「さーて、始めますかー」
九時。頭もしゃっきりしたところで、庭に面した廊下に積まれているダンボールを見ながら、気合を入れる。
外では、お父さんがDIYに励んでいます。あれは、サイドボードかな?
それはそうと、これ全部、私が送った本。大型連休におサボりしたから、一年ぶん以上ありますねえ。
「おねーちゃん。アメリ、何お手伝いすればいい?」
「んー? そうねえ。こっちは大丈夫だから、お母さんのお手伝いしてあげてくれる?」
「らじゃー!」
とことこと、リビングに向かうアメリちゃん。私の本の仕分けじゃあ、やれることないもんね。
いざ、開封の儀~。やあやあ、久しぶりですねえ、君たち。
一冊一冊取り出し、要・不要を判断していく。
まず不要なのは、古いファッション誌だ。
資料として買うわけだけど、たとえば去年のものなんかは、もう使い道がない。
昔を懐かしんで読み返す……なんてことも、とくにないしねえ。
あとは、家具とか建築の本も断捨離。このへんも、流行変わるしね。
不要な本は、廃棄用のダンボールに移し替えていく。
ここに入れたものは、馴染みの古本屋さんや、新古書店に売ったり、フリマでお母さんに捌いてもらったり、それでも売れなきゃ図書館に寄贈したり、さらにそれでダメなら古紙として回収に出すわけです。
お次。これが一番悩むんだ。漫画たち~。
何度も読み直したくなる漫画かどうかを吟味しながら、仕分けしていく。これがとにかく、溜まりがちなんだわ。
一度読めば十分だったなと思ったら、容赦なく廃棄箱に入れてしまうのが、整理のコツ。未練が湧くと、キリがないからね。
思い切って、電子書籍に移行したほうがいいのかしら。でも、紙とインクの匂い、好きなのよねえ。あとは、現物があるとやっぱり落ち着く。まあ、こうして処分するわけですけど……。
これ、読むかなあ……。うん、読まないな。こういう感想を抱く時点で、多分読まない。もし、もう一度読みたくなったら、買い直すなり、漫喫なりで。
こんな感じで、次々選別していく。
うーん、疲れたあ……。休憩しーましょ。
「あら、神奈。もう終わったの?」
「おおー! おねーちゃん。アメリ、お手伝い頑張ってるよ!」
「休憩~。アメリちゃん、偉いですねえ。マスペある~?」
愛娘の頭を撫でつつ、冷蔵庫を開けると、愛しのマスペくんが、ドア側に鎮座しておりました。
「おお~! ジス・イズ・マイトレジャー!」
「お宝とか、大げさねえ」
苦笑するお母さん。
「だって、大好きなんだもーん。買っといてくれて、ありがとうねー」
テーブルに座り、テレビを見ながらごくごく。効くぅ~!
