神奈さんとアメリちゃん

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第三百八十二話 気が早いけど、お祝いしよう! ―前編―

公開日時: 2021年10月15日(金) 21:01
文字数:2,316

「こんにちは~」


 娘ともどもちょいとおめかしして、かくてるハウスを訪れました。


 リビングで、優輝さん、久美さん、ミケちゃんから、「こんにちは」とご挨拶を返される。白部さんとまりあさんは、まだみたい。


「由香里さんとさつきさんはどちらに?」


「由香里はまりあサンのお迎え。さつきは料理作ってるよ」


 久美さんが湯呑でお茶を飲みながら答える。へー、じゃあ今日はエスニックな何かを出すんだ。楽しみね!


「ミケー。歌とダンス頑張ってるの?」


「そうよ。聞けば、ミケも本当にアイドルデビューできるかもってハナシじゃない? だったらもう、トックンあるのみよ!」


 アメリの問いに、例によってドヤ顔で胸を反らす彼女。あれかな。人権法絡みかな。たしかに、成立したら本当に、アイドルオーディションが受けられるかもしれない。


「あ、そうだ久美さん。前々から頼んでみたかった、変なお願いがあるんですけど」


「何ぞ?」


「私を一回、投げてみていただけませんか?」


 あまりにもお願いが突飛すぎたのか、眉をしかめて、湯呑を持ったまま停止する彼女。


「いや……受け身の取れねー素人には、技かけんよ?」


「うーん、ダメですか。後学のために、投げられるのってどんな感じか体験してみたかったんですけど」


「んー……投げる直前までならやってもいいけど」


 湯呑をテーブルに置き、あまり気乗りしないけどといった様子で、折衷案をいただく。


「久美さん、創作家って体験大事ですからね。やってあげてくださいよ」


「わかった。物書きって、本当にそういうの好きだよなあ」


 優輝さんの後押しもいただき、いざ実践!


「神奈サン、ちょっと襲いかかってみ?」


「え? ええ? じゃあ……とおー!」


 素人丸出しの動きで突撃!


 すると、胸ぐらと腕を掴まれ、そのまま彼女の腰を中心にグルンと回りそうになってしまいました。


「おお……鮮やか!」


「まあ、今みたいな襲われ方したら、こう投げるかな」


 投げの体勢が解かれたので、互いに衣服を正す。


「柔道の投げってさ、相手の重心を崩すのよ。ちょっと立ってみて」


 言われた通りに直立すると、胸ぐらを掴まれて軽く押され、力がすぐに抜かれる。バランスを崩しかけ、無意識に前に体が動く。


「今、勝手に体が前に動いたっしょ? そうすると踏ん張れなくなるからさ、そこをぶん投げんのよ」


「へー……。たしかに、勝手に体が動いちゃいますね」


 感心すると、久美さんがうんうんとうなずく。


「あの、せっかくですから、寝技の体験も……」


「えー? まあ、寝技なら怪我させることもないし、いいか。テキトーに寝て」


「はい」


 言われた通り、テキトーに仰向けに寝そべってみる。


 すると、久美さんが組み敷いてきました。洒落じゃないよ。


「振りほどこうとしてみ」


 ぬっ! あ、あれ!? びくともしない! 体格は私のほうがいいはずなのに! 動こうとすると、そこを絶妙に押さえられる! やや、これは文字通り手も足も出ない!


「あの……何をなさってるんですか?」


 頭の上から声がするのでそちらを見ると、眉をしかめて、なんともいえない表情の由香里さん。まりあさんとクロちゃんも、ぽかーんと私たちを見下ろしてるゥ! ひょおおお!?


「あ、いや、これはですね! ちょっと組み敷かれる体験をですね!」


 パニックになりながら弁明するも、かえって意味不明な供述に。


「うん、神奈サンは喋らないほうがいい。神奈サンが、柔道の技を受ける体験したいっていうもんだから、実践してたんよ」


 二人で、体を起こす。優輝さん、ソファで声を殺して笑いこらえてるし……。うにゅう。


「はあ」


 呆れ気味な由香里さん。まあ、パーティーの持ち時間にやるこっちゃないわよね。


「作家って、好奇心旺盛ですからねえ。わたしも、今度かけてもらおうかしら」


「まりあサンまで……」


 無邪気にくすくす笑うまりあさんに、ため息を吐く久美さん。


「いやー、神奈さんってほんと、突飛で楽しい方ですよねー」


 優輝さん、まだ笑いこらえてるし……。


 しょうもないというか、ほほえましいというか、そんなやり取りをしていると、インタホンが鳴りました。一番近いので、応対する由香里さん。


「こんにちは。今、開けますね。……白部さんご到着です」


 スイッチひとつで門のロックを外し、最後のゲスト、白部姉妹の到来を告げる。


 ほどなくして、家側のチャイムが鳴ったので、そのまま由香里さんが迎えに行かれました。


「こんにちは。……どうしたんですか?」


 まだ笑いが収まらない優輝さんに、白部さんが不思議そうに尋ねる。


「いや、それがですね~……」


 愉快そうに、さきほどの状況を説明。あうう、ほんの出来心だったんですぅ~!


「まあ、私も研究者ですから、好奇心がうずくと、どうしようもなくなる気持ちは、わからなくないですが……」


 共感半分、なんともいい難い感情半分といった感じの白部さん。


「はは、恐縮です……」


 今さら、どうしようもなく恥ずかしくなって、後頭部を掻く。


「こんにちは~。皆さん、ちょうどお揃いっすね。料理、できたっすよ! ところで、さっきこっちのほうリビングが妙に騒がしかったみたいっすけど、どうかしたんすか?」


「さつき~、それがねえ……」


 あう~。優輝さんの説明で、さつきさんまで笑いだしてしまった。とほほ。


「でも、自分も姉さんに、ジョーネツ的に組み敷かれたいっすねえ……」


 体をくねらせる彼女。


「お前ねえ。口開くと、ほんと九割冗談しか言わないよな」


 呆れる久美さん。仲のおよろしいことで。


「はっはっはっ。冗談と悪ノリに生きるのが自分っすから。それは置いといて、冷めるとあれなんで、来て欲しいっす~」


 手をひらひらさせながら、ダイニングに戻るさつきさん。気を取り直して、彼女謹製のパーティーごはんをいただきましょうか。楽しみですね~。

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