神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第七十九話 アメリ、ぶーたれる

公開日時: 2021年4月19日(月) 20:01
文字数:2,311

さて、ノーラちゃんを連れ帰ったらそれで終わりというわけでもなく、私たちにはまだやることがある。


 まずは保護猫として、SNS上で写真と情報の拡散。これは有名SNSアプリ「ツイスター」にアップし、私たち総出でリツイスト拡散する。


 私はツイスターは、普段作品の宣伝告知ぐらいにしか使わないけれど、ありがたいことにファンの皆さんが結構な人数フォローしてくれているので、「拡散希望」のタグが付いたノーラちゃんの写真を表示した白部さんのツイストメッセージをかなり拡散できることでしょう。


 で、私は今どこにいるのかというと自宅。「何かお手伝いできることないですか?」と白部さん、まりあさんに申し出てみたものの、あまり大人数でわちゃわちゃしてノーラちゃんに刺激を与えるのは良くないとのことで、まりあさんのみという最低限の人数で設備設置などにあたることになり、自宅待機と相成った次第です。


 そして、情報拡散とはまた別に迷い猫の可能性として警察への届け出もする必要があって、これは由香里さんにバトンタッチしていただき、白部さんを連れてF署にバンでひとっ走りしてくれています。由香里さんすごくしっかりしてるから、そつなくサポートしてくれることでしょう。


 とまあ、このようになんとも忙しいピストン作業の中、ことが済んで白部さんも戻ってきたら、まりあさんをご自宅に送るべく本来のお仕事を進め待機している次第です。まあ、まりあさんを送るのは場合によっては、そのままかくてるのどなたかになるかもしれないけど。


「ねーねー。猫ちゃんには会えないのー?」


 かくてるハウスから帰って来たアメリが、私の肩に首を乗っけて不満そうに問うてくる。彼女、元猫だからか知らないけれど大の猫好きだから、新しい出会いにとても期待していたのでしょう。


「んー。今、ノーラちゃん……あの猫ちゃんは新しい環境にすごくびっくりしてるから、まずは白部さんと彼女のおうちに慣れることが大事なんだ。だから、私たちが行くとノーラちゃん怖くなっちゃうのよ。あの子がもっと落ち着いたら会いに行こうね」


「むー……。つまんないのー」


 アメリがこんな感じにぶーたれるのは珍しいな。それだけ楽しみだったんだなー。


 これはちょっと、気晴らしをさせてあげたいな。とはいえ、時計を見るともう一時半。私もさすがにお腹が空いた。


「アメリは、お昼ごはんってもう食べた?」


「えっとねー。さつきおねーちゃんにサンドイッチ作ってもらったー!」


「そっかー、お昼はもう済んでるのね。後でお礼言っておかないと。アメリ、私もすぐお昼ごはん用意しちゃうから、ちょっと待っててね」


「はーい」


 おもちゃ箱からぬいぐるみを取り出して遊び始める。そうそう、「がぶがぶ」ことチンアナゴのぬいぐるみはアメリのお口のお供を卒業して、「しまだくん」と名付けられて海産物ファミリーの仲間入りをしています。相変わらずなネーミングセンスだねー。


 がぶがぶ改めしまだくんは、アメリのよだれまみれだったので、幸い丸洗い可能だったこともあり、一度洗ってあります。


 さて、お手軽なお昼ごはんというということで、アメリに合わせてこちらでもツナサンドを作るとしましょう。これは、陣中見舞いとしてまりあさんにも持っていく予定。白部さんはお弁当かなんか途中で買ってくるかもしれないけれど、彼女の分も作ってしまおう。お昼を別に用意してるなら、晩ごはんにしてもらえばいいし。


 というわけで、ちゃちゃっと完成! いやー。お手軽だねえ、ツナサンドって。


「アメリー。ちょっと白部さんのところに行くけど、一緒に行く?」


 寝室で海産物と戯れていた彼女に声をかけると、顔をぱあっと輝かせて「行く!」と即答。


 では、参りましょうか。



 ◆ ◆ ◆



 白部さん宅のチャイムを鳴らすと、まりあさんが「はーい」と顔を出す。


「お昼まだですよね。これ、どうぞ。白部さんの分も作ってあります。白部さん、お昼を別に済ませてしまうかもですけど、その場合晩ごはんにでもしていただければ。ご進捗しんちょくのほう、いかがですか?」


「ありがとうございます。白部さんにもそう伝えておきますね。わたしも十数年ぶりの作業ですから、当時を思い出しながらって感じです。でも、大方終わりました」


「あの。少しだけでいいんで、アメリにノーラちゃんを見せてあげることってできます?」


 すると彼女少し逡巡しゅんじゅんして、「わかりました、ちょっとだけなら」と承諾してくれた。


 「お邪魔しまーす」と小声で中に上がると、六畳間の寝室プラス少し広めのキッチンといった構造。ノーラちゃんと暮らすにはちょっと狭い気もするけど、まあ人には予算の都合ってのがあるからねー。ペット可物件って、それだけで間取りの割には家賃上がっちゃうし。


 先ほど買ったケージに自動給餌器と自動給水器とベッド、そして私から譲った餌皿とトイレと爪とぎが設置されている。


 まりあさんのご配慮であろうか、あえて外から見えないようにしてある部分があり、ノーラちゃんはそこに隠れてしまっているらしい。


「おお~? 猫ちゃんはー?」


「ちょっと今は、見えにくいところにいるね。でもほら、しっぽの先が見えてるでしょ?」


 指差す先にしっぽを確認したアメリが、「おお~!」と大きな声を出してしまうので、「しーっ」と人差し指を口の前で立てる。


 一分ほどそうして眺めていたけど、とりあえずこれといった動きはなし。まりあさんが、自分の顔の前にそっと両手を立てたので意図を察する。


「それでは、お暇しますね。お皿は白部さんからお返しいただければいいので。さ、帰ろうアメリ」


 「えー」と不満を隠そうともしないアメリだったけど、本来素直な子なので「猫ちゃん、またねー」と声をかけて、一緒に帰りました。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート