下書きは昨夜のうちに完成し、芦田さんに送って詳しい打ち合わせを先ほど終えたところ。さあさあ、作業も終盤、作画ですよ!
すいすい筆を走らせていると、インタホンの呼び鈴が鳴りました。
応対に出るとクロちゃんだったので、門までお出迎えに。
「こんにちは。神奈お姉さん。これ、お菓子です」
「こんにちはー。ありがとうね。まりあさんにお礼言っとかなきゃ」
中に通しダイニングで待っていてもらい、アメリを呼んでくる。
「クロー! こんにちはー!」
「こんにちは。お弁当持ってきたよ」
可愛らしいピンクの包み布を見せる。なんか、唐草模様とかだったらどうしようかと思った。
「じゃあ、私たちもごはんいただくとしましょうか」
お茶を淹れ、私たち用にはお米といかにんじんを配膳して、テーブルを囲む。
「「「いただきます!」」」
三人で合唱。
「クロのお弁当はどんなのー?」
「こんな感じだよ」
お弁当箱の中身はがんもと切り干し大根の煮物、しば漬け、サバの塩焼きの切り身、のりたまふりかけのごはんと、相変わらず幼女のお弁当とは思えない渋さ。
「おお~。美味しそうだね! アメリたちは、いかにんじんっていうの食べるの!」
「へえ。たしかに、イカと人参だね」
そう言い、がんもを食むクロちゃん。わたしたちも食べましょ。
うーん、酸味と干しイカの旨味、人参の歯ごたえが加わり美味しい! 福島の郷土料理らしくて、日本は狭いなんていわれつつも、食文化が豊かだなあとしみじみ思う。
アメリも「美味しい!」とご満悦。
「クロも少し食べる?」
「いいの? じゃあ、少しだけ。代わりに、サバ以外なら何か取っていいよ」
おかずトレード成立。お弁当文化の良きこと哉。アメリは切り干し大根を少しもらいました。
「美味しいね!」
「でしょう? お姉ちゃんの作る煮物、本当に美味しいんだ」
はにかむクロちゃん。相変わらず誰が見ても可愛い。
「いかにんじんも美味しいね。これはお姉さんが?」
「ん? 共同作業で作ったよ。アメリね、ほんとに良くお手伝いしてくれるんだ」
「偉いね、アメリ。ボクも、色々お手伝い頑張ってるよ」
「おおー! クロも偉い!」
ふふ。子供同士の褒め合い、ほほえまだなあ。
食事はのどかに進み、ごちそうさま。クロちゃんのお弁当箱もついでに食洗機で洗ってあげることにし、寝室へ向かいました。
◆ ◆ ◆
「今日は何して遊ぶー? お手玉?」
「お手玉もいいけど、ちょっと面白いもの持ってきたよ」
そう言ってクロちゃんが取り出したのは毛糸で作った輪っか。
「今日は、あやとりをしようかなって」
ほほー。これはまた渋い。国民的漫画の主人公の特技だけど、私自身はやったことないなあ。
「あやとり?」
「輪っかを指で動かしてね、いろんな形を作るの。見てて」
器用に指を入れたり抜いたりしていく彼女。鮮やかな手練に、つい見入ってしまう。
「できた。東京タワー」
おお、これはずごい。たしかに、あの鉄骨が交差した感じの塔が出来上がっている!
「すごいすごい!」
アメリと一緒に拍手すると、ちょっと照れくさそうに俯く。
「これはちょっと難しいから、もっと簡単なのから教えるね。お姉さんもどうですか?」
「あー……面白そうだけど、お仕事がねー。二人で楽しんでて。たまに様子見るから」
「わかりました。じゃあ、やってみようか。まず、こう腕に巻いてね……」
指導を始めるクロちゃん。見守っていたいけど、お仕事大事。頑張りまっしょい!
「おねーちゃん、見てー!」
しばらく原稿に打ち込んでいると、アメリの声。
「んー? どんなのができたのかなー?」
「吊り橋っていうんだって!」
ほほう、たしかにそんな感じのアートができてますねえ。
「上手上手! すごいじゃない、アメリ!」
褒めると、「えへへー」と顔を緩める。
「クロちゃんも、教え方が上手なのね」
「いえ、そんな……。アメリの飲み込みが早いんですよ」
照れて俯くクロちゃん。ああもう、二人ともリアクション可愛いなあ!
「あやとりにはね、協力して作るのもあるんだよ。今度はそれをやってみようか」
照れくささを隠すように、アメリに提案する。こうして、二人のあやとり教室は続くのでした。
その後も、アメリが「ほうき」や「富士山」といった、クロ先生直伝のあやとりアートを見せてくれる。そのたびに、大げさなぐらい二人を褒める私。子供は褒めて伸ばす、これモットー!
三時になったので、クロちゃんが持ってきてくれたおせんべいをお茶と一緒に出す。二人からお礼を言われるけど、持ってきてくれたのクロちゃんだしね。逆に、クロちゃんにお礼を述べる。私もお相伴に預かり、ぽりっとね。うん、美味しい美味しい。おせんべいと緑茶の組み合わせは一つの美学ね!
やがて夕方になり、日が暮れると危ないということで、クロちゃんは洗い終わったお弁当箱を手に帰り支度。
「今日はありがとうございました。楽しかったです。アメリ、遊んでくれてありがとう」
「アメリも楽しかったよ! あやとり面白いね! また、一緒にやろうね!」
「クロちゃん、本当にいろんな遊びを知ってるのね。アメリに色々教えてくれてありがとう」
「いえ、大したことは……。それじゃあ、ボクはこれで」
ぺこりとお辞儀して自転車で去っていく彼女に、手を振って「バイバイ、またねー!」と二人で声をかけるのでした。
さて、今日は晩ごはん何にしようかな。割と和食が続いたから、洋食か中華か。まあ、いつものように現地で決めましょうかね。
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