りを受け、宇多野邸を後にしたのでした。

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