「じゃあ、家から材料取ってきますね! すぐに戻ってきますので、ミケちゃんをお願いします」
ぺこりとお辞儀し、由香里さんはドアを開けて、外へと出て行った。
「アメリ、そっちはどう?」
「切り終わった~」
由香里さんを見送りつつ、ミケちゃんの様子を見ている間、アメリちゃんは、炊けたお米を切ってくれています。
「ありがとねー」
「お待たせー」
とてとてと、こちらにやって来る愛娘。
「お疲れ様。じゃ、寝室に戻ってようか」
逆カルガモ状態で私が最後尾になり、とっとこ寝室に向かうのでした。
由香里さんが戻ってくるまで手持ち無沙汰なので、ダンスゲームを始めた二人。私はお仕事~。
でも、ほんとあと一息だな。アシさんたちの背景やモブも完成したし、明日中には終われそう。
そうしたら、一週間弱は休めるかなー?
うふふ~。三ヶ月ぶりの、まとまった休みになるな~。
おっと、弛緩してる場合じゃないですよ。そのためにもお仕事しないと!
と、気合を入れようとしたとき、「ただいまー」という、由香里さんの声が。さっそく、迎えに行きましょ。
「おかえりなさーい」
「どうも、戻りましたー。でも、神奈さん。鍵はかけたほうがいいですよ」
彼女が心配そうな表情で言い、靴を揃える。
「やはり、危ないですか?」
「個人的には、短時間の出入りでも、施錠することをおすすめします」
ふむう。どうも、危機感が薄いのかなあ、私。
「ありがとうございます。以後、気をつけますね」
「はい。何かあってからでは、遅いですから」
「それにしても……材料まで、本当によろしいんでしょうか」
「二人暮らしなら、二人分しか材料ないはずですから。わたしの気晴らしに付き合っていただくんですし、これぐらいは」
ありがたいことです。
「では、晩ごはんの材料は、明日の昼に回させていただきますね。作業は、何をお手伝いしましょうか」
「あ、大丈夫です。神奈さんは、お仕事なさっていてください」
「ええ、そんな。何から何まで、やっていただくなんて」
「それが、最高の気晴らしなので」
にっこり微笑む彼女。うーむ。まあ、そういう性分だって把握したからなあ。
「わかりました。お願いします」
「由香里おねーちゃん、アメリお手伝いしようか? 道具とかの場所、わからないでしょ?」
かかとを上げ下げして、由香里さんに問う愛娘。うずうずしてますね。
「そうね。じゃあ、教えてくれる? でも、悪いけど作業は全部やらせてね。わたしの生きがいなの」
「らじゃー!」
びしっと敬礼!
「アメリが台所行くなら、ミケも行くわ!」
「じゃあ、ミケちゃんも見ててね」
むう。一人ぼっちか。でも、アメリの言う通り、道具も調味料も、勝手が違うだろうからね。
「じゃあ、由香里さんに教えてあげてね」
「任せて!」
しゅびっと挙手! いちいちムーブが可愛い。
「では、後はお任せしました」
「はい。任されました! 完成を、楽しみにしていてください!」
互いに一礼し、私は寝室に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
すらすら……。
むーん、見える場所にアメリがいないと、どうも調子が狂うな。でも、それじゃダメよね。学校に通わせたい、なんて言っておきながら。
訓練だと思って、このあたりから慣れていこう。
すいすい……。
コーヒー牛乳美味しいな。
こつこつ……。
「おねーちゃーん!」
がちゃりとドアを開ける音とともに、アメリの声! なんだか、すでに懐かしい……。
「アメリ~! 会いたかったあ~!」
椅子をくるりと反転させ、抱き寄せる。
「おおー。あのね、ごはんできたよ!」
「ありがとう。今、行くね」
作業を保存し、PCをスリープに。では、参りましょうか。
◆ ◆ ◆
「おまちどうさまでした! どうぞ~」
すでに配膳が終了しており、私を待つだけの状態だったみたいだ。
「お疲れ様でした。カレイのあんかけですか?」
「はい、中華風にしてみました」
あとは、こちらも中華風の溶き卵スープに、烏龍茶。
「アメリちゃんから、いろいろ配置や使い方を教わりました」
「お見事ですねえ。ガスコンロですから、勝手が違って、大変じゃありませんでした?」
アメリと横並びに着席。
「いえ、実家はガスだったので、それほど。じゃあ、いただきましょうか。いただきます!」
由香里さんの音頭取りで、いただきますの声が続く。
じゃあ、さっそくカレイを……。あらやだ、すっごく美味しい!
「すごく美味しいです!」
「ありがとうございます」
微笑む、本日のシェフ。子供たちも、美味しい美味しいと食んでいます。
スープもいいお味~。
ん? ミケちゃんが不満げな顔でこちら……というか、アメリを見てるな。
「ねー、アメリ。何か気づいたことなーい?」
これみよがしに、側頭部をアピール。ははあ、リボンについて言及してほしいのね。
「おお? ……? おお! リボンに変わってる!」
「ふっふーん、やっと気づいてくれたわね。でもさすが、ミケの妹だわ!」
満足げな彼女。ふたたび食事に戻る。
「おお~。気づかなかった……! アメリの観察眼もまだまだだ……!」
この展開で観察眼という、無駄に渋い言葉が飛び出すとは。由香里さん、ツボに入っちゃってくすくす笑ってるし。
「アメリ。あなたもオンナなんだから、オシャレには気を配ったほうがいいわよ」
得意げなミケちゃん。アメリが、私みたいな干物にならないように、気をつけないとなー。
そんな感じで楽しい食事も終わり、後片付け。これも、由香里さんが食洗機の使い方を教わって、やってしまいました。
「ふー……。今日は、ほんとにのびのびできました! ありがとうございます!」
「いえいえ。こちらこそ、いろいろお世話になるばかりで」
「やっぱり、それがわたしの最高の休息みたいで。おかげさまで、気持ちが軽いです!」
爽やかな表情で、伸びをする彼女。
「じゃあ、帰ろうかミケちゃん」
「むー……。もーちょっと、アメリと遊んでたかったけど……。またね」
「では、門まで送りますね」
外に出ると、真夏なのに、もうすっかり陽が落ちてました。
「あー、もうこんな時間なんですねえ。長居してすみません」
「いえいえ。またいつでも、いらしてください」
「では、失礼します」
互いにお辞儀し、お隣に帰っていく二人を見守る。
「ふう。じゃあ、私たちも戻ろっか」
「うん!」
こうして、意外な来客を迎えた一日は、終わろうとするのでした。
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