「アメリちゃんも、休憩しなさいな。コラ・コーラも買ってあるから」
「おおー。おかーさん、ありがとー」
アメリもコーラを手に、私の隣に座ります。
「なんか、見たい番組ある?」
ぽちぽちと、チャンネルを切り替えていく。
「んー……とくにない」
「じゃあ、私の好みで」
チャンネルを、元に戻す。
「そういえばさ、二人は何してたの?」
素朴な疑問を尋ねてみる。お昼ごはんには、まだだいぶ早い。
「干ししいたけと、大豆戻してたのよ」
ほほー。そりゃ、時間かかりますなあ。
「で、アメリちゃんに大豆の選別を教えてね」
こっちでも、選別の真っ最中でしたか。
「そうだ、神奈」
「はい、何でしょう?」
「明日、お墓参り行くからね」
あー。お仏壇にはご報告済みだけど、お墓参りもきちんとしないとね。お盆だし。
「りょーかい! さて、私はトイレ行ったら続きするかな。アメリも、お手伝い頑張ってねー」
「はーい」
テレビを消して、ペットボトルを洗ってゴミ箱に入れ、分別作業に戻るのでした。
◆ ◆ ◆
ふー! 終わったあ! だいぶ減ったなー。残したのは、保管~。
時を同じくして、お父さんが外から戻ってくる。
「お疲れ様ー。私も、分別作業終わったよー」
私は、明後日には帰らなければいけない身。なので、後の処分はお父さんたちにお任せです。
「おお、神奈もお疲れ様。そうだ、明日……」
「お墓参りでしょ? さっき、お母さんから聞いた」
「そりゃ話が早い」
腰を、とんとん叩くお父さん。腰痛持ちとしては、つい辛さを想起してしまいますねえ。
「あ、そうだ。りんちゃん、帰省しているかな?」
「隣子ちゃんなら、八日に会ったよ」
「おー! あとで会いに行こー」
そろそろお昼なので、さすがに今、突撃する気はない。
「供子ちゃん、おっきくなったかなあ。会うの楽しみー」
母の味を堪能し終わった後は、お向かいさんの向井家へ。インタホンぽちー。
「はーい、どちら様ですかー?」
おじさまの声だ。
「こんにちはー、神奈です。りんちゃんいますかー?」
「あー、神奈ちゃん! こんにちは、久しぶりだねえ! 隣子、いるよー。今、そっち行かせるから!」
おお。在宅で良かった。
ややあって、三ヶ月ぶりに会う親友が、ガラッと引き戸を開けて出てきました。
「かんちゃーん、アメリちゃーん、久しぶりー!」
「オー! マイ・ベストフレンド!」
ハグ~。
「供子ちゃん、いる?」
「うん。お母さんに遊んでもらってるよ。良かったら、上がる?」
「そうだね。お邪魔しようかな」
というわけで、向井家にお邪魔~。
「やあ、神奈ちゃん、アメリちゃん、いらっしゃい。いやあ、五月はびっくりしたよ、ほんと」
お茶の間でくつろいでいたおじさまが、猫耳モードのアメリを見て、改めて所感を述べる。
「あはは、すみません。あ、こちらお土産です」
「TOKIOばななん」を差し出す。
「ありがとう。しかし、神奈ちゃんのいたずらっぽさは、相変わらずだったねー」
「面目ないです」
恐縮。つい、こう、ノリでねえ?
「あらー。神奈ちゃん、アメリちゃん、いらっしゃーい」
「お邪魔してます」
ふすまを開けて入ってきた、おばさまと供子ちゃんに、アメリと一緒にぺこりと頭を下げる。
「供子ちゃん、大きくなった?」
「そりゃそうよ。子供の成長って早いよねー」
うんうんと、頷くりんちゃん。
よちよち歩きの供子ちゃんが近づいてきたので、頭を撫でる。可愛いなあ。
アメリも、「アメリおねーちゃんだよー。覚えてるー?」と、供子ちゃんの頭を撫で撫で。供子ちゃんは、きゃっきゃと喜んでいます。
「旦那さんとはどう? 最近、愚痴電話かかってこないけど」
「もう~。その呼び方やめてー。仲良くやってるよ」
二人で笑い合う。仲睦まじいようで、良き哉良き哉。
「はじめ兄ちゃんと、継男くんは留守?」
「うん。映画見に行ってるよ」
ありゃま。帰ってくるまで、だいぶかかりそうだなあ。
ともかくも、向井さんご一家と楽しく談笑。
「あー、そろそろ帰ったほうがいいかな。すみませんね、長居して」
壁掛け時計を見て、だいぶ話し込んでいたことに気づく。
「いいのいいの。また、遊びに来てちょうだいね」
気さくに応える、りんちゃん。
「明日は、父方、母方、両方のお墓参りに行っちゃうんだ。で、翌日には帰り支度」
「そっか。じゃあ、また電話で話そ」
「うん。それじゃあ、お邪魔しました」
「お邪魔しましたー」
アメリと一緒に頭を下げ、玄関へ。ご一家に見送られ、自宅に帰るのでした。
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