スマホで時刻を確認すると、十一時すぎ。
どうしようかな。彼女のことだから、言葉通りすぐに来るだろうし、仕事するにしても中途半端だ。
まあいいや。ちょっと近井さんたちの輪に混じっていよう。
「……すごく親切な方でしてね。あと、パーティー好きで。よく、イベントごとにお誘いいただいてるんです」
「素敵な方ですね~」
今のうちに、優輝さんの快活な人となりを話しておくことに。……映画の趣味は、ちょっと黙っておくけど。
すると、インタホンの呼び鈴が。いらっしゃったようです。
「多分、優輝さんです」
「私もお出迎えしましょうか?」
「いえ。ともちゃんのそばに、大人がいないと心配ですし。ここで子供たちのことを、見ていていただけますと」
「わかりました」
というわけで、インタホンに応対。予想通り優輝さんだったので、お出迎え。
「こんにちは~」
「こんにちは。すみません、突然押しかけて。お詫びと言ってはなんですけど、お菓子と飲み物持ってきました」
「ありがとうございます。お気になさらないでください。近井さんもノリ気でしたし」
互いにお辞儀とご挨拶。
「では、立ち話もなんですから、さっそく中へ」
「はい、お邪魔します」
もうすぐお昼ごはんなので、おやつと飲み物は三時にお出ししよう。
彼女とともに、寝室へ。
「こんにちは~。ええと、挨拶としては一応はじめましてになりますね。角照優輝といいます」
「こちらこそ、はじめまして。近井親子と申します。こちらは、娘の友美です。ご挨拶してましょう」
「はじめましてー! 近井友美です!」
近井さんに続きともちゃんも起立し、互いに深々とお辞儀。
「では、お二人で親交を深めていただく間に、優輝さんのぶんも含めて、新しくお茶を淹れてきますね。もうすぐお昼ですので、いただいたお菓子は三時に」
「ありがとうございます」
「ありがとー!」
新たに座布団を出し、皆からお礼を受けて、ティーカップの載ったトレイを手にキッチンへ。
……戻り!
「お待たせしました。どんなお話をなさってたんですか?」
お礼を再度述べられつつ、配膳しながら尋ねてみる。
「とりあえず、互いの仕事のことについて話してました」
「ゲーム作ってらっしゃるんですね。私も、『シミュライフ』とか好きでして」
「あー、さすがにそこまでメジャーどころではないですねえ」
シミュライフ、とな? 私も最近ゲームの世界に入門した口だから、知らないタイトルだなー。
「どういったゲームでしょう、それ?」
話題を切り出した、近井さんに尋ねてみる。
「名前の通り、人生シミュレーションゲームでして。作ったキャラに、自由に人生を歩ませるんです」
「面白いんですけどねえ。どうも日本だとマイナーで。売上で、世界記録出した作品なんですけどね」
へー。シミュレーションゲームっていうのは知らない分野だけど、文字通りシミュレーションするんだろうな。
ともかくも、口ぶりからすると、優輝さんもそのゲームが好きらしい。
「では、私は仕事に戻らせていただきますね」
紅茶を手にデスクに戻る。
その後、先ほどのシミュライフについて、互いのプレイスタイルを語り合うお二人。優輝さんは、やはりというかパーティーばっかり開いていて、近井さんは世代を重ねて行くのが好きらしい。そんなことができるんだね。互いに、すごくらしいな。
「そういえば、角照さん。映画もご趣味だと伺いましたけど、どういった物がお好きなんですか?」
思わず、ぶばっと紅茶を吹いてしまう。禁断の質問が来てしまった!
四人に心配されてしまったけど、「むせただけですので!」と、慌ててティッシュで拭く。
「あの、優輝さん! 子供がいますので! 近井さんだけに、耳打ちでお願いします!」
続いて、急いで駆け寄り、それこそ優輝さんに耳打ち。
「わかりました」
自分の悪趣味ぶりを把握してるのか、苦笑した後、近井さんに耳打ち。私は仕事に戻ったけど、近井さんが息を呑むのが聞こえる。何を打ち明けたのやら……。
「その、ええと……。個性的なご趣味ですね」
どう返したらいいのかといったご様子の、近井さん。
「ははは。由香里……サークル仲間で友人の一人ですけど、彼女にもよく引かれます。まあ、シナリオ書きですから、反面教師の勉強込みですけれど、なんか好きなんですよね。B級とかZ級って」
B級というのはわかるけど、Z級なんて代物もあるんだ……。いやはや、つくづく色んな意味で懐の広いお方だ。
近井さんは、「はー……」と、感心したのやら、呆れてしまったのやらといったご様子の反応。
とりあえず、映画に関しては互いに趣味が合わないと理解したようで。優輝さん、今度はともちゃんとお話し。キャンプについて語ると、近井さん親子、感心してお話を聞いています。
キャンプ、私のイメージだとみんなで焚き火を囲んでワイワイっていうイメージが強いし、優輝さんもそういうのがお好きなようだけど、ソロキャンプを楽しむ勢というのもいるそうで。へー。
「あっ! そうだ!」
キャンプ語りをしていた彼女が、素っ頓狂な声を上げる。
「あたし、もともと神奈さんのお手伝いをしに来たんですよ。お昼作らせてもらえませんか?」
そういや、もともとそんなお話でした。
「どういうことでしょう?」
「いや、それがですね……」
近井さんの問いに、繁忙期の私を色々とイベントで引っ張り回してしまった罪悪感を語る優輝さん。
「いえ、大丈夫ですよ。私、こういうのの帳尻を、上手く合わせるの慣れっこですし」
なんだか声色が申し訳なさマックスなので、彼女のほうを向き、気に病まなくていい旨を伝える。
「そこをなんとか!」
拝まれてしまった。うーん、彼女もケジメを付けないと、気が済まないのか。
「わかりました、お願いします。家にある物は、自由に使っていただいて構いませんので。メニューもお任せします」
「そうこなくっちゃ!」
パチンと指を鳴らす。どうにもテンションの上下が激しいね。
「アメリ、優輝さんに調味料の場所とか教えてあげてくれる?」
「任せて!」
連れ立って、台所に向かおうとする二人。
「ともも、アメリちゃんと一緒に行きたい!」
「構いませんか?」
近井さんが尋ねてくる。
「はい。近井さんご自身は、どうなさいます?」
「ご迷惑をかけてもいけないので、友美のことを見させていただければ」
「わかりました。私は仕事をしてますので」
というわけで、四人に増えたメンバーは、改めて台所へ。
何が出来上がるのかしらね?
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