二人のお世話を白部さんにお任せして仕事に打ち込んでいると、もう五時半。時間が経つのが早い。
「白部さん。よろしければ、ノーラちゃんと一緒に晩ごはん召し上がっていきませんか?」
くるりと椅子を向け、話しかける。
「え? そんな、悪いですよ」
「いえいえ、せっかくですから。ノーラちゃんはどうかな?」
「おー? 何食わせてくれるんだー!?」
「ふふふ。ロールキャベツっていうお料理だよ。フォークに初挑戦してみよう」
「こら、ノーラちゃん。厚かましいこと言っちゃダメよ」
苦言を呈する白部さんに、「まあまあ。ノーラちゃんも乗り気ですし、ね?」と、ひと押しする。
「うう~ん……そこまで仰るのでしたら。このお返しはいずれ」
「お返しなんて、そんな。気構えないでくださいよ」
というわけで、四人でキッチンへ移動。
「せめて。何かお手伝いを……」
「気を使っていただかなくて、大丈夫ですよ。それに、アメリの出番を奪っちゃいますしね。ね、アメリ?」
「おお~!」
拳を突き上げ、手伝う気満々のアメリ。
「恐縮です。では、ノーラちゃんと一緒に、見守らせていただきますね」
ぺこりとお辞儀し、ノーラちゃんと一緒にテーブルにつく白部さん。さあ、レシピ動画をセット! 脳内MP3プレーヤーをスイッチオン! 三分でクッキングする例のBGMスタート!
まずは、キャベツの芯をくり抜き、葉っぱを二十枚ほど茹でまーす。残りは、水で湿らせたキッチンペーパーを芯の部分に詰めて、冷蔵庫に保管~。
茹で上がったら冷水で締め、硬い部分をカット。この部分は、刻んでお皿に取っておく。ちょっと細かい作業だから、刻むのは私の担当。
「さてさて、アメリちゃん。これを、粘り気が出るまでこねこねしてくれるかな?」
牛豚の合いびき肉にお塩と胡椒、そして先ほど刻んだものを入れる。
「おお~! 任せて!」
一所懸命こねるアメリ。頑張れー!
「これでどう!?」
アメリが出来栄えを訊いてくるので、確認。うん、ちゃんとできてるね!
「じゃあ、これをぺしぺししよう~」
十六等分にまとめ、手にサラダ油を塗って一緒にぺしぺし空気抜き。
「えーと……? 続いて、小麦粉を茶こしで薄くふるいます、と」
動画を見ながら、キャベツの片面に軽く小麦粉をふる。
「で、丸めます、と。アメリ、これは一緒にやろう」
くるくると、葉っぱでお肉を巻いていく。巻き終わったら、爪楊枝を突き刺して固定!
鍋に水を張り茹でて、アクを取ったらカットトマト缶、ケチャップ、コンソメキューブ、塩胡椒を入れ、落し蓋と普通の蓋をして、中火で三十分コトコト煮まーす。
待ち時間の間手持ち無沙汰なので、白部さんたちとおしゃべりでもしてましょうか。
「ふう、一段落です。そういえば白部さん、先ほどのご采配お見事でしたけど、小さい子供がご身内にいらっしゃるんですか?」
「ああ、ゴッドレンジャーのときのことですか? 私、もともと小児科志望だったんですよ」
「へえー! そうだったんですか!」
そういえば、親戚も小児科医だものね。
「で、研修先としてT総の小児科で勉強させてもらってたんですけど、そのときにいろいろ子供の扱いを学んだ感じですね。そして研修も終わろうという頃に、CH研究部……今の所属部署ですね。そちらに来ないかと誘われまして」
「なるほど」
「猫も好きなものでしたから、転身して今に至る次第です」
ほほー。白部さんにも紆余曲折あったのねえ。てっきり、最初から猫耳人間の研究部門にいたのかと思ってました。
こんな感じで、四人でとりとめのないおしゃべりをしていると、キッチンタイマーが煮込み終了を知らせてくれる。
「では、よそいますね」
冷蔵庫のロールパンをレンチンしてほんのり温め、ロールキャベツから爪楊枝を抜き取り、パン、フォーク、スプーンと一緒に配膳。飲み物として紅茶もお出しする。
しかし、明日の昼も食べようと思って、多めにお肉とパン買っといてよかったな。
「できましたー。どうぞ、召し上がってください」
「ありがとうございます。いただきます」
「いただきます!」
四人でいただきますの合唱。
「なー、ルリ姉~。これどうやって使うんだー?」
しげしげとフォークを眺めるノーラちゃん。
「それはね、こうやって使うの」
フォークでロールキャベツを刺し、ひと口食む白部さん。
「美味しいです。やはり、料理お上手ですね猫崎さん」
「ありがとうございます」
賞賛に、笑顔で返す。
「おー! やってみる……あち!」
「あー、熱いからふーふーしながら食べてね」
遅まきながら、ノーラちゃんに教える。
「わかった! ふー……ふー……うめぇーッ!!」
例によって絶叫するノーラちゃん。元気だこと。
「ノーラちゃん、あまりうるさくしないの」
「ああ、いいですよ。構いません。でも、お外では静かにね、ノーラちゃん」
「わかったー! なー? こっちはどうすればいいんだー?」
今度はロールパンに興味を示す。
「これは普通にこうやって手づかみで大丈夫よ」
「おー! んぐんぐ……これもうめーな!」
ふふ。良き哉良き哉。
アメリも、「ろーるきゃべつ~、ろーるきゃべつ~、どこどこどーん!」と、へんてこな歌を歌って上機嫌。ほほえま!
食後はお二人を門までお見送り。今日は、白部さんに学ぶところが随分あったな。よーし、もっと子育て上手くなるぞー!
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