神奈さんとアメリちゃん

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第二百八十一話 桜、桜

公開日時: 2021年7月5日(月) 21:01
文字数:2,035

 時計の針はくるくると回り、お花見当日のお昼! 下調べした優輝さんのお勧めで、「花のサクラロード」という遊歩道そばの原っぱにシートを広げています。


「本日はお日柄も良く、実にいいお花見日和となりました! 食事と桜を大いに楽しみましょう!」


 司会の優輝さんが挨拶を終えると、一同拍手。


「ほんといいお天気ですよねー」


「ええ、本当に」


 同じシートに座っているまりあさんに話しかけると、微笑みが返ってくる。


 かくてるの皆さんを見ると、由香里さん以外がさっそくビールで乾杯。向こうは由香里さんが運転してくれるからねー。私もこういうときぐらい、ぐびっといきたいものです。


 白部さんは、満開の桜に感動しはしゃぐアメリとノーラちゃんを、楽しそうに眺めている。


「クロちゃんって、桜好きそうよね?」


「はい。去年もここに来て感動しましたけど、今年は皆さんと一緒なのでひとしおです」


 一見無表情だけど、瞳がキラキラ輝いている。ほんとに、少し前まで極度の人見知りだったとは思えない。


「お弁当でも食べましょうか。うちはこんな感じで」


 ミニハンバーグとミニオムレツ、ブロッコリーとプチトマト、そしておなじみでんぶでハートマークを描いたごはんのお弁当をご開帳!


「可愛いお弁当ですねー。うちは、いつもみたいな感じで」


 アジの南蛮漬け、切り干し大根、きんぴらごぼう、のりたまのふりかけごはんを見せてくれるまりあさん。


「そちらも美味しそうですねー」


「ありがとうございます。恒例のおかず交換しましょうか」


「はい。お好きなのをどうぞ~」


 ハンバーグと南蛮漬けがそれぞれトレードされました。アメリとクロちゃんも同様のトレードをした模様。


「おねーちゃん、桜ってきれいだね!」


 キラキラ瞳を向けてくるアメリちゃん。


「でしょう? 日本人、桜好きだからねー」


「和の心ですよね」


 クロちゃん、難しい言い回しを……。


「皆さん、楽しまれてますねー。私も、桜を楽しむ猫耳幼女たちを見てると心が潤ってきますよ」


 白部さんがこちらにいらっしゃいました。


「私もトレードいいですか?」


 白部さんが差し出したのは、唐揚げとゆで卵にフライドポテト、うちと同じくプチトマトとブロッコリーのお弁当。


 紅葉狩りのときと比べると、やはり時間に余裕ができたのが伺えるラインナップ。


「では、お好きなものをどうぞ」


「ありがとうございます。唐揚げとハンバーグでお願いします」


 というわけで、トレード。まりあさんとも南蛮漬けを交換された模様。


 ハンバーグが残り一個になっちゃったな。


 ノーラちゃんとアメリ、クロちゃんもおかずトレードをした模様。


 桜のほうに視線を向ける。はらはらと舞い落ちる花びらが、実に儚く幻想的だ。桜は、これが醍醐味と言ってもいいと思う。


「楽しまれてますかー?」


 ほんのり頬が桜色に染まった優輝さんが、ミケちゃんと一緒にこちらにいらっしゃいました。


「あたしともおかずトレードしましょう! ……ええと、神奈さんのメインはどれですか? 唐揚げでしょうか?」


 随分トレードを繰り返したので、一見どれが私が作ってきたものだかわからなくなってしまっている。


「あ、うちのはハンバーグです」


「じゃあ、持っていったら悪いですね。うちのポテトサラダと、そちらのプチトマトとブロッコリーでいかがでしょう?」


「はい、構いませんよ」


 トレード成立。優輝さんのお弁当のごはん部分には、相変わらず気合の入ったミケちゃんが海苔とそぼろで描かれていました。


「ほんとに、ミケちゃんお上手ですよねー」


「ありがとうございます。でもこれ、実は由香里に下書きかなり手伝ってもらってるんです」


 照れくさそうに後頭部を撫でる彼女。


「でも、仕上げはされていらっしゃるんでしょう? 愛を感じます!」


「そうおっしゃっていただけると、ありがたいです。まりあさんと白部さんも、何か交換しませんか?」


 トレードを始めるお三方。アメリたちも、ミケちゃんと何か交換した模様。良きかな良きかな


 お茶を魔法瓶から注ぎ、一服。ああ、本当にいい日だ。


 めいめいおしゃべりを楽しみ、楽しい時間が過ぎていく。すると、おもむろにミケちゃんが立ち上がった。


「一曲歌うわ! 優輝、BGMお願い」


「あいあいさー!」


 スマホから音楽が流れ、ミケちゃんが歌と踊りを披露し、皆から拍手が送られる。


 最後に、くるりとターンしてフィニッシュ。一段と大きな拍手が送られる。「みんなありがとー!」とぺこりとお辞儀し、着席する我らがアイドル。可愛いなあ。


 歌謡コンで挫折しても、彼女の夢はまったくぶれない。相方を務めたアメリは、今は道を別れ知識を蓄えることに興味と夢を見出したようだけど、ミケちゃんはひたすらアイドル街道を目指し、邁進まいしんしている。


 いつか、夢が叶う日は来るのだろうか。その日が訪れることを、願ってやまない。


 不意に強い風が吹き、花びらがぶわっと舞い散った。「春」という言葉を、強く意識させられる光景だ。


 四月には、どんなことが起きるのかな。


 理由はないけれど、何かとても大きな転機が訪れそうな予感がするのでした。

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