今日は、ミケちゃんが遊びに来てます。私は今日も今日とて、お仕事なう。
「アメリは九九、どれぐらいできるようになったの?」
「多分ほとんど!」
「ミケは、もう完っ璧にマスターしたわよ!」
ミケちゃんの、ドヤ顔ならぬドヤ声が聞こえてくる。
「おお~! すごい! おねーちゃん! アメリもどれぐらいできるようになったか見てー!」
「んー? おっけーおっけー。でも、ちょっとだけ待っててね、あと少しで一区切りつくから」
首だけ振り向いて応える。
「はーい」
というわけで、一区切り付けてアメリに九九を出題していく。
「おお! 全問正解です、アメリちゃん!」
「やったー!」
バンザイするアメリ。バンザイ猫スタンプを思い出してしまった。頭を撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。
「せっかくだから、新しいの覚えてみる?」
二人が「何?」とハモった。
「割り算っていうんだけど、ミケちゃんは知ってるかな?」
尋ねると、ふるふると首を横に振る。
「りょーかい。じゃ、教えるね。割り算っていうのは……」
おなじみになった教材、クレヨンを取り出す。もう、だいぶちびてるなあ。新しいの買ってあげないと。
「ある数を、いくつで分けますよーっていうものなのね。ここに、十二本のクレヨンがあるよね?」
「うん」と頷く二人。
「これを、三本ずつに分けると、何個のセットになるかな?」
実際に、やってみる彼女たち。
「四つ!」
ハモって答える。
「正解です。じゃあ、二本づつに分けると?」
「六つ!」
ミケちゃんが、実際に分けずに即答。
「はい、大正解! これが割り算。こういうのをね、十二割る三とか、十二割る二って表現するの。字で書くと、こんな感じ」
コピー用紙に、鉛筆で12÷3、12÷2と書くと、アメリが「おお~!」と感心の声を上げる。ふふ、教えがいがあるなあ。
「考え方としては、掛け算のちょうど逆って考えてもらえるとわかりやすいかな」
二人が、「おお~」とまたハモる。可愛い。
「で、ゼロに関してだけど、掛け算のときとビミョーに考え方が違ってね。そもそもゼロで割れないのね。一で割ったときは、掛け算と同じ考え方で、その数まんまになるんだけど」
「なるほど……」と興味津々なミケちゃん。
「あと、もう一個注意なんだけど、引き算と同じで前の数字と後ろの数字を逆にしちゃダメなのね」
「わかった!」
アメリが、しゅびっと挙手する。
「じゃあ、例題をいくつか出してみようか。ちょっと待っててね」
PCを操作し、例題集を作って二枚プリントアウトする。
「さあ、やってみようか。クレヨンとかで実際に分けて解いていいからね。ただ、最後の問題だけはちょっと仕掛けがしてあるから、わからなかったすぐに訊いてちょうだい。じゃあ、ちょっとお仕事再開してるから」
「はーい」と、取り組む二人。それを背に、かりかりと下書きを進めていく。
ややすると、「あーん、もう! 何これ、わかんない!」とミケちゃんの声。うん、予想通り最後の問題で躓いたみたいね。
「はいはい。きっと、最後の問題よね?」
「そうよ! 十割る三って、どうやっても一個余っちゃうんだけど!」
むくれるミケちゃん。
「うん、それでいいの。こういうときはね、三余り一って答えればいいんだよ」
「えっ! それでいいの!?」
「うん。割り切れないときは、こう表現するんだ」
「なーんだ」と、ミケちゃんががっくり脱力する。
「まあまあ。こうやって、わからないことは素直にわからないって言えるのも世の中大事よ。じゃあ、ミケちゃんはできたみたいだから、採点しようか……うん、うん……。はい、満点です! 花マルプレゼント~!」
赤ペンで花マルを書いてあげると、「やったー!」と、一気に機嫌が治る。ほほえま!
「おねーちゃん、アメリもできた!」
「はいはい~。……うん、アメリも全問正解! 花マルをどうぞ~」
「おお~! この花マル? とかいうの、かわいい!」
キラキラ瞳を輝かせるアメリ。良き哉良き哉。
「とりあえず、割り算は九九ができればそれほど覚えることないから、次の問題集ではクレヨン使わずに解いてみてね」
問題集をさらに作り、配布する。
「頑張る!」
「まっかせて!」
気合充分な二人。さてさて、二人が自習している間、私もお仕事してましょう。
◆ ◆ ◆
「ん、もうすぐ四時かー。お買い物行きたいけど、ミケちゃんどうする?」
お勉強タイムも無事終わり、お絵かきタイムに移行したミケちゃんに問いかける。
「うーん、アメリともうちょっと遊んでたいわ……」
「アメリもー」
「りょうかーい。じゃあ、今日はもっと時間経ってから、車でお買い物行きましょう」
「おおー!」
しゅびっと挙手するアメリ。
「じゃあ、五時半までね。さすがにそれ以上は優輝さんたちも心配するだろうし、そちらでもごはんの時間でしょう?」
「わかったわ。じゃあ、それまで遊びましょアメリ」
「おお~! ミケー、猫ちゃん描こ~」
こうして、遊びを再開した二人を背に再度お仕事タイム。あ、コーヒー牛乳だけ作ってこよ。
◆ ◆ ◆
「じゃあアメリ、神奈おねーさん、またねー!」
「またねー!」
「はーい、またねー。優輝さんたちによろしくねー」
かくてるハウスの門前で、手を振るミケちゃんに別れを告げる。
さーて、今日は晩ごはん何にしようかなー。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!