神奈さんとアメリちゃん

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第四百七十六話 意外なお客さん! ―後編―

公開日時: 2022年1月25日(火) 21:01
文字数:2,528

「じゃあ、家から材料取ってきますね! すぐに戻ってきますので、ミケちゃんをお願いします」


 ぺこりとお辞儀し、由香里さんはドアを開けて、外へと出て行った。


「アメリ、そっちはどう?」


「切り終わった~」


 由香里さんを見送りつつ、ミケちゃんの様子を見ている間、アメリちゃんは、炊けたお米を切ってくれています。


「ありがとねー」


「お待たせー」


 とてとてと、こちら廊下にやって来る愛娘。


「お疲れ様。じゃ、寝室に戻ってようか」


 逆カルガモ状態で私が最後尾になり、とっとこ寝室に向かうのでした。


 由香里さんが戻ってくるまで手持ち無沙汰なので、ダンスゲームを始めた二人。私はお仕事~。


 でも、ほんとあと一息だな。アシさんたちの背景やモブも完成したし、明日中には終われそう。


 そうしたら、一週間弱は休めるかなー?


 うふふ~。三ヶ月ぶりの、まとまった休みになるな~。


 おっと、弛緩してる場合じゃないですよ。そのためにもお仕事しないと!


 と、気合を入れようとしたとき、「ただいまー」という、由香里さんの声が。さっそく、迎えに行きましょ。


「おかえりなさーい」


「どうも、戻りましたー。でも、神奈さん。鍵はかけたほうがいいですよ」


 彼女が心配そうな表情で言い、靴を揃える。


「やはり、危ないですか?」


「個人的には、短時間の出入りでも、施錠することをおすすめします」


 ふむう。どうも、危機感が薄いのかなあ、私。


「ありがとうございます。以後、気をつけますね」


「はい。何かあってからでは、遅いですから」


「それにしても……材料まで、本当によろしいんでしょうか」


「二人暮らしなら、二人分しか材料ないはずですから。わたしの気晴らしに付き合っていただくんですし、これぐらいは」


 ありがたいことです。


「では、晩ごはんの材料は、明日の昼に回させていただきますね。作業は、何をお手伝いしましょうか」


「あ、大丈夫です。神奈さんは、お仕事なさっていてください」


「ええ、そんな。何から何まで、やっていただくなんて」


「それが、最高の気晴らしなので」


 にっこり微笑む彼女。うーむ。まあ、そういう性分だって把握したからなあ。


「わかりました。お願いします」


「由香里おねーちゃん、アメリお手伝いしようか? 道具とかの場所、わからないでしょ?」


 かかとを上げ下げして、由香里さんに問う愛娘。うずうずしてますね。


「そうね。じゃあ、教えてくれる? でも、悪いけど作業は全部やらせてね。わたしの生きがいなの」


「らじゃー!」


 びしっと敬礼!


「アメリが台所行くなら、ミケも行くわ!」


「じゃあ、ミケちゃんも見ててね」


 むう。一人ぼっちか。でも、アメリの言う通り、道具も調味料も、勝手が違うだろうからね。


「じゃあ、由香里さんに教えてあげてね」


「任せて!」


 しゅびっと挙手! いちいちムーブが可愛い。


「では、後はお任せしました」


「はい。任されました! 完成を、楽しみにしていてください!」


 互いに一礼し、私は寝室に戻るのでした。



 ◆ ◆ ◆



 すらすら……。


 むーん、見える場所にアメリがいないと、どうも調子が狂うな。でも、それじゃダメよね。学校に通わせたい、なんて言っておきながら。


 訓練だと思って、このあたりから慣れていこう。


 すいすい……。


 コーヒー牛乳美味しいな。


 こつこつ……。


「おねーちゃーん!」


 がちゃりとドアを開ける音とともに、アメリの声! なんだか、すでに懐かしい……。


「アメリ~! 会いたかったあ~!」


 椅子をくるりと反転させ、抱き寄せる。


「おおー。あのね、ごはんできたよ!」


「ありがとう。今、行くね」


 作業を保存し、PCをスリープに。では、参りましょうか。



 ◆ ◆ ◆



「おまちどうさまでした! どうぞ~」


 すでに配膳が終了しており、私を待つだけの状態だったみたいだ。


「お疲れ様でした。カレイのあんかけですか?」


「はい、中華風にしてみました」


 あとは、こちらも中華風の溶き卵スープに、烏龍茶。


「アメリちゃんから、いろいろ配置や使い方を教わりました」


「お見事ですねえ。ガスコンロですから、勝手が違って、大変じゃありませんでした?」


 アメリと横並びに着席。


「いえ、実家はガスだったので、それほど。じゃあ、いただきましょうか。いただきます!」


 由香里さんの音頭取りで、いただきますの声が続く。


 じゃあ、さっそくカレイを……。あらやだ、すっごく美味しい!


「すごく美味しいです!」


「ありがとうございます」


 微笑む、本日のシェフ。子供たちも、美味しい美味しいと食んでいます。


 スープもいいお味~。


 ん? ミケちゃんが不満げな顔でこちら……というか、アメリを見てるな。


「ねー、アメリ。何か気づいたことなーい?」


 これみよがしに、側頭部をアピール。ははあ、リボンについて言及してほしいのね。


「おお? ……? おお! リボンに変わってる!」


「ふっふーん、やっと気づいてくれたわね。でもさすが、ミケの妹だわ!」


 満足げな彼女。ふたたび食事に戻る。


「おお~。気づかなかった……! アメリの観察眼もまだまだだ……!」


 この展開で観察眼という、無駄に渋い言葉が飛び出すとは。由香里さん、ツボに入っちゃってくすくす笑ってるし。


「アメリ。あなたもオンナなんだから、オシャレには気を配ったほうがいいわよ」


 得意げなミケちゃん。アメリが、私みたいな干物にならないように、気をつけないとなー。


 そんな感じで楽しい食事も終わり、後片付け。これも、由香里さんが食洗機の使い方を教わって、やってしまいました。


「ふー……。今日は、ほんとにのびのびできました! ありがとうございます!」


「いえいえ。こちらこそ、いろいろお世話になるばかりで」


「やっぱり、それがわたしの最高の休息みたいで。おかげさまで、気持ちが軽いです!」


 爽やかな表情で、伸びをする彼女。


「じゃあ、帰ろうかミケちゃん」


「むー……。もーちょっと、アメリと遊んでたかったけど……。またね」


「では、門まで送りますね」


 外に出ると、真夏なのに、もうすっかり陽が落ちてました。


「あー、もうこんな時間なんですねえ。長居してすみません」


「いえいえ。またいつでも、いらしてください」


「では、失礼します」


 互いにお辞儀し、お隣に帰っていく二人を見守る。


「ふう。じゃあ、私たちも戻ろっか」


「うん!」


 こうして、意外な来客を迎えた一日は、終わろうとするのでした。

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