「今日はノーラ、頑張ったからね。明日は、運動でも何でも付き合うよ」
筆箱に筆記用具をしまいながら、約束を再度口にするクロちゃん。私は、お茶菓子の容器を片付けなう。
「あー、それなんだけどなー……。クロたちがやった遊びのフルコースと運動、どっちにすっかで迷ってんだ~」
腕組みして目をつぶり、うんうんうなるノーラちゃん。
白部さんはそんな彼女に口出しせず、じっと見つめる。
「なー、クロはどっちがいいと思う?」
「ボク? ボクはまあ、和の遊びのほうが助かるかな」
ふむふむ、と頷くノーラちゃん。
「ミケはー?」
「ミケは運動のほうがいいわね。レトロゲームはこないだ散々タンノーしたし」
それを聞くと、「むう」とうなり、難しい顔に。
「アメリはどっちがいいと思う?」
「どっちでもいいよー」
出ました、力強いお言葉! 困らせるだけだよ、それー。
実際、うなり声が大きくなり、「頭がフットーしそーだぞー!」と、頭を抱えてシャウト。
「白部さん。私からアイデア、いいでしょうか」
パンク寸前のノーラちゃんを見て、これは意見を述べたほうがいいと思い、挙手。
「はい」
じっと見守っていた彼女が、初めて口を開く。
「運動を、勉強の一環と考えるのはいかがでしょう? ほら、学校でも体育あるじゃないですか。だから、明日は和の遊び、その次は体育……とかどうでしょう?」
「そうですね。算数や漢字を覚えるだけが勉強ではないと、私も思います」
ノーラちゃんの顔が、ぱあっと輝く。
「ルリ姉、それじゃあ!?」
「ちょっと待ってね。ほかの三人はどうかな?」
「アメリはそれでいいよー」
「ミケも」
二人まではすんなり決まったけど、クロちゃんがちょっと逡巡。
「うーん、和遊びだけで済むなら良かったんですけど、運動でも付き合うって約束してますしね。わかりました、それでお願いします」
運動苦手なのに、律儀な子だこと。
「その運動なんですけど、私のスケジュールがまさに今、頑張りどころで、体育館や運動場にご一緒できないんですよね。かといって、アメリと離れると能率が落ちてしまいまして……」
私のわがままなのは、わかっているけれど。実際能率が落ちてしまうのだから、困ったものだ。ほんとに、子離れは重要な課題だなあ。
顎に人差し指を当て、肘を反対の手で支え天井を見上げるという、いかにも「思案」といったポーズで、白部さんが「うーん……」と悩む。スミマセン。
「ノーラちゃん。いつものボクササイズじゃ嫌?」
「嫌じゃねーけど、せっかく晴れるんだから、外で遊びたいぞ」
再び、考え込んでしまう白部さん。
「猫崎さん。こちらのお庭で遊ぶぶんには、集中が乱れないのですよね?」
「はい」
「キャチボール……は、お隣ぐらい庭が広くないと、ご近所さんにご迷惑をかけかねないし……。ここの窓に当てちゃったら、大変だし」
顎をとんとん叩きながら、なおも思案。
「ん。『だるまさんがころんだ』とかどうかな?」
子供たちが、「何それ?」と首を傾げる。さすがのクロちゃんも、これは知らなかったか。
「知略戦鬼ごっこって感じかな。意外とルールが細かいから、その場で説明したほうが早いと思う。ほかにも、こちらのお庭で四人で遊べそうなゲーム、調べておくね」
子供たち、お目々きらきら。何やら楽しそうな予感が、ビンビンしてるようです。
「では、お茶菓子はうちで用意しますね。うちでとお願いしたのは、私のわがままですし」
「いえいえ、運動やレトロな遊びはノーラちゃんがしたいことですから、私が」
互いにしばし譲り合い、明日はうち、明後日は白部さんが持つことになりました。
◆ ◆ ◆
翌日、ノーラちゃん待望のレトロ和ゲームを満喫。なかなか勝てなかったようだけど、無念が晴れたのがそれ以上に嬉しいようで、満面の笑顔でした。
そしてその翌日、本日十五日はクロちゃんの誕生日!
「クロちゃん、誕生日おめでとう」
かくてるハウスのダイニングで、目元にハンカチを当て、ぐすぐすするまりあさん。お気持ちわかります。感極まっちゃいますよね。
「今日は、これをケーキといっていいのかわからないけど……」
そう言って由香里さんが取り出したのは、巨大おまんじゅう! 茶色い皮だから、黒糖まんじゅうかな?
これには、かくてるハウスの皆さん以外、目をぱちくり。
「抹茶ケーキは前回やっちゃいましたからね。それ以外で和っぽいのって考えてたら、こんな方向に……」
苦笑する由香里さん。いやはや、すごい発想力だ。
「皮を厚めに作ったので、ケーキっぽさは出てるんじゃないかなって思います」
ろうそくを立てていく、パティシエール。
「じゃあ、クロちゃん。吹き消してもらえるかな?」
「はい」
由香里さんが点火した後、優輝さんに促され、ふぅーっと吹き消す。
「お誕生日おめでとー!!」
一同から、盛大な拍手!
「ありがとうございます!」
「それと、昇級おめでとう!」
優輝さんが付け加えるので、私たちもそれを称える。
「重ね重ね、ありがとうございます!」
ぺこりとお辞儀するクロちゃん。
由香里さんが、巨大おまんじゅうを切り分けていく。
「じゃあ、クロちゃん。音頭取りお願いね」
「いただきます」
由香里さんに促され、いただきます宣言。
ナイフとフォークでおまんじゅう食べるのって変な感じ。でも、面白いな。
うん、たしかに皮が厚めで、ちょっと変わったケーキの範疇に収まってるね。これは、意外とって言ったら失礼だけど、美味しい。
「美味しいです。由香里お姉さん」
「ありがとう」
主賓の賞賛に、微笑むパティシエール。
おまんじゅうのおばけは成仏し、次に出てきたのは……精進料理!
「これ、ウチが作ってみた。クロ子が将棋で精進できますようにってね」
ほほー、粋ですなあ。
再び、クロちゃんのいただきます宣言で箸をつける私たち。
あら。精進料理って味気ないと思ってたら、結構ボリューミー!
「油をたっぷり使うのが、満足感出すコツなんよ」
へー、すごいなあ。そんなことまでご存じだとは。
「すごく美味しいです。ボク、お気持ちに応えて精進しますね」
おお、クロちゃんの声が凛々しい。
こうして、美味しくいただき終わりました。
「プレゼントは以前渡しちゃってますから、これでお開きですね。もっと盛り上がりたかったですけど、神奈さんお仕事ありますし」
肩をすくめる優輝さん。
「すみません」
「いえいえ。お仕事第一ですよ」
フォローが温かい。
「昇級は、皆さんのくださった本のおかげで掴み取れたものだと思ってます。ありがとうございました」
深々とお辞儀するクロちゃん。一同、拍手。
「では、すみません。私たちはこのあたりでお先に上がらせていただきます」
「はい。では引き続き勉強会……じゃなかった、外遊びですね」
というわけで、我が家に河岸を変え、子供たちが遊びに来るのでした。
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