「やったー!」
お昼下がり、PCの前でグッとガッツポーズ! ネームが無事、一発通過! これから、下書きに進むわけです。とはいえ、現在いわゆる脱力モードというやつで、ちょっと気分が乗らない。
アメリと戯れようかとくるりと椅子を回すと、LIZEの着信音が。はて、なんのご用件でしょう?
くるりともう一度PCに向いて操作すると、メッセージの送り主は白部さん。おや、珍しい。金曜なんだけど、代休なのかしら。
「今ちょっとお暇ありますか?」とのことで、「はい、ちょうど息抜きしようとしていたところでした」と返信。
「今日、代休いただいてまして。ノーラちゃんがうちに来た日、アメリちゃんがノーラちゃんと触れ合いたがっていたと、宇多野さんから以前伺ったのですが」
そういや、アメリが珍しくぶーたれたのよね。「はい」と返事する。
「ノーラちゃんもだいぶ私に慣れてきたので、ご一緒に遊びに来ませんか?」
とのご提案。ほうほう。訊くまでもないだろうけど、一応尋ねてみようか。
「アメリー、白部さんが遊びに来ませんかー? だって」
「! ノーラちゃんに会っていいの!?」
「まあ、ノーラちゃんのご機嫌次第だけどね」
「行く行く! すぐ行こー!」
おお、すごい食いつきようですこと。私の着替えを待ってから、白部さんのお宅に伺いました。
◆ ◆ ◆
「はーい……あ、猫崎さん。こんにちは、ようこそ~。アメリちゃんも元気だった?」
「おお~! こんにちは! 元気だよ~!」
「うんうん、元気が一番! 医者として一番嬉しい言葉です!」
笑顔で応えるアメリを、抱きしめたそうにうずうずしてる白部さん。あはは。
「立ち話もなんですよね。中へどうぞ」
白部さんに招き入れられたので、二人で「お邪魔しまーす」と入室。
「今、お茶淹れますね」
フロストガラスの引き戸で遮られていて、寝室側は見えない。この向こうにアメリの愛しのノーラちゃんがいるんだろうな。
「あ、開けますね」
お茶っ葉が開く間に、白部さんが引き戸を開けてくれる。そこにはあのノーラちゃんがいて、「誰!?」という感じで警戒気味に視線が合った。慌てて目をそらす。野良出身の猫と視線を合わせ続けるのは、「我、攻撃の意思アリ」という意味になってしまうのだ。
「わー! ノーラちゃんだー!」
駆け寄ろうとするアメリ。止めようとするが、それより早く、「フシャーッ」と毛を逆立てたノーラちゃんに威嚇され、びくっと止まる。
「おねーちゃん、どうしよう……? 怒ってる?」
「うん、まずは視線を外して。あと、距離を空けて。私たちは敵じゃないですよーってアピールしようね」
「お、おお~……」
言われた通りにすると、アメリへの敵意がとりあえず収まったようだ。
「ノーラちゃん、やっぱりまだ警戒してますねえ」
白部さんが、湯呑の載ったお盆を手にこちらへやって来る。
「立ったままもなんですから、おかけ下さい」
湯呑をちゃぶ台に配膳し、座布団を三つ用意してくださったので、勧められるままに座る。
「そういえば、こうして相変わらず暮らしているということは、やはり純粋な野良だったんでしょうか?」
ノーラちゃんがこちらに引き取られて、警察への届け出と情報拡散をしてから、もう一ヶ月ほど経つ。
「そうみたいですね。私にとっては、良いことでしたけど」
湯呑を傾けながら、ほっこり笑顔。本当に、ノーラちゃんにぞっこんなんだなあ。
「あ、そうだ。アメリ、しっぽを立ててごらん?」
「おお? やってみる」
スカートをめくって、言われた通りしっぽを立てると、ノーラちゃんが、アメリのお尻の匂いをくんくんかぎ始める。アメリの位置なら、窓の外からしっぽは見えないから大丈夫なはず。
「お、おお~? ノーラちゃん、何してるの~?」
「アメリのことを覚えてるんだよ。猫がしっぽを立てるのはね、嬉しい以外にも、あなたが好きですっていうサインなんだよ」
アメリも猫時代はそうやって過ごしてきたはずなんだけど、案外当時の自分の振る舞いって覚えてないのかな。
「とりあえず、警戒心は薄れたみたいですね」
白部さんがほっこり笑顔でアメリとノーラちゃんを見守る。良き哉良き哉。お茶、せっかく淹れていただいたんだし、いただきましょ。
さすがにまだ撫でさせてくれるまではいかなかったけど、私たちは「とりあえず害のない存在」とは認識してもらえたようだ。
白部さんとは、ここしばらくお会いしてなかったので、色々積もる話をしました。なんでも、あれからさらに一人猫耳人間が確認されたそうで。
「本当に、世の中に何が起こってるんでしょうね。私にとっては、嬉しいことでしたけど」
「目下調査中です、としか言えませんねえ……。その子も、虹の橋できれいな女性に戻るように言われたそうで。まあ、再現性があればオカルトでもなんでも調べるのが科学ですからねえ」
「そういえば、猫耳人間ってみんな幼児になって転生するんですか?」
アメリもクロちゃんもミケちゃんも、転生時は八歳児相当だった。
「そうですね。だいたい、人間換算で八歳前後の姿で転生するようです」
「不思議ですねえ……」
しみじみと湯呑を傾け、ほうと一息つく。アメリのほうを見ると、離れて日向ぼっこしながらすやすやと寝息を立てているノーラちゃんを、じっと眺めている。
かくして、アメリとノーラちゃんは友好への第一歩を無事踏み出したわけです。
「それでは、そろそろお暇しますね」
結構長くお邪魔していたので、頃合いを見て立ち上がる。
「あ! その、最後に」
「はい、何でしょう?」
「アメリちゃん、ぎゅーってしてもいいですか?」
ノーラちゃんと暮らすようになっても、ぶれない白部さんでした。
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