神奈さんとアメリちゃん

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第三百四十四話 アメリベンジ! ―前編―

公開日時: 2021年9月7日(火) 21:01
文字数:2,609

 とーちゃーく!


 いつものスーパーは、家を挟んで公園の反対側だから少し遠かったけど、まあ数分ですし。


 さ・て。


「アメリちゃん。今日も自由に、何か作ってみますか?」


 するとどうでしょう。意外なことに、「お……おおおお……」と、マナーモードのように震えだしてしまいました。


 この、既視感のあるリアクション。お年玉を大量にもらって、ぷるぷる震えたときのそれだ。このモードのアメリちゃんは、身に余るものに萎縮している証!


「昨日の失敗で怖くなっちゃった?」


 目線の高さを同じにして穏やかに問いかけると、怯えた目で見つめ返しながら、こくりとうなずく。


 ふむ。


 こういう場合、どう接するのが正解なんだろう。


『わかった。じゃあ、今日の料理は私がやるね』


 この選択肢は、多分一番ダメなやつだ。アメリはずっと料理に苦手意識を持って、今まで培ったノウハウごとポイしてしまいかねない。


『じゃあ、今日は前みたいに分担制でお料理しようか?』


 無難といえば無難。一つ前に戻るだけだからね。ただ、アメリの成長が阻まれることは阻まれる。まだ小さな子供なのだから、急がせなくてもいいし、これだけお手伝いできれば十分ではあるけれど。


 ……うん、やっぱり私がかけてあげられる最高の言葉は、これだ。


「アメリちゃん。諦めたら、そこで試合終了ですよ」


 追い詰められたような表情になるアメリ。怖いよね。だから、きちんとフォローも忘れない。


「わからないことがあったら、何でもレシピを見たり、私に訊いていいんだからね。どんな些細なことでもだよ。わからないのは、恥でも悪いことでもないの。『訊くは一瞬の恥、訊かぬは一生の恥』って名言があってね。わからないって言うのは一瞬ためらうだろうけど、あとで大失敗しなくて済むようになるんだよ」


 ぽかーんとした表情で見つめてくる彼女。アメリは向上心が強い。なんでも自分でできるようになろうとしてしまう。一度失敗……挫折は大げさかな? まあ、それは体験したから、次は失敗から学ばせる番だ。


 そして、改めてもう一度問う。


「どう? やってみる?」


 しばし、うつむいて考え込む愛娘。私は、この子の意思を尊重しよう。これでやっぱりやらないと言うなら、無理強いしてまでやらせない。今まで通りでいい。


「……もう一度、やってみる」


 決意に満ちた目で見つめてくる。おお、さっすがアメリちゃん! 立ち直った!


「偉いよ。もう一度言うね。わからないことがあったら、調べたり教えてもらったりするのは全然悪くないことだからね」


 彼女の緊張が解けるまで、頭を撫でる。


 しばらくそうしてると、顔に穏やかさが戻ってきた。


「大丈夫かな?」


「うん」


 力みすぎていない程度にはっきりうなずくので、カートにかごをセット。そしておなじみ、スマホさんでチラシチェーック!


「おねーちゃん」


「はい、なんでしょう?」


 不意に飛んできた呼びかけに応える。


「お買い物するとき、いつもそれ見てるよね。ちゃんと見たほうがいいの?」


「そうねえ……。これで見れるチラシには安売りの品が書いてあるんだけど、そういうものってだいたい旬なのね。だから、その時期美味しいものを知る手がかりになるよ」


「おお~!」


 「訊いて良かった!」と瞳に書いてあるように、目を輝かせるアメリ。


「もちろん、チラシに載ってないからといって美味しくないわけじゃないから、あくまでも参考ね。あそこに紙のチラシがあるから、アメリ用に一枚もらおう」


 チラシ置き場から、チラシを一枚取って手渡す。


「あと、この時期の旬はだいたい私の頭に入ってるから、遠慮なく訊いてね」


「はーい!」


 おお、元気が戻ってきましたね。良きかな良きかな


 このスーパーは青果コーナーのさらに手前に生花コーナーがある。ダジャレじゃないよ。


 で、明日は母の日! カーネーションが売られておりました!


 さっそく、かごに一輪入れてくれるアメリちゃん。


「ありがとうね!」


 にっこり笑顔を向けると、アメリもにっこり笑顔を返してくれる。良きかな良きかな


 さて、カーネーションを入手したところで、アメリシェフ今回は何を買うつもりでしょうと先行する彼女を追っていくと、まずはブロッコリーとプチトマトをゲット。


 おや?


 昨日と同じですね。まあ、アメリちゃんの好物だしね。


 なんて思いながらさらに後をついていくと、お魚には目もくれず精肉コーナーに進み、鶏むねをかごにイン。


 おやおや?


 そして、スパイスコーナーで昨日と同じタンドリーチキンスパイスもイン。


 おやおやおや?


 そして、とどめに日配品コーナーでお豆腐!


 ははあ、昨日のリベンジってわけね!


「おねーちゃん」


「何かな?」


 振り返り声をかけてくるので、返事する。


「いつもの、牛乳とか卵って今日とか明日必要?」


「アメリシェフには夜活躍してもらうとして、パンと牛乳だけあればいいかな?」


「じゃあ、それも買ってくー」


 あや。またお高い牛乳をかごに入れましたよ。ま、たまには連続贅沢もいいか。


「おねーちゃん、他に必要なものあるー?」


「私はないよ」


「じゃあ、レジ行こー!」


 というわけで、お会計。


 一緒に荷詰めして、一路自宅へ~。



 ◆ ◆ ◆



 たっだいま~!


 手洗いのあとは、さっそく荷物を冷蔵庫へ。


「さーて、お昼だけど。今からごはん炊いてたら一時過ぎちゃうから、私がちゃちゃっと作っちゃおうかな」


「おお~。アメリが作るよー?」


「んー。アメリちゃんの志は嬉しいけど、アメリのためにごはん作ってあげるの、私の楽しみなのよ。お昼は作らせてくれないかな?」


 アメリ先生、「うにゅう~……」と唸り、「わかった!」と応じてくれました! 良きかな良きかな


 というわけで、時短の味方、ツナサンド~! ほんとに、ちゃっちゃっと作れるのが魅力よね!


 アメリちゃんも、ものがツナサンドだとわかったら、確かにお手伝いするまでもないと納得いったようで、「うにゅう」と残念なのか、あるいはお手軽すぎてあきれたのか、どういう感情がこもってるのやら謎な声を上げる。


 あとは……ちょうどいい花瓶がないから、空いてる水差しにカーネーションを生けておこう。


 寝室に運んだ後、キッチンに戻り! 紅茶をれる。


「それじゃあ、いただきますしましょうか。いただきます!」


「いただきます!」


 時間がないときは、目玉焼きトーストとツナサンドに限るわねえ。美味しいし、お手軽なのが最強!


 というわけで、食べるほうもお手軽な料理なのでごちそうさま!


 食後の紅茶を堪能した後は、後片付けして歯を磨き、娘とともに寝室へと向かうのでした。

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