「いただきます!」
四人で合唱し、肉じゃがに箸をつける。ほかのおかずは、ほうれん草のお味噌汁と、きゅうりのぬか漬け。
ちなみに我が家の肉じゃがは牛肉タイプ。
最初、シチューを日本人向けにアレンジしたって何かで見たけど、大発明よね。旨味を吸ったお芋の味とホクホク感。牛肉の旨味、人参の甘味、玉ねぎの甘味。ふふ、美味しさの四重奏だね!
「それにしても、アメリはきちんとしてるねえ」
お父さんが感心の声を上げる。
「でしょー。物覚えいいのよ、この子。今、割り算までできるのよ」
「ええ!? 九月にこうなったばかりなんでしょう?」
お母さんが会話に混ざり、驚きの声を上げる。
「そうなの、そうなの。本当にね、スポンジのようにいろんなことを吸収しちゃうんだ」
お父さんもお母さんも、「はー」と感心する。当のアメリは、ちょっと照れくさそうに「うにゅう」といつもの気抜け声。
「しかし何だねえ。こう、孫ができたような気分だね、お母さん」
「そうねえ。思いっきり甘やかしたくなっちゃうわ。向井さんの、お孫さんに対するベタ甘っぷりが理解できちゃう」
ほんわかした表情を浮かべる二人。
「おお~。じゃあ、アメリもおとーさんとおかーさんって呼んでいい?」
くりっと小首をかしげる。
「いいともいいとも。本当に可愛いねえ」
ふふ、あれだけ戸惑ってたのに、すっかり打ち解けちゃったね。
ここで、きゅうりをこりっと。うん、この酸味としょっぱさと旨味、ぬか漬けならではの味わい。ちなみにこのぬか漬け、自家製だったりする。お母さんも、色々凝り性よね。
ごはんを食み、お味噌汁で流す。私の味付けはお母さんに教わったものだから、好みにぴったり。
「アメリー、このお味噌汁、私のと同じ味がするでしょ」
「おお、そういえばそうだね!」
「そのうち、アメリにも作り方教えてあげるね」
一家相伝の味。良き哉良き哉。
その後も和やかに会話しながら、食事を進めていく。
「ごちそうさまでした」
ひと足お先に、ごちそうさま。お茶を飲みながら、再度会話を続ける。そしてお父さんとお母さんがほぼ同時に食べ終わり、アメリが最後にごちそうさま。
「歯、磨いてきまーす。……あっ、何か踏み台にできそうなものある?」
「ああそうだね、アメリの背が洗面台に届かないか。ちょっと待ってなさい」
そう言って、お父さんが席を外す。ややあって、手頃な台を持ってきてくれた。
「これでいいかな?」
「大丈夫だと思う。ありがとう~」
かくして、二人で食後の歯磨き。
その後は、いつものストレッチ。入れ替わりに歯磨きから戻ってきたお父さんが、「僕もやってみようかな」と混ざってきたので、三人でレッツ・ストレッチ! さすがに、お父さん体がちょっと固いね。
「神奈ー、お風呂沸いたから入っちゃいなさーい」
お母さんが、廊下から戻ってきて声をかける。
「じゃあ、アメリと一緒に一番風呂いただいちゃうねー」
と、入浴タイム!
いやー、東京のうちのお風呂より広くて、アメリと二人でも結構のびのびできるなあ。
こうやって広い家を満喫してると、どうにも里心が湧いてUターンしたくなってしまうけど、向こうには素晴らしい友人がたくさんいる。もはや、F市は第二の私の故郷だ。
お風呂を上がったら、アメリの服をさっそく洗濯。三日ぶんしか持ってきてないからね。
私もこっちに置いてあったパジャマに着替えて、リビングに戻る。
「あらまあ! アメリちゃん、しっぽまであるの!?」
アメリのパジャマから伸びるしっぽを見て、驚くお母さん。お父さんも仰天。
「そだよー。あとね、人間の耳の部分触ってみて」
「おお、ないね! こりゃ驚いた!」
お父さん、本日三度目のびっくり。
びっくりポイントが多すぎるせいか、あんまり髪色はツッコまれないのね。
「ちょっと麦茶取ってくるー」
勝手知ったる自分の家。冷蔵庫に常備されている麦茶を二杯用意し、リビングに戻る。
戻ると、アメリはなんかお父さんたちに耳をふにふにされていた。「うにゅう」と、例の声を上げる彼女。
「もーう、アメリで遊ばないでー」
「あー、ごめんごめん。気持ち良くって、つい」
いやまあ、気持ちわかるけどね。
「はい、アメリも一緒に飲もう。あと、早くお風呂入らないと冷めちゃうよー」
「あ、そうね。じゃあ、行ってきます」
お母さんが、いそいそとお風呂場に向かう。私、お母さん、お父さんの順に入るようになったのは、私が思春期を迎えて以降の習慣。私にも、多感な時期があったのです。
「アメリに、子供向け番組見せてあげていい?」
「いいよー」
というわけで、アメリと一緒に子供向け番組を視聴。いやー、こうやって、我が子と一緒に児童向けを見るのもオツなものですなあ。
アメリと会話しながらぼーっと画面を眺めていると、アメリの口数が少なくなり、「ゴンッ!」というすごい音が響く。
驚いて音源に視線を向けると、アメリが「うにゅう~……!」と、額を押さえてうめいていた。
「大丈夫!?」
慌てて、怪我がないかどうか調べる。ふう、怪我はないみたい。スマホをいじっていたお父さんも、慌ててアメリの様子を見る。
「神奈、アメリ眠いんじゃないかな」
「そうだね。長旅したし。じゃあ、客間行こう」
まぶたをこするアメリの手を引き、二階の客間へと連れてく。お布団を二つ敷き、就寝体勢完了!
「じゃあ、先に寝ててね。私は、もう少しお父さんたちとくつろいでから寝るから。おやすみ」
頭を二度撫で、消灯する。アメリも、「おやすみなさい」とお返事。
そっとドアを締めリビングに戻り、私の就寝時間である十一時まで、親子水入らずの団らんを楽しむのでした。
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