神奈さんとアメリちゃん

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第四百五十五話 平和なひとときと、不安と、幸運と

公開日時: 2022年1月4日(火) 21:01
更新日時: 2022年1月7日(金) 18:19
文字数:2,004

「みんな、まずはゆっくりスポドリを飲みましょう」


 白部さんがそうアドバイスするも、子供たちは一気にごくごく。よっぽど喉乾いてたのね。


「ゆっくり飲むのって、やっぱり医学的な意味があるんですか?」


「はい。そのほうが、水分の吸収効率がいいんです。血糖値も、比較的緩やかに上がりますし」


 へー。


「まあ、飲んじゃったものは仕方ないですね。アイスはゆっくり食べましょうね」


「ぷはーっ! 効くぅー! そうはいってもルリ姉、喉乾いたもんはしょーがねーよ」


 ノーラちゃんがオヤジ臭い声を上げながら、アドバイスに不満を述べる。


「わかるけどね。立場上、言っておくべきことってあるから」


 当のアドバイザーは、ちびちびとスポドリをやりながら微笑む。


「『だるまさんがころんだ』、楽しい?」


 感想を尋ねてみる。私自身は大して汗をかいてないので、そのままデスクから持ってきた、コーヒー牛乳を飲んでます。


「うん! 面白い!」


 お陽様笑顔のアメリちゃんに、ほかの子たちもうんうんとうなずく。


「最初、あんまり動きがないからつまんねーかなーって思ってたんだけど、意外とハクネツすんのな!」


「そこが、知略鬼ごっこたるゆえんなの。でも、飽きたら言ってね。別の遊びを教えるから」


 今日は体育教師な白部先生の言葉に、「はーい」と返事する子供たち。ただ、まだ飽きてはいないようだ。


 アイスが溶けるといけないと思ったのか、白部さんはスポドリを半分ほど飲んだところで、アイスに移行してます。子供たちも、ぺろぺろ、さくさくと、美味しそうにアイスを堪能中。あとで、私もいただこう。


「明日はT総ですねー」


 そういえば、いよいよ検査と例の話が明日に迫っている。げっそりする子供たち。ただ、アメリだけは期待半分、不安半分といった感じだ。


「特別カリキュラムの件、白部さんには、どのぐらいお話が伝わっていますか?」


「順調に話が進んだ場合、専門の教職の方が、今後勉強会に同席することになります。その方が、アメリちゃんに専属で教える感じですね。なので、アメリちゃんだけ一人ぼっちで勉強、という形にはならないのでご安心ください。手狭になって、恐縮ではありますけど」


「おお~! みんなと一緒に、お勉強できるんだ!」


 ガッツポーズでキラキラ瞳を輝かせるアメリに、微笑みうなずく白部さん。とりあえずこの点に関しては、私とアメリにとって悪い方向にならないようで良かった。


 ただ、なんだろう? なんとなくというか、カン・・なんだけど、ちょっとアメリの様子がいつもと違うような……。はて?


 上手く言えないんだけど、ちょっと気合が入りすぎている。そんな気がした。あくまで、気のせいだといいんだけど。


 なんだかわからない、正体不明のもやもやを振り切るように、ミケちゃんの様子をちらり。アメリに向かって微笑みながら、美味しそうにキャンディーを頬張っている。


 やっぱりもう、嫉妬するミケちゃんはいないんだね。白部さん以外、大人たちも知らなかったダークエネルギーの話なんて聞いたら、そういう感情も失せちゃうか。真のお姉ちゃん・・・・・に、一歩近づいたね。良きかな良きかな


「そうだ、ノーラ。昨日の四つの遊びでは、どれが一番気に入った?」


 クロちゃんが、不意に尋ねる。これから自転車通いになるし、あれもこれも持ってくるのは大変だものね。


「そーだなー……。お手玉とかるたのどっちかだな! どっちも、体を動かすのが気に入った!」


「わかった。自転車で遊びに来るときは、今度からその二つをとりあえず持ってくるね」


 うなずく和マスター・クロ師匠。


「ちょっとー、ミケにも訊いてよ。ミケは、おはじきも気に入ったわ」


「アメリは、あやとり好きー」


「困ったな……じゃあ、事前にLIZEで話し合って決めよう。四つ全部、自転車で持ってくるとちょっと大変だから。あと、せっかくだから折り紙も候補に入れようか」


 「りょーかーい」と返事する三人。その様子を、ほほえましく眺める私と白部さん。平和ですなあ。


「だいぶ涼んだね。みんなが良ければ、また外で遊びましょう」


 ほほえま休憩タイムは過ぎていき、話題もこれといってなくなり途絶えたので、白部さんが再開を提案する。


「おー! 次また鬼になったら、今度こそ全員捕まえるかんなー!」


「ふふーん。お姉ちゃんパワーで、スパッとタッチしてみせるわよ」


 へばってた子供たちも、水分とエネルギーが補給できて、だいぶ回復したようです。


「じゃあ、これ食べ終えたら、また外に行きましょうね」


 「はーい」と返事する四人。


 彼女らを見る、白部さんの笑顔が優しく、そして眩しい。本当に子供、それも猫耳人間が大好きなんだなー。


 もし、小児科医志望のまま、その道を進んでいたら、彼女と私たちの道は交わらなかったはず。縁は異なもの。最近、何かと痛感する言葉が脳裏を去来する。


 なにより、世の中、天職に就ける人はそう多くない。私も白部さんも、そんな幸運の持ち主だ。


 きゅっと、その幸運を心の奥底で噛みしめるのでした。

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