「アメリちゃん、アメリちゃん」
「おお? なーに?」
お絵かきをしていた彼女に話しかけると、顔を上げる。
「これから、アメリちゃんに大切なお勉強を教えようと思います。どう?」
「やる!」
おお、内容も聞かないうちから向学心の強いことで。良き哉良き哉。
「じゃあ、長さと重さの単位について教えるね。えっと……あった、あった。これ、定規」
三十センチの直型定規をデスクの引き出しから取り出す。
「これに1とか2とか目盛り付いてるでしょう? これがセンチ……正確にはセンチメートルっていう単位なのね。たとえば、私が大根一センチ切ってって言った場合、どのぐらい切ればいいと思う?」
「ここまで?」
アメリが1の目盛りを指し示す。
「正解です! こんな感じに、今まで私が『このぐらいの大きさに切って』って言ってたのが、数字でやり取りでできるようになるの」
「おお~」と、瞳を輝かせるアメリ。
「で、1とか2の間に細かい線が入っているでしょう。これはミリメートル、通称ミリっていってね、十ミリは一センチぶんなんだ」
「おお~」と、再度感心する。
「それじゃあ、練習問題いってみようか。ちょっと待ってねー……」
コピー用紙を取り出し、「1cm5mm」や「3cm6mm」、「5cm2mm」といった数字を書いていく。
「ここに書いた長さのぶん、定規で直線を引いてみてくれるかな? cmはセンチメートル、mmはミリメートルね」
「おお~! やってみる!」
定規の目盛りを確認しながら、線を引いていく彼女。
「できた! どう?」
「どれどれ?」
定規をあてて、長さを確認していく。
「おお、お見事です! 全問正解!」
パチパチと拍手すると、「えへへ~」と照れる。可愛い。
「ちなみに、メートルってのも覚えたほうが便利かな。これは単純に、百センチと同じ。私の身長は百六十センチ……正確にはもうちょっと低いんだけど、それぐらいあってね。これは一メートル六十センチって言い換えることもできるんだ」
「へー」と、またまた感心するアメリちゃん。ちなみに、私の正確な身長は百五十八.八センチだったりする。
「せっかくだから、今のアメリの身長も測ってみようか。ちょっと壁を背にして、ピンと背筋を伸ばして立ってくれる? 顎は引いてね。うん、そうそう」
言いながら、裁縫箱からメジャーを取り出す。
「じゃあ、測るよー……よし、ちょっと見てみて。床から私の爪まで、何センチだと思う?」
「えーっと……百二十六センチと……五ミリ?」
「正解です! 猫耳人間になりたての頃、服買うために測ったときより二センチ以上も大きくなってるねー」
うんうんと、感慨深く頷く。我が子の成長の、嬉しきことよ。
「おお~! アメリ、大きくなってるんだ……」
「そうだよー、アメリちゃんは色んな意味で、日々成長しているのです!」
頭をわしゃわしゃ撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。
「あとは、キロメートルってのもあるけど……これはとりえずいいかな。ミリ、センチ、メートル。この三つだけ覚えといて」
「はーい!」
しゅびっと挙手する彼女。
「よし、次は重さを勉強しようか。ちょっと待っててねー」
脱衣所から体重計を、キッチンから秤を持ってくる。
「重さの単位を説明するね。重さにはグラム、キログラムっていうのがあるの。キログラムはキロって略することも多いね。ほかにはミリグラムとかトンってのもあるけど、今は覚えなくていいよ」
秤を調整し、デスクの本棚から適当な本を一冊取り出し載せる。
「……ん、針が五百とちょっとを示してるね。この細かいのがひと目盛り十グラムだから、この本の重さは五百三十グラムなんだね」
「おお? さっきのセンチみたいに、百で次の単位にならないの?」
「あー、メートルとは単位の変わり方が違うのよ。千グラムが一キログラムになるんだ。ややこしいよねー」
「お~……」と、感心する彼女。
「じゃあ、アメリちゃんの重さを測ってみようか。この体重計に乗ってくれるかな?」
言われた通りに乗ると、少し数字が二十七前後を行き来した後、27.0と表示される。
「二十七キロだね。服のぶんを引いたら、大体二十六キロと五百グラムってところかな。ちょうどいい体重だね!」
順調に成長している我が子に、再びほっこり。
「この点はなーに?」
「これ? 小数点っていうんだけど、そのうち教えてあげるね。今はとりあえず、二十六キロと五百グラムって覚えといて」
「はーい」と返事する彼女。
「さて、次に水の量なんだけどね。リットルっていう単位をよく使うんだ」
「おー、リットル……」
「で、ずばり水一リットルは一キログラムの重さ。だから、千グラムのお水っていうのは一リットルになるのね。つまり、アメリがよく飲んでる三百五十ミリリットルのコラ・コーラは三百五十グラムの重さなんだ」
「お、おお?」
なんだか混乱気味なアメリちゃん。ちょっと詰め込みすぎたか。
「まあ、このへんは機会を見てまたお勉強しましょ」
お勉強を頑張ったアメリの頭を撫でる。時計を見ると、もう五時過ぎ。そろそろお米炊かないとだね!
それじゃー、お米を水に浸してきましょー。
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