誕生パーティーの翌十時半。今日も今日とて筆を走らせてると、不意にスマホの着信音が。はて誰でしょう? と送信者を見てみると、優輝さんからのお電話。
「こんにちは~。どうされました~?」
「あの、すみません! ミケがそっち行ってしまいました! ご迷惑だからって止めたんですけど……」
「はい? お話がどうにも……」
見えてこないのですがと続けようとしたら、インタホンが連打された。お話の内容から察するに、ミケちゃんだろう。
インタホンで応対するまでもないと判断し、そのまま門に向かうと、むっすり顔のミケちゃんが、イライラしたように門の前で足踏みして立っていた。ロングスカートで見えないけれど、しっぽも振ってそう。
「こんにちは。神奈おねーさん、アメリいる?」
うーん、どうしたのかしら? 昨日、別段二人が揉めたようにも見えないけれど、妙に目が据わってる。
「あー、うん。こんにちは。いるけど……どうしたの、そんなぷんぷんしちゃって」
「そりゃ、怒るわよ。ミケだけのけ者にして、クロとノーラと遊んだそうじゃない!? クロと電話してたら、ポロッとその話が出たのよ!」
はて、何の話だろう……? あっ!
「ひょっとして、勉強会のことかな?」
「どっちでもいいわよ、ミケも呼んでほしかったわ!」
「あー……ごめんね。あれには事情があって……」
もともと、クロちゃんだけが来る予定だったところに偶然白部さんたちが通りかかって、成り行きであのような運びになったこと。ミケちゃんをのけ者にするつもりはなかったことを説明する。
「むう~……」
やはり納得行かない様子。
「ええと、立ち話も何だからとりあえず上がる?」
「もちろん!」
これは絶対引き返す気はないだろうなと思い、とりあえず中に通すことにした。
寝室に連れて行くと、腰に拳を当てて胸を反らし、開口一番「アメリ、今日はミケといっぱい遊びなさいよね!」と、漢字の書き取りをしていたアメリに切り出す。
「おお?」
唐突なミケちゃんの乱入に、きょとんとするアメリ。
「えーとね、こないだクロちゃんとノーラちゃんとお勉強会したよね? それで、のけ者にされたって思っちゃったらしくて……」
「おお~……ごめん、ミケも誘えば良かったね」
「本当よ! だから、今日はミケがアメリを独占しちゃうんだから!」
いやはや、我が娘ながら人気者だねえ。これは、今日は二人に下手に介入せず、気の済むまで遊ばせてあげたほうがいいわね。
「じゃあアメリ、ミケちゃんと遊んでてくれるかな? お茶淹れてくるね」
とりあえず、お茶でも飲んでもらって落ち着かせようっと。
……戻り! 急な来訪だったからお菓子がないけど、紅茶でも楽しんでもらおう。
「お茶が入りましたよー」
はて? ミケちゃんの様子が一転して、なんか照れくさそうにしてる。
「ありがとう、神奈おねーさん。あのね、これアメリがくれたの。お詫びの印にって」
ミケちゃんの手には「うめえ棒」が握られていた。アメリが個人的に買い置きしてたおやつか。
「うん。一緒に食べよう? ミケと一緒に食べたら、きっともっと美味しい!」
キラキラ瞳でミケちゃんを見つめると、ミケちゃんがさらに照れくさそうにもじもじする。なんというフォロー上手。これは天性のものね。
「物に釣られたわけじゃないんだからね! その、アメリが自分の大切なおやつ分けてくれたのが、嬉しいだけなんだから……」
なんだかよくわからないツンデレセリフを言いながら、うめえ棒の包装を剥くミケちゃん。とりあえず、ぷんすかゲージが下がってくれたようで何より。
「じゃあ、ここにお茶置いておくから」
下手に今の空気を壊さないほうがいいなと考え、それだけ告げてデスクに着席する。
さあ、お仕事お仕事……っと、忘れてた! 優輝さんと通話状態のままスマホ放置してた!
まだつながってるな。なんか下手なこと言って怒りを再燃させないように、リビングで話そ。そそくさ~。
「……すみません。通話中だったの忘れてて」
「いえいえ。こちらこそ、突然ミケがご迷惑を。ミケの声が聞こえましたよ。何言ってるのかまでは、聞き取れませんでしたけど」
「アメリの誠実さと機転で、事なきを得たみたいです」
「それは良かったです。あの子、ちょっと癇癪持ちなところがありますから……。『お姉ちゃんだから落ち着こう』って言っても、効き目がまるでないのは参りました」
恐縮する優輝さん。
「神奈さん、多分お仕事中でしたよね? となると、あまり長電話するのも悪いですね」
「そうですねー。普段なら電話しながらでも仕事できるんですけど、ミケちゃんに下手なこと聞かせると地雷踏んじゃいそうですし。今、リビングでお電話してるんですよ」
「なるほど。では申し訳ありませんが、これで失礼します。ミケのことをよろしくお願いします」
電話の向こうで、深く頭を下げている感じだ。
「はい。では、失礼します」
通話オフ。ふう。寝室に戻りましょ。
寝室に戻ると、二人はうめえ棒を食べ終わり、ブロック遊びに興じているところだった。
私は私で、仕事を再開する。
「できた! のもにん!」
アメリ、また変なオブジェ作ってる……。気になってそちらを見ると、相変わらず形容しがたい物体が出来上がっていた。
「これ、ナニ?」
疑問を呈するミケちゃん。ごもっとも。
「えっとね、なんかイタリアに住んでる! カタツムリが好きなの!」
「へー」
ミケちゃんが感心する。多分、ミケちゃんが受け取った「カタツムリ好き」は、アメリの意図と違うんだろうな。アメリは多分「食べるのが好き」という意味で言っていて、ミケちゃんは普通に「好意」だと受け取っている。
その後も、カチャカチャとブロックをいじる二人。
「できたわ! 『NKM33』の千多ちゃんよ!」
続いて完成宣言をしたのはミケちゃん。あー、有名アイドルグループの人ね。名前だけは知ってるわ。
「おお~! 上手!」
ぱちぱちと拍手するアメリ。私も出来栄えを見ようと首をひねるけど、ミケちゃんの陰になっててよく見えないな。代わりに、照れくさそうに後頭部をかいているミケちゃんが目に入る。
アメリが私の影響か、褒め上手になってるようで何より。
そんな感じで先ほどの様子と打って変わって和やかに過ごしていると、スマホのアラームがお昼どきを知らせてきた。
「ミケちゃん、お昼まだよね?」
「ええ。飛び出してきたから……」
ちょっと自分の行いが勢い任せすぎたと恥ずかしくなったのか、ばつが悪そうに言うミケちゃん。
「じゃあ、うちで食べていく? 優輝さんには連絡入れとくから」
「いいの?」
「うん。今日はアメリとずっと一緒にいさせてあげるからね」
そう言うと、さらに恥ずかしくなったのか、紅くなってもじもじする彼女。
「じゃ、キッチンに行こうか」
そんなわけで、今日は三人でお昼ごはんと相成りました。
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