神奈さんとアメリちゃん

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第四十八話 漫画家さんの職場拝見 ―後編―

公開日時: 2021年4月18日(日) 10:01
文字数:2,701

「ただいま~! 待たせてごめん!」


 角照さんが、入り口で奥に呼びかける。すると、とてとてと走ってくる二つの足音と、ぺたん、ぺたんというゆっくりした足音が近づいてくる。その間、ひさしの下で傘の水滴をくるくるとひねって落とす。松平さんと木下さんも同様。


「優輝~! おっそーい! カタツムリより、ずっと遅い!!」


「おおー! おねーちゃんも来たんだ!」


「そーだぞー。ミケ子もアメ子もずーっと待ってたんだからなー。ウチはともかく、ちびっこたちを待たせるんじゃないよ」


 ミケちゃんが一着。アメリが二着。やや遅れて、斎藤さんが裸足でぺたぺたとゆっくり歩んで来る。ミケ子とアメ子ってミケちゃんとアメリのこと? 斎藤さんらしい、なんともいえないあだ名の付け方だ。ただ、親しみがこもってるのは伝わってくる。


「だから、ごめんなさいってば。お昼ですけど、ピザ取りましょう! ミケの大好きなテリヤキチキンとエビマヨも頼むからね」


「そ……それならしょうがないわね!」


 そっぽを向いてすねたふりをしつつも、しっぽがピンと立っている。わかりやすいなあ。


「あ、冷凍とかじゃないんですね」


「最近は冷凍でも美味しいの割とありますけど、せっかくですからね。あと、うちに冷凍ピザのストックもないので。猫崎さんも、好きなの選んでください」


 話しながらリビングのソファに着席。宅配ピザのチラシを見せてもらう。


「では遠慮なしということで、ミックスベジタブル&ペパロニのバジルソースをお願いします」


 これには、ナス、トマト、オリーブ、マッシュルームという私の好きな野菜がいっぱい載っている。遠慮なしで野菜だらけなあたり、自分で言うのも何だけど私らしい。


「了解です。それ二ピースぶんてとこですね。Lサイズの六分割タイプを頼むんで。あたしはミケのぶんの残り片方ずつでいいかな」


「Lって十二ピースだよな? じゃあウチは、別枠ってことでスペシャルミートピザサンド頼むわ」


 こうしてめいめい好きなものを選んでいく中、最後まで決まらずにいるアメリ。


「どうしたの?」


「んー……どれもおいしそう……。決めらんない!」


「アメリ、お魚好きだよね。このサーモン&クラブなんてどう?」


「なーにこれ?」


 チラシの指差した先を興味深そうに見る。


「鮭とカニ。どっちも美味しいよ」


「おお~! じゃあそれにする!」


「じゃあ全員決定かな。飲み物はうちに色々あるんで、頼まなくていいですね」


「あ、フライドチキンも追加してくれ」


 斎藤さんが挙手して、スマホでオーダーを入力していた木下さんに、もう一品ねじ込む。


「姉さん、その小さな体によくそれだけ入るっすね」


「小さなは余計だ。今朝もかなり筋トレしたからな。体がタンパク質とカロリー求めてんだよ」


「了解です。……もう追加ないですよね? では、注文します」


 注文を確定する木下さん。


 一人暮らしだったものねえ。宅配ピザとか食べるの、ほんと久しぶり。


「三十分で来るって」


「それまで何してるっすかね?」


「雑談で良くね? JANGOはもう、嫌ってぐらい遊んだわ」


 斎藤さんがげっそりとした表情を見せる。まあ、ちびっこたちのペースに合わせてたら遊び疲れちゃうよね。ありがとうございます。そして、お疲れ様でした。


「あ、そうだアメリ。JANGOどうだった?」


「楽しかった!」


 それはもう嬉しそうに、キラキラした大きな瞳で感想を述べる。


「アメ子の抜き方面白いよ。最初めっちゃビビりかと思ったら、どんどん強気になって、最後にはだいたいどんがらがっしゃーん。普通、逆だけどねー」


 開いた両手のひらを肩口のあたりで上に向けて、肩をすくめ渋い顔で首を横に振る斎藤さん。


たわー・・・が崩れちゃうの、面白い!」


 にぱーっと明るくて可愛い笑顔を浮かべる。そういう遊びじゃないんだけどなあ。ま、本人が楽しいならいっか。


お姉ちゃん・・・・・のアドバイスきちんと聞かないから負けるのよ」


 胸を反らして苦言を呈するミケちゃん。この場合のお姉ちゃんって、多分斎藤さんじゃなくてミケちゃん自身のことだろうな。彼女、みんな呼び捨てだし。


「お、おお~? 勝てるよーに頑張る……!」


 妙に気合が入るアメリ。ほんと、頑張り屋さんだねえ。よしよしと頭を撫でると、例によって「うにゅう」と気の抜けた声を上げる。


 その後はおまけの取材ということで、原稿料や印税だとか収入といった、さらにちょっと立ち入った質問に答えました。子供たちの前で話すにはナマナマしい話な気もするけど、別に教育に悪い内容でもなし。問題ないでしょう、うん。


 そんな感じで時間を潰していると、インタホンの音。ちなみにカメラ映像が映るタイプで、さすが本来高級物件。


「はーい、今取りに行きまーす」


 応対に出た角照さんが、玄関のほうに向かう。ピザが来たみたいね。あー、お腹空いた。


 ややあって、ピザとサイドメニューの箱を手に戻ってくる彼女。皆が、待ってましたとばかりに声を上げる。


「飲み物取ってきますね」


 入れ替わりに、木下さんが台所に向かう。彼女も少しして、お手拭きとコーラとアルピス・ソーダ、そして私と斎藤さん用にマスペの載ったお盆を手に戻ってくる。


「じゃあ、いただきますしましょう。いただきます!」


 角照さんの声で、皆でいただきますをする。うん、宅配ピザもたまに食べると美味しいなあ。


「おお~! にゅ~って伸びる!」


 皆を真似てつまんで食べていたアメリが、伸びるチーズに驚く。


「美味しい!」


 そして、美味しさに瞳を輝かせる。いちいちリアクションが可愛いなあ、もう。


「いやー、みんなで食べると、ピザも一段と美味しいですよね。今度、ピザ焼けるぐらい大きなレンジでも買ってみようかな」


「優輝ちゃんって、ほんと何でも買いたがる星人っすよねえ」


 楽しげな角照さんに、相槌を打つ松平さん。


「そういえば、こういう場合の支払いって、どう分担してるんですか? やっぱり割り勘で?」


「ああ、同居するにあたって、生活費をまとめて扱う口座作ったんです。そこから共通の支出を出してる形ですね」


 素朴な疑問に、角照さんが答えてくれる。へー。


 こんな感じでピザパーティーは和やかに進行していきました。



 ◆ ◆ ◆



「アメリの面倒を見ていただいた上に、ピザまでご馳走になってしまって……。本当にありがとうございました」


「いえいえ。こちらこそ、なんだかずいぶん立ち入った質問にまでお答えいただいて」


「今度は、私からも何かご馳走させてくださいね。では、お邪魔しました」


「ばいばーい! ミケも久美おねーちゃんも、また遊ぼーねー!」


 互いにお辞儀を交わし、子供組は仲良くバイバイ。


 短い距離だけど、アメリと相合い傘で帰りました。


 近いうちに、アメリにも可愛い傘買ってあげないとね!

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