神奈さんとアメリちゃん

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第四百三十八話 真留さんでグダグダ!? ―後編―

公開日時: 2021年12月18日(土) 21:01
更新日時: 2021年12月19日(日) 03:39
文字数:2,565

「まずは、こちらをどうぞ。つまらないものですが」


 リビングで、うやうやしく鮎最中を箱ごと進呈する。


「ありがとうございます。でも、なんだか唐突ですね」


「いえ、真留さんに、日頃の感謝の意を示したくて……」


「そういうことでしたら、ありがたく」


 内心冷や汗モノ。なんとか方便はついたかな。


 顔を上げると、彼女、目をまんまるにして私の背後を見ている。


 振り返ると、そこには縦に鈴なりになって、ドアの隙間から様子を窺う四人娘と、それを引っ込めさせようとあたふたする白部さんが。


「あ、はじめまして。白部と申します。アメリちゃんたちの研究をさせていただいている、医者です」


 目が合ってしまったので、とりあえずご挨拶する彼女。


「ご丁寧にありがとうございます。真留と申します。猫崎先生の担当をさせていただいています」


 アメリは「こんにちは」、ほかの子は「はじめまして」とご挨拶。


「すみません、お仕事の邪魔をしないように説得してたんですけど、どうしても抑えきれないようで……」


 白部さんが後頭部を撫でて、困り果てたご様子。


「アメリちゃんも、それ以外の子も、静かにしてくれるなら、私は見物してもらっても構いませんが……先生はいかがでしょう?」


「私も、真留さんがよろしければ、それで」


 かくして、白部さんとクロちゃんは座布団、ほかの三人は寝室側のソファにぎゅうぎゅう状態で掛け、私と真留さんは反対のソファに並んで座り、打ち合わせすることに。


「で、ここで由加がですね……真留さん、聞いてらっしゃいます?」


「すみません、ついその……猫耳に見とれてしまって……」


 愛猫家だらけの「ねこきっく」編集部。四人の猫耳娘は、さぞ眼福なことでしょう。


「あの、せっかくですから、いただいたばかりですけど、こちらのお菓子皆さんで食べませんか? 私一人では、持て余す量ですし」


 先ほど渡した鮎最中を、取り出す彼女。


「真留さんが、そうおっしゃるなら……。お茶と一緒に用意してきますね。失礼します」


 お茶をれて戻ると、ミケちゃんたちが自己紹介していたようです。邪魔しないように、静かに配膳。


「白部さんとクロちゃんは、床の上で申し訳ないですけど」


「いえいえ。ありがとうございます」


 白部さんに続き、クロちゃんたちもお礼を述べる。


「それにしても、神奈おねーさん、これ真留おねーさんだけに食べさせようとしてたのね」


 ミケちゃん、ちょっと不機嫌。


「ごめんね。これ、お詫びの品だから」


 あ。


「お詫び? 私、何か詫びられるようなこと、先生にされたんでしょうか?」


 面食らう真留さん。


 あちゃー、こうなったら正直に言ったほうがいいわね。


「実は、父の日にですね……」


 かくかくしかじか。


「なるほど。仕事中に私用電話はたしかに困りますけど、こんないいお菓子をいただくほどのことでも」


 最中を食み、そうおっしゃる彼女。


「恐縮です」


 私は後頭部に手を添え、縮こまるのみ。


「そういえば、ミキだの由加だの、どこかで聞いた名前が出てくるけど、ひょっとして?」


「うん。前も言ったけど、ミケちゃんたちを猫として出してるんだよ」


「見たい、見たい! ちゃんとおねーさんしてる?」


 こちらに回り込んでくる彼女。フリーダムだなあ。


「へー、まあまあお姉さんしてるじゃない」


 腕組みしてドヤ顔。


「別の号だけど、クロちゃんとまりあさんがモデルのキャラも出したよ」


「ほんとですか! あとでお姉ちゃんに見せてもらおう」


 さすがクロちゃん、グイグイこちらに来るようなムーブはしない。


「アタシはー?」


「あー、ごめんねー。ノーラちゃんと白部さんの出番は、まだなのー」


「えー、ミケとクロ、ずりぃー」


 仏頂面の彼女。


「ごめんね。なんとか出せないか、考えておくから」


 いやはや、グダグダだな。打ち合わせができない。


「それにしても、ミキちゃんやククちゃんのモデルを目の当たりにすると、なんかほんと、まんまだなあって感じますね」


 お茶を一服し、感心する真留さん。


「ありがとうございます。きちんと再現できているということですものね」


「あ、話を脱線させてすみません。打ち合わせをしましょう」


 ノートPCでプロットを見ながら、打ち合わせてるんだけど……なんか狭苦しいなと思って顔を上げたら、白部さんとクロちゃん以外がたかってました。


「すみません。止めたんですけど……」


 恐縮する白部さん。


「だって、おもしろそーなんだもん」


 ノーラちゃんが画面を覗き込む。


「アメリは、真留おねーさんとごろにゃんしたいー」


 うう、グダグダの極みだあ~。


「みんな、ダメだよ。お仕事の邪魔しちゃ」


 ぴしゃりと釘を刺すクロちゃん。しっかりしてなさる。


「ごめんね。ちょっとお仕事に集中したいの」


 そう言うと、仕方なさそうに向かいのソファに戻って、お茶菓子をいただく三人組。


 ともかくも、やっと仕事できる状態になったので、さくさく打ち合わせをしていく。改善案をすり合わせながら、連載のほうはなんとか終了。続いて、読み切りの進捗をお見せする。


「順調ですね」


 画面をスクロールしながら、うんうんとうなずく真留さん。


「はい。今月も無事、間に合いそうです」


 こうして、打ち合わせも無事終了。


「漫画家さんと担当さんって、こんな感じで打ち合わせするんですね」


「私と猫崎先生の場合は、ね。先生ごとに、スタイルを変えるの」


 帰り支度をしながら、クロちゃんの言葉に応える真留さん。


「まりあさんは違うの?」


「ボク、つい最近まで打ち合わせ中は、寝室でじっとしてましたから……。猫耳人間の情報解禁から、正式に紹介してもらいましたけど、似たような感じですね」


 「へー」と感心。絵本作家さんも、やることあまり変わらないのね。


「最中とお茶、ごちそうさまでした。ではまた来月」


 立ち上がり、互いに深々とお辞儀。


「みんなも見送る?」


 子供たち、「うん!」と同意し、カルガモの親子のようにぞろぞろと行進。


「では、失礼します」


「はい。次のお仕事、頑張ってください」


 再度互いにお辞儀し、子供たちが「バイバイ」とか「さようなら」と手を振って見送る。


 真留さん一度振り返り、「バイバイ、またね」と手を振り、ちょこんと頭を下げて、そのままバス停に向かわれました。


 ふう、一時はどうなるかと思ったけど、あまり時間をオーバーせずに済んで、良かった良かった。


「じゃ、戻りましょうか」


 「はーい」と返事する子供たちを連れ、屋内に戻るのでした。

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