保護者会の翌日、今日は真留さんがいつもの時間に、完成したプロット確認のためうちへ来ています。
アメリにまとわりつかれながら、真剣な表情でノートPCを操作してスクロールしていく真留さん。私も緊張状態で、喉がからから。紅茶をひと口飲む。
「これ、史実をどれぐらいいじってます?」
「結構ですね。本来はF駅で偶然出会ったんですけど、直接越してきたときに出会うように変えました」
不意に真留さんから質問が飛んで来たので、かくてるハウスの残り三人、久美さんの変名・美空《みく》、さつきさんの変名・やよい、由香里さんの変名・百合花《ゆりか》との出会いを変更したことを説明する。
「ふむ」と下唇に親指を当て、天井を仰ぎ考え込む真留さん。ややあってこちらを向き、口を開く。
「ねこきっくですから、ミキちゃんの出番は削れないので、由加の出番を削れませんか? マジックナンバー的にギリギリなので」
なるほど。そこを考えていたのか。
「では、こんな感じでどうですか?」
プロットを素早く手直しし、由加は用事で外出中という形にする。再度画面を真留さんに向けると、またも真剣な表情で確認していく。
「……いいと思います。ええ、これでいきましょう」
一息ついて紅茶を飲み、空いた手でアメリの頭を撫でる彼女。アメリが、「うにゅう」という気の抜けた声を出す。
「ネームも直に確認しに来たいのですけど、構いませんか?」
「はい。では、そのように」
チャレンジに対し、石橋を叩いて渡る真留さん。ほんと、慎重派よねー。きっと、学生時代もテスト前に一夜漬けなんかしないで、毎日きっちり予習復習してたんだろーなー。
「紅茶、ごちそうさまでした。じゃあ、アメリちゃん。また今度ね」
カップに付いた口紅を拭い、アメリの頭を再度撫でる。
「うにゅう……真留おねーさんと、もっと遊びたいなあ……」
「ごめんね、こういうときしか来れないから。では猫崎先生、失礼します」
「はい、門までお送りしますね」
というわけで、お見送り。互いに深く礼をして、別れを告げる。
うう、寒っ! もう秋物じゃダメだねー。冬物出さないと。
リビングのカップを片付けながら時計を見ると三時。ちょっと早いけど、今からネームを切るのもなんか半端な感じだし、晩ごはんのお買い物でも行こうかな。
「アメリー、お買い物行きましょー。今日から服を冬物にするからねー」
「おお~!」とテンションアップするアメリを背に、冬物を出していく。
私の冬装備は、ベージュのコートと黒のタイツ。そして、赤い毛糸の手袋とマフラー。これらはお母さんが編んでくれて、上京する年に贈ってもらったもの。未だに愛用しています。……よし、完璧!
「アメリはどうかなー?」
「ちょっと待ってー」
マフラーの巻き方がよくわからないみたいなので、手伝ってあげる。
「よし! アメリちゃんも完全武装だね! じゃあ、れっつらごー!」
「おお~!」
というわけで、おなじみのスーパーへ。
◆ ◆ ◆
いつもの店内BGMに迎えられ、チラシチェーック!
えーと? 今日は日用品、ひき肉、キャベツなんかがお安いです、と。ふむふむ。
こう寒いと、温かいものを食べたいよねー。よし、今日はロールキャベツにしますか!
ひき肉とキャベツ。まずこの二つは必須。あとは、トマトスープとコンソメスープ、どっちにしようかな? ……よし、トマトにしよう!
アメリが、もうすぐ十二月のお小遣いだということで最後の封印を解き、コラ・コーラをかごに入れてくる。おっけー。
さて、あとは主食にロールパンを買って、と。明日の朝食のぶんも買っとこ。たまには、フランスパンとオリーブオイルとか面白いかな。あとは細々した日用品を……。
よし、こんなもんでしょう。お会計~。
◆ ◆ ◆
ただいまーっとゴールイン。手洗いとうがいをして冷蔵庫に材料を入れたあとは、部屋着になってお仕事開始!
しばらくネームをかりかり書いていると、不意にインタホンの音が鳴る。はて、どなたでしょう?
「はーい、どちら様ですかー?」
「こんにちは、白部です。今、よろしいでしょうか?」
「はーい、今出ますねー」
門に出ると、こちらも冬物をまとった白部さんとノーラちゃんが立っていました。
「どうされました?」
「すみません。ノーラちゃんが、どうしてもアメリちゃんと遊びたいというもので……。お忙しい、ですよね?」
「仕事中なのであまりお構いできませんけど、それでよろしければ全然構いませんよ」
「そうですか? すみません。では、お言葉に甘えさせていただきますね。私もご一緒してよろしいでしょうか?」
見れば、ノートPCを抱えている。
「あー、お仕事ですね。わかりました。どうぞどうぞ」
「ありがとうございます。じゃあ、お邪魔させていただきましょう、ノーラちゃん」
「おー! カン姉よろしくなー!」
というわけで、寝室にお通しする。お構いできないとは言ったけど、何もお出ししないのもあれなので、さしあたって紅茶だけ用意。
紅茶を折りたたみ机に配膳すると、白部さんが「ありがとうございます」とお礼を述べる。ノーラちゃんにもお礼を促し、彼女からも「ありがとー!」とお礼をもらう。
「では、私は仕事してますので、何かあったら呼んでくださいね」
デスクチェアに座り、仕事を再開する。私の飲み物は、おなじみコーヒー牛乳。
「キックだー! ゴッドレンジャー!」
持参したロボットで、また男の子チックな遊びを行おうとするノーラちゃん。
「ひらたさんいじめちゃダメー!」
そして、相変わらず悲鳴を上げるアメリ。ふむ、またブロックの出番ですかと立ち上がろうとしたところ、白部さんが「なるほど、そうやって遊ぼうとしてたのね」と、言葉を挟む。
「ねえ、ノーラちゃん。ゴッドレンジャーは正義の味方よね。だったら、ひらたさんを悪者から守ってあげるべきなんじゃないかな?」
「お、おー……。そーだな!」
白部さん上手い! そう言い聞かせれば良かったのか!
「なので……じゃーん! デビルハンド登場~! さあ、悪の手先デビルハンドから、ひらたさんを守ってあげよう~!」
「おおー! 助けてー! ゴッドレンジャー!」
「おー! 任せろー!」
手袋をはめて、指をわしわしする白部さん。すごいなー。二人の溝を、あっという間に埋めちゃった。お見事!
二人のことは、白部さんにお任せして大丈夫かな。お仕事に集中しましょっと。
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