「いよいよですねー……」
LIZEのチャットで、そのときを静かに待つ。
五分後の日本時間・八時ジャストに、猫耳人間・交流掲示板が全世界に開放される。固唾を飲み、不安を書き込む。
「猫崎さん、緊張しすぎですよ。リラックスしましょう」
とは、管理人である親子さんの弁。そうよね。管理人以上に緊張してたら、世話ないわ。
「この中で英語できるのは?」
挙手猫スタンプとともに、久美さんが尋ねてくる。親子さん、白部さん、由香里さんが挙手。
「ウチ入れて四人か。通訳頑張ろう」
ありがたや。私、英語の成績は自慢じゃないけど、悪かったですよ。
そうやってチャットしてると、ついに八時! タブをBBSに切り替える!
……五分経過。
……十分経過。
「誰も来ませんね……」
あれー?
「検索エンジンが拾ってませんから。先ほど、クローラーに探しに来るよう、要求しておきました。日英で引っかかりやすいワードを仕込んでおいたので、多分間もなく効果が出るはずです」
へー。私そういうの、全然わからないからなあ。
「あ!」
「Hello there.」なる書き込みが! ハンドルネームは……「Cattail」さん。
「IP調べましたけど、アメリカの方ですね。ご挨拶返しします」
近井さんが、「Welcome」のあと、なにやら私にはわからない英語で返事する。
「なんて書いてるんでしょう?」
LIZEに切り替え、質問。
「えーと……。『ようこそ。ここは、猫耳人間に関する交流掲示板です。失礼ですが、ご本人、あるいは親御さんでしょうか?』だって」
久美さんが通訳してくれる。
「英語わからん人は、こっち見とって。ウチが随時通訳するわ」
「ありがとうございます」
「あ、キャットテイルが答えた。『はい。当事者です。私は猫耳人間です』……ふーん、真贋つかないけど、初めてのお客さんが猫耳人間とはねえ」
その後も、雑談する親子さんとキャットテイルさん。親子さんは温厚に接しつつも、真贋を見極めるべく、揺さぶりをかけている感じだ。たとえば、前世ではどういった生活でしたか? など。
「あ、もう一人入ってきたな。また英語だ。ハンドルネームは、『Kittengirl』」
また、仔猫少女とはまんまな。
「『こんにちは。私も猫耳人間です』って書かれた」
猫耳人間が一気に二人!? さすがにちょっと怪しいな。なるほど、親子さんが部屋を分けた意味が、理解できた。
「あー。二人目、『キャットフードや肉、魚しか食べられないので、人間が羨ましいです』とか書いてる。偽モンだね、こりゃ」
猫耳人間の生態を知る私たちには、一発で分かる嘘が書かれ、黒判明。
「親子サン、テキトーにあしらう方向にしたみたいよ。キャットテイル……一人目のほうは、まだ真贋つかん」
いやはや。親子さん、こういうのを相手にするのか。ご苦労をおかけします……。
「あ、キャットテイルがキティガールを、偽物でしょうって問い詰めた。直球だなー。ただ、『私たちは、何でも食べられます』ってのは余計だな」
ふむ。荒らしに推理材料を与えちゃうものね。
「キトゥンガール、だんまり。逃げた臭いね。キャットテイルは親子さんとの対話に戻ったよ」
その後の久美さんの観察によると、どうもキャットテイルさんは、本物臭いのではないかとのこと。
「まだ、確信度・六十五%ってとこだけどね。とりあえず、可能な限り忠実に通訳してるけど、当事者目線どう?」
「私は、信用できそうだと思いました。『親』の語りが多いじゃないですか。猫耳人間になる条件って、飼い主との絆の深さが重要らしいんで、猫耳人間なら自然かなって。あと、最近までキャスケットで耳を隠していたっていうのが、真実味があります」
「なるほどね。お、自称父親が入ってきた。ハンドルネームは『キャットテイル・ダド』。キャットテイルのとーちゃんって意味やね。キャットテイルと親しげに話してるから、本物臭い」
おお、当事者親子が揃った!
「お? ついに日本人が来たぜ! 『いっちー』って人で、親らしい」
日本人来たー!
「うわあ、お話ししたいなあ」
「やめとき。親子サンから止められてるでしょ。さっきのキトゥン
ガールみたいのもいるし、この人も本物かわからんし。……って、『長野』って人が入ってきたぞ。まさか、あのセンセーか!?」
いやはや、加速度的に増えていくな。でもまさか、あの長野先生ご本人だったらすごいな。
「親子さん。長野さんには、猫耳人間の耳構造について質問してみていただけますか? 失礼ながらと付け加えて」
ここで、白部さんが真贋判定のための提案を投げる。
「私も、見てみますね。……うん、内耳の構造から筋肉のつき方まで、きちんと答えられていますね。多分、ご本人です」
ほえー! やっぱり、あの長野先生かあ! ご挨拶したいなあ。
とりあえず、今夜はこの四人と近井さんで会話。いっちーさんも、白部さんと長野先生の見立てでは本物のようだ。
「ふう。少し休憩をいただきました。初日にしては、いい滑り出しです。まさか長野先生まで、早くもいらっしゃるとは思いませんでしたけど」
「お疲れ様です。これからが楽しみですね」
「はい! いい掲示板にしていきたいと思います!」
良き哉良き哉。
「ありがとうございます、親子さん。では、そろそろアメリを寝かせますので。私も仕事がありますし」
皆さんから、「お疲れ様でした」とお言葉をいただき、掲示板とLIZEを落とす。
少し時間をロスしたけど、貴重な初日、見ないわけにはいかないもんね!
さーて、お仕事頑張りまっしょい!
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