失敗したな。ごはん炊いてる時間ないじゃない。
パンは朝昼と食べたから、麺あたりかなー?
「スパゲッティー、お蕎麦、おうどんだったらどれがいい?」
子供たちにアンケートを取ってみる。
「お蕎麦!」
「うどん!」
アメリとノーラちゃんで意見が分かれてしまった。
「うーん、じゃあじゃんけん!」
ぽん! とやった結果、ノーラちゃんの勝ち。
「じゃあ、おうどんね」
そんじゃ、おなじみ乾燥わかめでも使って、冷やしわかめうどんでも作りますか。
鼻歌を歌いながらうどんを茹でていると、スマホに着信が。
送信者は白部さん。おお、やっと連絡が。
「こんばんはー」
「こんばんは! 遅くなってすみません! あれから、学会員で緊急の会合が入ってしまって、連絡する暇がありませんで……。やっと開放されました」
「お疲れ様です」
本当に、声がお疲れだなあ。
「ノーラちゃんはどうしてますか?」
「これから晩ごはんです。おうどん茹でてますよ」
鍋をぐるぐるかき混ぜながら答える。
「ありがとうございます。八時すぎには帰れると思うんですけど、それまで面倒見ていただけますか?」
「はい、うちは大丈夫です。お気をつけてお帰りくださいね」
「お手数をおかけします。では、失礼します」
通話終了。彼女も大変だなあ。私だったら、周りの時間に振り回されながら動くって無理だろうな。この八年で、すっかり身についたフリーランススタイルよ。
「ノーラちゃん、白部さんから。八時頃お帰りですって」
「おー! ルリ姉にやっと会える!」
バンザイする彼女。ふふ。アメリ大好きなノーラちゃんだけど、やっぱり白部さんが一番よね。
タイマーが鳴り、おうどんとわかめが茹であがりました。流水で締めましょー。
「はーい、できあがりでーす。簡単料理だけど、勘弁してね」
めんつゆとお茶を注ぎ、配膳。いただきます宣言すると、子供たちも続く。
薬味は、私がわさび、アメリは生姜、ノーラちゃんはなしと、見事にバラバラ。
おなじみの、「うめー」シャウトをするノーラちゃん。超お手軽料理なのに恐縮です。
「足りなかったら、おかわり茹でるからね」
ずるずる。こうやって、素朴なおうどんをすするのも、たまにはいいものです。
二人とも、ダンスゲームでカロリーをだいぶ消費してたのか、さっそくおかわりをお願いしてきました。
手早く茹でて、二杯目を提供。
食べ終わるとお腹も完全に膨れたようで、ごちそうさま宣言。ゆっくりお茶を飲んだ後は、歯磨きタイム。
食休みは、私は引き続きお仕事。二人は読書と雑談。
「そうだ。ルリ姉がさ、なんかアルカリ? とかいうので、エレメントレンジャーグッズを集めてくれてるんだ!」
「へー。結構集まるものなの?」
ノーラちゃんがエレメントレンジャーに言及したので、つい会話に割り入る。
「うん、本とか人形とか! エレメントブレードも買ってもらった!」
番組が終わって久しいけど、そのぶん持て余しているご家庭もある。こうして、個人売買サイトで、必要としている人のところに行き渡りやすくなったのは、いい世の中ですねえ。
「でさ! 今度、エレメントレンジャーVSコンチュウジャーの映画があるんだ! コンチュウジャーはともかく、エレメントレンジャーにまた会えるの、すっげー嬉しい!!」
「あらー、良かったじゃない。それは嬉しいわねえ。いつ頃やるの?」
「七月! 夏休み? とかいう時期にやるんだって!」
そっかそっか。夏休みなんて十年前に経験したのが最後だけど、もうすぐそんな時期なんだなあ。
「『るるる』の、あの映画館でやるのかしらね?」
「ルリ姉によると、そーらしい」
るるる最上階には、結構立派な映画館がある。
「映画かー。私も、たまにはおっきなスクリーンで何か見たいなあ」
うーんと伸びをして独り言。今はアメリと一緒だから、二人で楽しめるものがいいなあ。
「映画っていえばミケがね、お尻の怪獣の映画見たって言ってた!」
出たわね、優輝さんコレクション! 言ったらあれだけど、またぞろ悪趣味そうな代物ね……。
一時間経ち食休みも済んだので、三人でボクササイズ! 二人とも随分踊ったでしょうに、元気元気。
例によって、私はビリでした。とほほ。まあ、カロリー消費が目的ですからね。くすん。
そんな感じに夜を過ごしていると、インタホンの呼び鈴が! お、ひょっとしなくても!
「はーい、どちら様でしょう?」
「お待たせしました、白部です!」
「はーい、今出ますねー」
リビングから寝室に舞い戻る。
「ノーラちゃん! 白部さん戻られたよー。一緒に門に行きましょー」
「おー! やっと帰ってきたー!」
心の底から嬉しそうなノーラちゃん。良き哉良き哉。
三人で、白部さんを出迎える。
「おかえり、ルリ姉ー!」
「ただいまー! いい子にしてた?」
抱き締め合う、白部姉妹。
「猫崎さん、今日は本当にお世話になりました」
ノーラちゃんの頭を撫でながら、お辞儀される。
「いえいえ。ノーラちゃん、ほんとにいい子にしてましたよ。ねー?」
「おー! いい子にしてたぞー!」
「そっかー、偉かったねー。あ、そうだ」
ノーラちゃんから一度手を離し、紙袋を渡してくる彼女。
「お土産買ってきました。あとで召し上がってください」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。いただきますね」
「では、これ以上お邪魔してもいけないので。ご挨拶もそこそこですが、失礼しますね。今日は、本当にありがとうございました」
深々とお辞儀されるので、こちらも「いえいえ。いつでも頼ってください」とお辞儀を返す。
「じゃ、帰りましょ。失礼しますね」
「おー! またなー!」
手をぶんぶん振り、白部さんと手を繋いで、向かいに去っていくノーラちゃん。
私たちも、「またねー!」と手を振り返す。仲良し姉妹は、ドアの向こうへと消えました。
「楽しかったー!」
「そうだね。また遊びに来てほしいね」
ちょっと名残惜しそうな、愛娘の頭を撫でる。
「さ、アメリちゃんも、もうすぐ寝る時間ですよ。戻りましょ」
「はーい」
私たちも部屋へと戻り、入眠前のくつろぎタイムを送るのでした。
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