優輝さんと手分けしてお掃除中。浴槽を洗っていると、インタホンの呼び鈴が。
「すみませーん、優輝さん出られますかー?」
優輝さんはリビングで拭き掃除をしていたはずなので呼びかけると、「はーい」と返事をいただく。由香里さんとまりあさんが戻ってきたのかな。泡を流して……と。よし! お風呂場終わり!
浴室から出ると、ちょうど優輝さんが玄関に向かうところと鉢合わせした。
「まりあさんですか?」
「はい。診察が終わったみたいですよ」
「ご一緒しますね」
二人で門へ向かう。
あいかわらずぐったりしているまりあさんを三人で補助しベッドに寝かせた後、詳しい話を由香里さんから伺う。もっとも、路駐状態なのであまり長話はできないけれど。
「ええと、結論からね。いわゆる風邪。熱が高いけど、インフルではないって。これ、お薬」
由香里さんが、リビングのテーブルに薬袋の入ったビニールを置く。アメリとクロちゃんも同席。
「で、優輝ちゃんと神奈さんはどうします?」
「一人じゃほっとけないよね」
優輝さんが考え込む。
「それなんですけど、私が明日の朝まで泊まり込みで看病しようかと思うのですけど、いかがでしょう? つい先日、お仕事はけましたし……。まだ、原稿の可否は見てないんですけどね」
「あたしや由香里がいなくて大丈夫ですか?」
心配そうな優輝さんと由香里さん。
「ええ、あとはおかゆ作るぐらいですし、本当に何かあったときのために、やはり誰かいたほうがいいですし。優輝さんたちはお仕事に専念していただきたいです」
「恐縮です。でも、クロちゃんを同じ部屋で寝かせるわけにはいかないですよね」
「ですね。なのでクロちゃんと、あとアメリを今夜いっぱい預かっていただければと」
勝手に決めていいものかとも思うけど、どう見てもまりあさんはクロちゃんをお世話できる状態ではない。
すると、アメリが今にも泣き出しそうに、不安をありありと顔に表す。
「やだ……おねーちゃんと一緒にいたい……!」
「ごめんね。まりあさんの風邪が感染っちゃうかもしれないの。アメリもクロちゃんもまだ抵抗力……風邪に耐える力が弱いから、私はそれが心配。また、こないだみたいになったら嫌でしょ? あと、寝床の問題もあるから」
ぎゅっとアメリを抱きしめ、頭を撫でる。
「私だって、アメリと離れるのは辛いけど、アメリは強い子だって知ってるよ。だから、一日だけ優輝さんのところでお世話になって」
「……わかった。明日になったら、すぐ会いに来るね」
アメリもやっと承諾してくれた。
「元気が出るおまじない」
ちゅっと、額にキスをする。
「じゃあ優輝さん、二人をお願いします」
「わかりました。クロちゃん、必要なものがあれば用意してくれるかな?」
「お姉ちゃんに挨拶してきていいですか? あと、松風にお水も」
クロちゃん、ずいぶんとしっかりしている。気弱だけど芯が強いタイプなんだね。
「松風?」
「ボクが育ててる盆栽です」
クロちゃんが、優輝さんの疑問に答える。
「了解。着替えもあれば持ってきてね」
「はい」
とてとてと寝室に向かうクロちゃん。
「じゃあ、あたしたちは車でクロちゃんを待っていますね。行こう、アメリちゃん」
アメリが抱きついてきたので、抱きしめ返して頭を撫でる。
「アメリ、優輝さんたちの言うことをよく聞くんだよ。これ、スペアキーね。使い方は優輝さんたちに教わって」
「うん……!」
手を振り、三人を見送る。
紙袋を手に戻って来たクロちゃんがベランダから出て行き、松風に水を注ぐ。
再度戻ってきて、「神奈お姉さん、お姉ちゃんをよろしくお願いします」と、ぺこりと頭を下げてくる。
「クロちゃんも元気でね」
頭を撫でると、「ありがとうございます」と言って再度ぺこりと頭を下げ、玄関へと向かう。
