神奈さんとアメリちゃん

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第百五十一話 神奈、実家を満喫する

公開日時: 2021年4月25日(日) 08:31
文字数:2,257

「いただきます!」


 四人で合唱し、肉じゃがに箸をつける。ほかのおかずは、ほうれん草のお味噌汁と、きゅうりのぬか漬け。


 ちなみに我が家の肉じゃがは牛肉タイプ。


 最初、シチューを日本人向けにアレンジしたって何かで見たけど、大発明よね。旨味を吸ったお芋の味とホクホク感。牛肉の旨味、人参の甘味、玉ねぎの甘味。ふふ、美味しさの四重奏だね!


「それにしても、アメリはきちんとしてるねえ」


 お父さんが感心の声を上げる。


「でしょー。物覚えいいのよ、この子。今、割り算までできるのよ」


「ええ!? 九月にこうなったばかりなんでしょう?」


 お母さんが会話に混ざり、驚きの声を上げる。


「そうなの、そうなの。本当にね、スポンジのようにいろんなことを吸収しちゃうんだ」


 お父さんもお母さんも、「はー」と感心する。当のアメリは、ちょっと照れくさそうに「うにゅう」といつもの気抜け声。


「しかし何だねえ。こう、孫ができたような気分だね、お母さん」


「そうねえ。思いっきり甘やかしたくなっちゃうわ。向井むかいさんの、お孫さんに対するベタ甘っぷりが理解できちゃう」


 ほんわかした表情を浮かべる二人。


「おお~。じゃあ、アメリもおとーさんとおかーさんって呼んでいい?」


 くりっと小首をかしげる。


「いいともいいとも。本当に可愛いねえ」


 ふふ、あれだけ戸惑ってたのに、すっかり打ち解けちゃったね。


 ここで、きゅうりをこりっと。うん、この酸味としょっぱさと旨味、ぬか漬けならではの味わい。ちなみにこのぬか漬け、自家製だったりする。お母さんも、色々凝り性よね。


 ごはんを食み、お味噌汁で流す。私の味付けはお母さんに教わったものだから、好みにぴったり。


「アメリー、このお味噌汁、私のと同じ味がするでしょ」


「おお、そういえばそうだね!」


「そのうち、アメリにも作り方教えてあげるね」


 一家相伝の味。良きかな良きかな


 その後も和やかに会話しながら、食事を進めていく。


「ごちそうさまでした」


 ひと足お先に、ごちそうさま。お茶を飲みながら、再度会話を続ける。そしてお父さんとお母さんがほぼ同時に食べ終わり、アメリが最後にごちそうさま。


「歯、磨いてきまーす。……あっ、何か踏み台にできそうなものある?」


「ああそうだね、アメリの背が洗面台に届かないか。ちょっと待ってなさい」


 そう言って、お父さんが席を外す。ややあって、手頃な台を持ってきてくれた。


「これでいいかな?」


「大丈夫だと思う。ありがとう~」


 かくして、二人で食後の歯磨き。


 その後は、いつものストレッチ。入れ替わりに歯磨きから戻ってきたお父さんが、「僕もやってみようかな」と混ざってきたので、三人でレッツ・ストレッチ! さすがに、お父さん体がちょっと固いね。


「神奈ー、お風呂沸いたから入っちゃいなさーい」


 お母さんが、廊下から戻ってきて声をかける。


「じゃあ、アメリと一緒に一番風呂いただいちゃうねー」


 と、入浴タイム!


 いやー、東京のうちのお風呂より広くて、アメリと二人でも結構のびのびできるなあ。


 こうやって広い家を満喫してると、どうにも里心が湧いてUターンしたくなってしまうけど、向こうには素晴らしい友人がたくさんいる。もはや、F市は第二の私の故郷だ。


 お風呂を上がったら、アメリの服をさっそく洗濯。三日ぶんしか持ってきてないからね。


 私もこっちに置いてあったパジャマに着替えて、リビングに戻る。


「あらまあ! アメリちゃん、しっぽまであるの!?」


 アメリのパジャマから伸びるしっぽを見て、驚くお母さん。お父さんも仰天。


「そだよー。あとね、人間の耳の部分触ってみて」


「おお、ないね! こりゃ驚いた!」


 お父さん、本日三度目のびっくり。


 びっくりポイントが多すぎるせいか、あんまり髪色はツッコまれないのね。


「ちょっと麦茶取ってくるー」


 勝手知ったる自分の家。冷蔵庫に常備されている麦茶を二杯用意し、リビングに戻る。


 戻ると、アメリはなんかお父さんたちに耳をふにふにされていた。「うにゅう」と、例の声を上げる彼女。


「もーう、アメリで遊ばないでー」


「あー、ごめんごめん。気持ち良くって、つい」


 いやまあ、気持ちわかるけどね。


「はい、アメリも一緒に飲もう。あと、早くお風呂入らないと冷めちゃうよー」


「あ、そうね。じゃあ、行ってきます」


 お母さんが、いそいそとお風呂場に向かう。私、お母さん、お父さんの順に入るようになったのは、私が思春期を迎えて以降の習慣。私にも、多感な時期があったのです。


「アメリに、子供向け番組見せてあげていい?」


「いいよー」


 というわけで、アメリと一緒に子供向け番組を視聴。いやー、こうやって、我が子と一緒に児童向けを見るのもオツなものですなあ。


 アメリと会話しながらぼーっと画面を眺めていると、アメリの口数が少なくなり、「ゴンッ!」というすごい音が響く。


 驚いて音源に視線を向けると、アメリが「うにゅう~……!」と、額を押さえてうめいていた。


「大丈夫!?」


 慌てて、怪我がないかどうか調べる。ふう、怪我はないみたい。スマホをいじっていたお父さんも、慌ててアメリの様子を見る。


「神奈、アメリ眠いんじゃないかな」


「そうだね。長旅したし。じゃあ、客間行こう」


 まぶたをこするアメリの手を引き、二階の客間へと連れてく。お布団を二つ敷き、就寝体勢完了!


「じゃあ、先に寝ててね。私は、もう少しお父さんたちとくつろいでから寝るから。おやすみ」


 頭を二度撫で、消灯する。アメリも、「おやすみなさい」とお返事。


 そっとドアを締めリビングに戻り、私の就寝時間である十一時まで、親子水入らずの団らんを楽しむのでした。

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