「本当にすみません、友美のわがままで……」
「いえいえ。アメリも勉強漬けで、少しリフレッシュさせたほうがいいかなあって、考えてましたから」
気さくに仰る猫崎さん。先週、友美がアメリちゃんたちと遊びたいと駄々をこねてしまって、「みんな予定があるから無理だよ」って教えたんだけど、それでも収まらず。
ほかのお三方は、月謝を払って習い事をさせているので、さすがに友美のためにそれは言い出すことが出来ずにいました。
もっとも、それを言い出したら、一日宙ぶらりんになってしまう押江先生はどうなるのかとか、問題はあるわけだけれど。
ただ、猫崎さんが彼女に交渉してみたところ、「アメリさんにも休息は必要でしょう」と、ご快諾いただけたそうで。ありがたいことです。
アメリちゃんも友美も、今では小学生。通っている学校も違うので、平日はなかなか会えない。
「おかーさん! アメリちゃん来るんだね! 楽しみ!」
当の友美は、お気楽極楽。親の苦労、子知らずとはいうけれど、友美もアメリちゃんに会うのひと月ぶりだものね。十分、我慢してくれたほうだと思う。
アメリちゃんの明るく快活な人柄は、友美だけでなく、いろんな人の心を引き付ける。
初めて公園で出会ったとき、猫耳にぎょっとしたものだけれど、すぐに人間と変わらない普通の女の子なのだと理解でき、お友達のいなかった友美の最初のお友達になってくれて、とても嬉しかったのを鮮明に覚えている。
友美も、学校で友達を作るようになり、公園仲間の英一くんと美子ちゃんも、うちに遊びに来たり、逆に向こうに伺ったりするような仲になった。
それでもやはり、友美にとってアメリちゃんは特別な存在らしい。
ともかくも、猫崎さんに打診したのが先週のことで、先ほどのは改めての謝罪。アメリちゃんに、お土産持たせたほうがいいよね。
猫崎さんとは多少世間話をして、あとはもうすぐ来る予定の、アメリちゃんを待っている状態。
「掃除、再開していい?」
良夫さんが尋ねてくる。
「あ、うん。ごめんなさいね。せっかくの休日なのに」
「チカちゃん、仕事も友美のこともやってくれてるんだもの。ぼくも、これぐらいやらないとね」
そう言って、掃除機を再稼働。本当に、素敵なパートナー。「良夫」の名は伊達じゃない。
「おかーさん。アメリちゃんまだかな?」
友美は、わくわくモード。
「もうちょっとで来ると思うよ。あ、噂をすれば」
ちょうどいい感じに、インタホンが鳴る。
応対すると、やっぱりアメリちゃんでした。ケイティちゃんリュックから、イカのぬいぐるみの頭……イカだからお尻か。それが覗いている。
「こんにちはー!」
「はい、こんにちは~。今日も元気ねえ。中へどうぞ」
「はーい! お邪魔しまーす!」
アメリちゃんが上がってくる。
「こんにちは。アメリちゃんが来るまでに、掃除終わらなかったなあ。うるさいだろうから、あとで掃除機またかけるね」
そう言って、掃除機を一度片付ける良夫さん。アメリちゃんも、ご挨拶を返す。
「アメリちゃーん! こんにちはー!」
「こんにちはー!」
キャッキャと喜び合う子供たち。
さっそく、二人のぬいぐるみ同士で遊び始めました。
「あ、そーだ! これ、おねーちゃんからです!」
お菓子の包みを取り出すアメリちゃん。
「あら……気を使わせてしまって」
ただでさえ、友美のわがままに付き合わせてしまったのに。
「えっとね、『お気になさらず』だって!」
本当に、皆さん優しい。お土産、結構いいの買ってこようかしらね。
「良夫さん、ちょっとでかけてくるから、友美とアメリちゃんのことお願いしていい?」
「いいよ。いってらっしゃい」
かくして、自転車を走らせるのでした。
◆ ◆ ◆
「アメリちゃん。これ、お土産ね。猫崎さんと一緒に食べて」
カトレーヌさんで調達してきた、バウムクーヘンを机に置く。
「おおー! ありがとうございます!」
「ところで、私もぬいぐるみ遊びに混じっていいかしら?」
「「いいよー!」」
というわけで、子供に混じって遊ぶことに。イカのそめごろうくんが、友美のゾウさんぬいぐるみと恋愛する内容らしいので、賑やかしとして参加。
良夫さんは、窓拭きに移りました。
今日も、こうして平和な一日が過ぎていく。私も、うちの家族も、幸せ者だ。
アメリちゃんたち猫耳人間は、F市では幸運を招く座敷わらしのような扱いを受けているけれど、あながち間違いではないのかもしれないね。
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