神奈さんとアメリちゃん

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第三百五十九話 八度再来! 猫崎飯店!

公開日時: 2021年9月22日(水) 21:01
文字数:2,183

 屋内に戻り、靴を脱いで玄関から上がると、再び背後からぎゅっと抱きしめられてしまいました。


 でも今度は、昼のときのような責める感じはなく、とても優しさにあふれた圧力。


 これはクエスチョンではなく、普通に理由を尋ねていい。直感的にそう思った。


「どうしたの?」


「……甘えたいの……」


 恥ずかしそうなボソボソ小声。あらあら。お友達の目がなくなったら、今度は我慢してたぶん、いっぱい甘えたくなっちゃったのね。


「そっか。とりあえずここじゃなんだから、一度寝室に戻ろう。向こうでいっぱい甘えさせてあげるね」


 そう言って、後ろ手にアメリの体をぽんぽん優しく叩くと、ホールドを解いてくれました。


 では、寝室に戻りましょうか。



 ◆ ◆ ◆



 とんとん、なでなで。とんとん、なでなで。


 ベッドに腰掛け、愛娘を膝枕。左手で頭を撫で、同時に右手で二の腕をとんとん叩く。


 彼女は猫のように丸まり、気持ち良さそうに目をつぶっている。しっぽの先と耳が、ときどきピクピク動くのが可愛い。


 自立心旺盛なアメリ。お友達の前では、スキンシップを恥ずかしがるアメリ。そして、二人きりになって落ち着くと、こうやって存分に甘えてくるアメリ。


 こうして、身も心も委ねて甘えてくれることにほっとしてしまうあたり、自分の子煩悩を改めて痛感する。


 お仕事もごはんの支度もやらなきゃだけど、今はもうしばらくこうしていたい。


 日頃頑張ってるアメリと私それぞれへの、ご褒美の時間だと思おう。


 どのぐらいそうしていただろう。


 不意に、アメリのお腹がぐうと鳴った。


「さすがに、そろそろごはんにしないとだね」


「うん。お腹減った……」


 ゆっくり身を起こす我が娘。起き上がると、私も立ち上がる。


「じゃ、行きましょうか」


 こくりとうなずくので、連れ立って台所へ向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「れっつ・くっきーん!」


 台所に着くと、一転して元気に拳を突き上げる。


「ほら、アメリちゃんも」


「おお? れっつ・くっきーん!」


 同じように拳を突き上げる。


「では、始めていきましょ~」


 おなじみの脳内BGMを鳴らし、まずは放置していたごはんを切る。


 続いて、冷蔵庫から豚バラ、キャベツ、ピーマン、おネギ、卵を取り出しまして。


「アメリちゃん。甘えついでに、今日はお姉ちゃんが全部作ってもいいかな?」


 口を開きかけたけど、少し悩んだ末に、「わかった。今日は応援する!」とのお言葉。


「ありがとう。あのね、アメリが甘えてくれるとすっごく嬉しいのよ。なんか、最近のアメリ無理してないかなって不安になっちゃって」


 キャベツの芯をくり抜きながら話しかける。ふと彼女を見ると、ちょっと困ったような顔をしていた。


「あ、私にずっと甘えてなきゃいけないとか、そういうんじゃないからね。ただね、肩の力を抜いて欲しいのよ、少しだけ」


 濡らしたキッチンペーパーを穴に詰めながらウィンク。


 小さなアメリ。人の姿になってまだ一年も経たないこんな小さな子が、お料理したり、お勉強を頑張ったり。もうちょっと、寄りかかってほしいのが親心ってものなのです。


「なんか疲れたなあとか、甘えたいなあって思ったら、遠慮なくそうしていいんだからね」


 キャベツを四枚剥がし、ざく切りに。卵を割り、溶き卵も作る。


「わかった。おねーちゃんに、少し心配かけてたんだね」


 しゅんとしてしまう我が娘。あらら、落ち込ませたかったわけじゃないのに。


「うーん。ほんとに、色んな意味で無理しないでねってだけの話なんだ。アメリの自立を邪魔しようって話じゃないからね。それだけわかって欲しいかな」


 ズボッと法でピーマンの種を抜き、縦切りにする。


「うーん、うん? あまり頑張りすぎないでってこと?」


「そう、それが言いたかったのです!」


 パチンと指を鳴らす。


「人間ね、ずっと頑張り続けると、本当にどうしようもなく疲れちゃうからね。ほどほどに休むぐらいがいいのよ」


 ネギ半分を斜め切りにし、残りは縦の薄切りに。豚肉も食べやすい大きさに切っておく。


「わかった! あまり頑張らないのを頑張る!」


 ちょっと意味不明な宣言に、ほほえまな苦笑。言わんとすることはわかるけど。


 鍋にお湯を沸かし、沸騰したら火を弱めて、顆粒鶏がらスープと塩胡椒で味付け。そこにネギと溶き卵投入~。


 続いて、甜麺醤テンメンジャン豆板醤トウバンジャン、料理酒、お砂糖、片栗粉、醤油、お味噌、チューブ生姜、チューブにんにくを調合しておき、一旦置いておく。


「うん、休むのも大事。これ、人生が少し楽になる秘訣!」


 豚肉を強火で炒め、色が変わったらそこにネギ、キャベツ、ピーマンの順にイン!


 少ししたら火勢を落とし、調味料をかき混ぜて投入~。これで、二、三分炒めたら完成です!


 ヨシ!


「はーい、回鍋肉ホイコーローと中華スープの完成でーす。ごはんと麦茶も用意するね」


 ささっと配膳し、着席。


「それじゃ、いただきます!」


「いただきます!」


 二人でもぐもぐ。うん、回鍋肉美味しー! 中華スープもグーですね! なんて、自画自賛。


「おねーちゃん、やっぱりお料理上手だね!」


 お陽様笑顔のアメリ。


「ふふ、ありがと。アメリちゃんにそう言ってもらえるの、すごく嬉しいよ」


 こちらも、お陽様笑顔を返す。


 こうして、回鍋肉定食をごちそうさま。


「今日は二人とももうダンスしたから、あとはお風呂入って、お仕事して……。アメリちゃん、今日もお疲れ様だったね」


「おお~。おねーちゃんもお疲れ様ー!」


 互いに再度ふふと微笑み合い、後片付けするのでした。

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