「みんな、まずはゆっくりスポドリを飲みましょう」
白部さんがそうアドバイスするも、子供たちは一気にごくごく。よっぽど喉乾いてたのね。
「ゆっくり飲むのって、やっぱり医学的な意味があるんですか?」
「はい。そのほうが、水分の吸収効率がいいんです。血糖値も、比較的緩やかに上がりますし」
へー。
「まあ、飲んじゃったものは仕方ないですね。アイスはゆっくり食べましょうね」
「ぷはーっ! 効くぅー! そうはいってもルリ姉、喉乾いたもんはしょーがねーよ」
ノーラちゃんがオヤジ臭い声を上げながら、アドバイスに不満を述べる。
「わかるけどね。立場上、言っておくべきことってあるから」
当のアドバイザーは、ちびちびとスポドリをやりながら微笑む。
「『だるまさんがころんだ』、楽しい?」
感想を尋ねてみる。私自身は大して汗をかいてないので、そのままデスクから持ってきた、コーヒー牛乳を飲んでます。
「うん! 面白い!」
お陽様笑顔のアメリちゃんに、ほかの子たちもうんうんと頷く。
「最初、あんまり動きがないからつまんねーかなーって思ってたんだけど、意外とハクネツすんのな!」
「そこが、知略鬼ごっこたるゆえんなの。でも、飽きたら言ってね。別の遊びを教えるから」
今日は体育教師な白部先生の言葉に、「はーい」と返事する子供たち。ただ、まだ飽きてはいないようだ。
アイスが溶けるといけないと思ったのか、白部さんはスポドリを半分ほど飲んだところで、アイスに移行してます。子供たちも、ぺろぺろ、さくさくと、美味しそうにアイスを堪能中。あとで、私もいただこう。
「明日はT総ですねー」
そういえば、いよいよ検査と例の話が明日に迫っている。げっそりする子供たち。ただ、アメリだけは期待半分、不安半分といった感じだ。
「特別カリキュラムの件、白部さんには、どのぐらいお話が伝わっていますか?」
「順調に話が進んだ場合、専門の教職の方が、今後勉強会に同席することになります。その方が、アメリちゃんに専属で教える感じですね。なので、アメリちゃんだけ一人ぼっちで勉強、という形にはならないのでご安心ください。手狭になって、恐縮ではありますけど」
「おお~! みんなと一緒に、お勉強できるんだ!」
ガッツポーズでキラキラ瞳を輝かせるアメリに、微笑み頷く白部さん。とりあえずこの点に関しては、私とアメリにとって悪い方向にならないようで良かった。
ただ、なんだろう? なんとなくというか、カンなんだけど、ちょっとアメリの様子がいつもと違うような……。はて?
上手く言えないんだけど、ちょっと気合が入りすぎている。そんな気がした。あくまで、気のせいだといいんだけど。
なんだかわからない、正体不明のもやもやを振り切るように、ミケちゃんの様子をちらり。アメリに向かって微笑みながら、美味しそうにキャンディーを頬張っている。
やっぱりもう、嫉妬するミケちゃんはいないんだね。白部さん以外、大人たちも知らなかったダークエネルギーの話なんて聞いたら、そういう感情も失せちゃうか。真のお姉ちゃんに、一歩近づいたね。良き哉良き哉。
「そうだ、ノーラ。昨日の四つの遊びでは、どれが一番気に入った?」
クロちゃんが、不意に尋ねる。これから自転車通いになるし、あれもこれも持ってくるのは大変だものね。
「そーだなー……。お手玉とかるたのどっちかだな! どっちも、体を動かすのが気に入った!」
「わかった。自転車で遊びに来るときは、今度からその二つをとりあえず持ってくるね」
頷く和マスター・クロ師匠。
「ちょっとー、ミケにも訊いてよ。ミケは、おはじきも気に入ったわ」
「アメリは、あやとり好きー」
「困ったな……じゃあ、事前にLIZEで話し合って決めよう。四つ全部、自転車で持ってくるとちょっと大変だから。あと、せっかくだから折り紙も候補に入れようか」
「りょーかーい」と返事する三人。その様子を、ほほえましく眺める私と白部さん。平和ですなあ。
「だいぶ涼んだね。みんなが良ければ、また外で遊びましょう」
ほほえま休憩タイムは過ぎていき、話題もこれといってなくなり途絶えたので、白部さんが再開を提案する。
「おー! 次また鬼になったら、今度こそ全員捕まえるかんなー!」
「ふふーん。お姉ちゃんパワーで、スパッとタッチしてみせるわよ」
へばってた子供たちも、水分とエネルギーが補給できて、だいぶ回復したようです。
「じゃあ、これ食べ終えたら、また外に行きましょうね」
「はーい」と返事する四人。
彼女らを見る、白部さんの笑顔が優しく、そして眩しい。本当に子供、それも猫耳人間が大好きなんだなー。
もし、小児科医志望のまま、その道を進んでいたら、彼女と私たちの道は交わらなかったはず。縁は異なもの。最近、何かと痛感する言葉が脳裏を去来する。
なにより、世の中、天職に就ける人はそう多くない。私も白部さんも、そんな幸運の持ち主だ。
きゅっと、その幸運を心の奥底で噛みしめるのでした。
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