神奈さんとアメリちゃん

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第百二十話 さあ、これからどうしよう?

公開日時: 2021年4月24日(土) 09:31
文字数:2,035

(さあ、これからどうしよう?)


 文字通り、不幸中の幸いが起こったのはいいけれど、白部さんが今度はプラスの意味で平常心をなくしてしまっている。


「えーと、白部さん?」


「はい~、なんでしょう~?」


 ひとしきり嬉し泣きした後は、緩みきったお顔で、ノーラちゃんに頬ずりなうな彼女。


「お喜びのところ恐縮なんですけど、これからノーラちゃんをどうするか考えないとですよ?」


「……あっ!」


 私に指摘されると、しばしぼーっした後、この後に山積みされている諸問題をどうするかというのに、やっと思考を巡らせることができたようだ。


 まず、猫耳フルオープンシミーズ姿のノーラちゃんをどうやって白部さんのご自宅に連れていくか。そして、猫ではなく幼女になってしまった以上、仕事といっても夜遅くまで放置するわけにもいかない。


「とりあえず、キャスケットと丈の長いスカート、あと靴を買わないとですね……」


 ノーラちゃんの頭を撫でつつ、口に手を当てて思案を巡らせる白部さん。


「おお~? おねーちゃん、この子ノーラちゃんなの……?」


「そうだよー。ノーラちゃんはね、アメリやミケちゃん、クロちゃんと同じ猫耳人間になったんだよ!」


 「おお~!」と、瞳をキラキラ輝かせるアメリ。そして、「ノーラちゃん!! ノーラちゃん!」と抱きついてすりすりする。


「アメリ……だっけ? ちゃん付けはやめてくれよなー。こっ恥ずかしいぞー。呼び捨てでいいからな!」


「わかった! ノーラ、ノーラ!」


 ノーラちゃんもアメリに好意を抱いているようで、とろけた顔でされるがまま。白部さんには撫でられ、アメリにはすりすりされ、なんだかカオス。


「とりあえず、お風呂入れてあげませんか?」


 すると、ノーラちゃんが一瞬ビクッと固まる。


「お風呂ってアレか? 水がジャーって出るやつか……?」


 怯えた顔で、私を見てくる。ああ、彼女もお風呂嫌い勢か……。


「ふっふっふっ。ノーラちゃん、ノーラちゃん。うちのお風呂場にはね、アメリの素敵なお友だちがいるんだよ?」


 すると、迷いを見せる。ふふふ。この手の反応には、アメリで慣れているのですよ。


「怖いこと、しないか……?」


「うーん。私が入れてあげてもいいけど、ここはやっぱり、白部さんじゃないかな? いかがでしょう、白部さん」


「えあ!? そうですね……わかりました。自分の着替えとタオル、取ってきますね。その間、ノーラちゃんをお任せしてもいいですか?」


 唐突に話を振られ一瞬取り乱したものの、提案にご納得いただけた模様。どうもまだ、夢見心地というか現実感が湧かないのかな。


「はい、お任せ下さい! アメリ、とりあえずノーラちゃんにアメリの余ってる服貸してあげていいかな?」


「おおー! いいよー!」


 アメリとノーラちゃんの体格は、ぱっと見ほぼ一緒。無理なく着れるでしょう。


「あ、そうだ白部さん」


「はい、何でしょう?」


 家に戻ろうとする彼女に、声をかける。


「こっちに戻ってくるとき、ミケちゃんの外出予定がなければ、キャスケット借りてきていただけませんか? それで、ノーラちゃんの服を買いに行きましょう!」


「わかりました。お願いしてみます」


 一礼し、ドアを締めて外に出る白部さん。


 さて、私からもかくてるの皆さんやまりあさんにかいつまんで事態をお知らせしておこう。


 質問攻めになること請け合いなので、「詳しい事情は、後でお話します」と付け加えておく。


 メッセージを打ち込んでノーラちゃんとアメリの様子を見ると、ソファの上でごろにゃんとすりすりし合ってる。尊いわあ……。


 緩んだ状態で二人を見守っていると、白部さんが戻ってきました。


「お待たせしました。キャスケットも、この通り」


 彼女の着替えが入っているであろう袋と、ミケちゃんのキャスケットを両手にそれぞれ持っている。


「では、ノーラちゃんの着替え用意しておきますね。お風呂場のものは、ご自由にお使いください」


「ありがとうございます。お風呂入りましょ、ノーラちゃん」


 すっごく嫌そうな顔をするノーラちゃん。でも、「アメリのお友だちがいるのになー」とほのめかすと、「うう~……」と唸って逡巡しゅんじゅんした後、「わかった……」と承知してくれた。


「お風呂は、そこのドアですー」


 二人にお風呂の場所を知らせ、私のほうは着替えを用意する。


「着替え、棚においておきますねー」


 脱衣所で浴室の中の二人に話しかけると、「ギニャー!」とノーラちゃんのすごい悲鳴が聞こえてくる。大丈夫かな……?



 ◆ ◆ ◆



 数十分後、ぐったりしたノーラちゃんと白部さんが出てきました。


「おかえりなさーい。どうでした?」


「いやー、もう大変でした……」


 この様子だと、猫耳人間になりたての頃のアメリよりも、さらにハードな状態だったんだろうなあ。


 ノーラちゃんは何やら小声でブツブツつぶやいており、目の焦点が合っていない。


「お疲れ様です。今、麦茶お持ちしますね」


 人数ぶんの麦茶をグラスに注ぎ、リビングに戻る。白部さんは放心、ノーラちゃんは小刻みに震えている有様で、少し落ち着いてからお出かけしましょうかね。

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