しかし……一人というのも寂しいな。かといって、優輝さんのご厚意を無下にするのもあれだし。無心で仕事に集中しよう。
すらすら、すいすい……。
猫アメリも、ほんっと可愛いですねえ~。今では思い出の中の存在になってしまったけど、猫耳人間として、再びそばにいてくれることの幸せ……。
「神奈さん」
「ひょわっ!?」
「うわっ!?」
優輝さんに急に話しかけられ、すごい声を上げてしまう。互いにびっくり。
「おおう……すみません。集中なさってるところ」
「こちらこそすみません、すごい声出してしまって」
互いに恐縮。
「お昼できましたので、お仕事の切りが良ければ、お願いします」
「あ、はい。保存してから、そちらに行きますね」
彼女が先に向こうに戻られたので、保存作業をし、PCをスリープにして台所へ。
「あ、ミートソースですね!」
机の上には、ミートソースとホワイトアスパラとブロッコリーのサラダの小鉢が四皿ずつ。
「ええ。今日はもともとスパゲッティーだと伺っていたので、ともちゃんの好きなものを作ってみました」
「ミートソース好きなのー!」
ふふ、子供らしい好みでほほえま。私も子供の頃、よくお母さんにリクエストしてたなあ。
「美味しいよねー。ミートソース」
「うん!」
頭を撫でると、元気なお返事。
「で、ミートソースだけじゃ寂しいんで、サラダをちょっと作らせてもらいました」
「ありがとうございます。でも、四皿しかないですね?」
「ええ、近井さんがいらしてることは伺ってましたから、先に自宅で食事は済ませておきました」
あらまあ。ほんとに、食事を作るためだけの目的だったのね。
「でも、食事はそれでいいとして、優輝さんはどこに座られるんです?」
「トイレとか、お風呂でも掃除してますよ」
「ええ!? そんな、ただでさえお食事まで作っていただいたのに……」
超恐縮。
「気になさらないでください。あたしも、ちょうど暇を持て余してましたから。ね?」
ウィンクが飛んでくる。いやはや、ありがたいことだけど。彼女の性格的に、徹底的に世話焼かないと気が済まないんだろうしなあ……。
「わかりました、ご厚意に甘えさせていただきます。洗剤やブラシなんかは、トイレは流しの下の中、浴室は見てすぐわかるところにありますので。トイレの場所は、ご存じですよね。その隣が浴室です」
「はい、任せてください! では、召し上がっていてくださいな!」
パチンと指を鳴らし、そそくさとダイニングから退出していく。
いやはや、家事がストレス発散法の由香里さんもだけど、彼女も相当よねえ……。
「とりあえず、せっかく作っていただいたのが冷めてもいけないので、いただきましょうか」
「そうですね」
「いただきます」
私に続き、皆も合唱。このミートソース、缶詰のだけど十分美味しい。うちにひき肉があったら、彼女自作しちゃってたんだろうなー。お手軽に済ませてくれたことが、逆に恐縮せずに済んでありがたい。
ブロッコリーも、いい茹で加減。アスパラ缶ともども美味しい。
「角照さん、ほんとに気さくな方ですねー。友美もすっかり懐いちゃって」
ティッシュでともちゃんのお口を拭きながら、優輝さんに感心する近井さん。
「ずいぶん、距離が縮まったんですね。いい方でしょう?」
「はい。ミケちゃんについても、お話を色々伺いまして。今度、友美とも遊ばせてもらおうなんてお話になりました」
「ミケちゃんもいい子ですよ。『みんなのお姉さん』を自負してるんで、きっと面倒見がいいはずです」
少し前までは癇癪が目立ったけど、最近はそういうこともない。プライドは相変わらず高いけど、ともちゃんみたいなすごく小さい子とは、むしろ相性がいいはず。とにかく、妹にいいところ見せたいって質だからね。
「そのようですね。友美も会いたがっていまして」
良き哉良き哉。
「ほかの方々や子供たちにも、会っていただきたいですねえ。皆さん、素敵な性格ですよ」
嘘偽り、忖度のない賞賛を述べる。「近々、ぜひ」「どんなおねーちゃんたちなの!?」と、近井さん親子も楽しみにされます。
近井さん含め、素晴らしい人々とのご縁に恵まれた幸いを、スパゲッティーと一緒に噛みしめる。私は、なんと幸せ者なのだろう。
私は、なるべく人に親切にを心がけている。そういう人の周りには、やはり優しい人が集まってくると、両親によく教わったものだ。実際その通りだと、ここ最近特に実感する。
「ごちそうさまでした」
話も弾んだけど、肝心のご飯を食べ終わってしまった。
「終わりましたー。あとなんか、して欲しいことあります?」
ナイスタイミングで、優輝さん帰還。
「ありがとうございました。ちょうどごはんも食べ終わったので、歯を磨いている間、近井さんたちとくつろいでいてください。美味しかったです~」
「どういたしまして。では、寝室に戻らせていただきますね」
というわけで、三人は寝室へ。私とアメリは歯磨きしてから向かうのでした。
◆ ◆ ◆
お仕事再開。
そんな中、優輝さんが、面白い試みをなさってました。
まず、即興で物語の冒頭を語る。子供たちに「この後どうなったと思う?」と問い、子供たちの予想に合わせた物語を、さらに即興で紡いでいくというもの。さすが、シナリオライター。
「面白い手法ですね、それ」
一つのエピソードが完結したようなので、ちょっと話しかけてみる。
「はい。これ、アリスの作者いますでしょう。彼が、実在のアリス姉妹たちとピクニックで話すときにやっていたもので、そうして生まれたのが、物語としてのアリスシリーズなんです」
へー!
「あのお話、よくお菓子が登場しますよね。あれ、小さな女の子の注意をそらさず、興味を持ってもらうためなんです」
へへぇー!
策士ねえ、キャロル先生。
そういえば、さっき優輝さんが話してた内容も、お菓子のほか、さっき判明したともちゃんの好物、ミートソーススパゲッティーや、アメリの好物であるコラ・コーラがよく出てきてた気がするな。
「じゃ、もう一本行こうか」
こうして、語り部・優輝師によるお話し会は、子供たちに大好評で進むのでした。近井さんも、彼女の話術に聞き入っている模様。お見事ですなあ。
仕事しながら、耳で聞くだけでも楽しい時間は過ぎていき、夕方に。優輝さんからいただいたクッキーも、子供たちにとても喜ばれました。
「今日は、とても楽しかったです。今度は直接、角照さんのお宅にも寄らせていただきますね」
「はい、ぜひ! 楽しみにお待ちしてます。ただ、ミケが土日いませんので、それだけご注意いただければ」
門前で、別れの前に小話するお二人。雨足は、ちょっと弱まっています。
「アメリちゃん、また遊ぼーね!」
「うん!」
子供たちも、別れを惜しんでいます。
「私こそ、今日はありがとうございました。やはり、性格的に少しにぎやかなぐらいが、筆が進むようです。特に、優輝さんには大変お世話になりまして」
「いえいえ。人に親切に! これモットーですので!」
やはり、人に親切にすると、親切な人が集まってくれる。
「では、私たちはこれで失礼しますね」
お辞儀する近井さん。ともちゃんも、それを見てぴょこんとお辞儀。
「はい。あたしも、失礼します」
優輝さんもお辞儀。私たちも三人にお辞儀を返す。こうして、三人はそれぞれの家に向かって、去っていきました。
ふう、今日もいい一日だったな。明日もお仕事、頑張ろー!
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