私とまりあさんだけになったので、寝室のまりあさんに声をかける。
「まりあさん、クロちゃんは明日まで優輝さんに預かっていただくことになりました」
「すみ、ごほっ、ません。お手数、ごほっ、かけます。ごほっごほっ」
「あー、無理に喋らないで下さい。今、おかゆ作りますね。食べられますか?」
横に首を振るまりあさん。
「じゃあ、牛乳持ってきますね。冷蔵庫にあったので。それでお薬飲んで下さい」
台所へ向かう。まりあさん、心配だな。早く良くなってほしい。
寝室に牛乳とお薬を運び、押し入れから毛布を貸していただく。
「リビングにいますので、何かあれば呼んでください」
声をかけ、リビングへと引っ込む。
◆ ◆ ◆
朝に続き、お昼も牛乳しか飲めなかったまりあさんだけど、お薬が効いたのか夕食はおかゆを食べられるぐらいまで回復した。
私もありもので簡単なお昼と夕食をいただき、スマホの電池が切れるとまずいので、音を絞ったテレビを見ながらソファに横になる。
アメリがそばにいないって、すごく寂しいな。アメリも今頃、私のこと考えてるんだろうな。
でも、もっと不安なのはまりあさんとクロちゃんよね。それを考えたら、元気な私たちは恵まれていると思う。
疲れたせいか、まだ八時頃なのにうとうとしてしきた。こういうときは無理しないほうがいいね。消灯し、クッションを枕に毛布をかけると、眠りに落ちていく。
◆ ◆ ◆
ピンポーン。
(ん……)
ピンポーン。
(あ、そうだ。まりあさんのおうちに泊まってたんだっけ)
起き上がり、応答する。
「おはようございます」
優輝さんの声だ。
「おはよ-ございます……」
ふわあ、と大あくび。
「ほんとに朝、弱いんですね。アメリちゃんとクロちゃんを送りに来ました。門、開けてもらえますか?」
苦笑気味に話す優輝さん。のったりと門へと向かう。
門を開けると、優輝さんとバンが視界に入る。
「おねーちゃーん!!」
後部座席から降りてくるアメリを見ると、一発覚醒! ひしっと抱きしめ合う。
「まりあさんの様子はどうですか?」
「はい、夜にはだいぶ落ち着いてました」
「じゃあ、車の方はさつきに任せて、ちょっと今後の方針についてまりあさんと話しましょう」
さつきさんが運転席から手を降って挨拶してくる。クロちゃんも降りてきた。
では、中に戻りましょうか。
◆ ◆ ◆
寝室のドアをノックすると、「おはようございます。どうぞ」とのお返事。ドアを開けると、まりあさんが上半身を起こしていた。
「おはようございます。まりあさん」
「おはようございます。お加減いかがですか?」
「おかげさまで、昨日よりはだいぶ楽になりました……こほっ」
優輝さんの問いに答えるまりあさん。まだ完治には遠いけれど、昨日に比べるとだいぶ咳が軽い。
「クロちゃん、とてもいい子にしてくれてましたよ。それで、今後の方針についてご相談をと思ったんですけど、今大丈夫ですか?」
「はい、こほっ、大丈夫です」
「やっぱり、クロちゃんのお世話無理そうですよね。差し支えなければ、治るまでうちで預かろうと思うんですけど、いかがでしょう?」
「こほっ、そうですね。今の私では、自分の世話もままならないですから……。クロちゃんを、こほっ、お願いします」
ぺこりと頭を下げるまりあさん。
「わかりました。何かあれば、すぐ呼んで下さい」
「では私は、おかゆを三食ぶん作ってから帰りますね。レンチンすれば食べられるようにしておきますから」
「ありがとうございます、こほっ」
うーん、心配だけどアメリのこともあるし、あまり家を留守にもできないからね……。
こうして、今日最後のお世話をしてからアメリと一緒に帰宅しました。
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