神奈さんとアメリちゃん

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第四百五十三話 クロのWお祝い!

公開日時: 2022年1月3日(月) 21:01
更新日時: 2023年2月26日(日) 22:50
文字数:2,729

「今日はノーラ、頑張ったからね。明日は、運動でも何でも付き合うよ」


 筆箱に筆記用具をしまいながら、約束を再度口にするクロちゃん。私は、お茶菓子の容器を片付けなう。


「あー、それなんだけどなー……。クロたちがやった遊びのフルコースと運動、どっちにすっかで迷ってんだ~」


 腕組みして目をつぶり、うんうんうなるノーラちゃん。


 白部さんはそんな彼女に口出しせず、じっと見つめる。


「なー、クロはどっちがいいと思う?」


「ボク? ボクはまあ、和の遊びのほうが助かるかな」


 ふむふむ、とうなずくノーラちゃん。


「ミケはー?」


「ミケは運動のほうがいいわね。レトロゲームはこないだ散々タンノーしたし」


 それを聞くと、「むう」とうなり、難しい顔に。


「アメリはどっちがいいと思う?」


「どっちでもいいよー」


 出ました、力強いお言葉! 困らせるだけだよ、それー。


 実際、うなり声が大きくなり、「頭がフットーしそーだぞー!」と、頭を抱えてシャウト。


「白部さん。私からアイデア、いいでしょうか」


 パンク寸前のノーラちゃんを見て、これは意見を述べたほうがいいと思い、挙手。


「はい」


 じっと見守っていた彼女が、初めて口を開く。


「運動を、勉強の一環と考えるのはいかがでしょう? ほら、学校でも体育あるじゃないですか。だから、明日は和の遊び、その次は体育……とかどうでしょう?」


「そうですね。算数や漢字を覚えるだけが勉強ではないと、私も思います」


 ノーラちゃんの顔が、ぱあっと輝く。


「ルリ姉、それじゃあ!?」


「ちょっと待ってね。ほかの三人はどうかな?」


「アメリはそれでいいよー」


「ミケも」


 二人まではすんなり決まったけど、クロちゃんがちょっと逡巡しゅんじゅん


「うーん、和遊びだけで済むなら良かったんですけど、運動でも付き合うって約束してますしね。わかりました、それでお願いします」


 運動苦手なのに、律儀な子だこと。


「その運動なんですけど、私のスケジュールがまさに今、頑張りどころで、体育館や運動場にご一緒できないんですよね。かといって、アメリと離れると能率が落ちてしまいまして……」


 私のわがままなのは、わかっているけれど。実際能率が落ちてしまうのだから、困ったものだ。ほんとに、子離れは重要な課題だなあ。


 顎に人差し指を当て、肘を反対の手で支え天井を見上げるという、いかにも「思案」といったポーズで、白部さんが「うーん……」と悩む。スミマセン。


「ノーラちゃん。いつものボクササイズじゃ嫌?」


「嫌じゃねーけど、せっかく晴れるんだから、外で遊びたいぞ」


 再び、考え込んでしまう白部さん。


「猫崎さん。こちらのお庭で遊ぶぶんには、集中が乱れないのですよね?」


「はい」


「キャチボール……は、お隣ぐらい庭が広くないと、ご近所さんにご迷惑をかけかねないし……。ここの窓に当てちゃったら、大変だし」


 顎をとんとん叩きながら、なおも思案。


「ん。『だるまさんがころんだ』とかどうかな?」


 子供たちが、「何それ?」と首を傾げる。さすがのクロちゃんも、これは知らなかったか。


「知略戦鬼ごっこって感じかな。意外とルールが細かいから、その場で説明したほうが早いと思う。ほかにも、こちらのお庭で四人で遊べそうなゲーム、調べておくね」


 子供たち、お目々きらきら。何やら楽しそうな予感が、ビンビンしてるようです。


「では、お茶菓子はうちで用意しますね。うちでとお願いしたのは、私のわがままですし」


「いえいえ、運動やレトロな遊びはノーラちゃんがしたいことですから、私が」


 互いにしばし譲り合い、明日はうち、明後日は白部さんが持つことになりました。



 ◆ ◆ ◆



 翌日、ノーラちゃん待望のレトロ和ゲームを満喫。なかなか勝てなかったようだけど、無念が晴れたのがそれ以上に嬉しいようで、満面の笑顔でした。


 そしてその翌日、本日十五日はクロちゃんの誕生日!


「クロちゃん、誕生日おめでとう」


 かくてるハウスのダイニングで、目元にハンカチを当て、ぐすぐすするまりあさん。お気持ちわかります。感極まっちゃいますよね。


「今日は、これをケーキといっていいのかわからないけど……」


 そう言って由香里さんが取り出したのは、巨大おまんじゅう! 茶色い皮だから、黒糖まんじゅうかな?


 これには、かくてるハウスの皆さん以外、目をぱちくり。


「抹茶ケーキは前回やっちゃいましたからね。それ以外で和っぽいのって考えてたら、こんな方向に……」


 苦笑する由香里さん。いやはや、すごい発想力だ。


「皮を厚めに作ったので、ケーキっぽさは出てるんじゃないかなって思います」


 ろうそくを立てていく、パティシエール。


「じゃあ、クロちゃん。吹き消してもらえるかな?」


「はい」


 由香里さんが点火した後、優輝さんに促され、ふぅーっと吹き消す。


「お誕生日おめでとー!!」


 一同から、盛大な拍手!


「ありがとうございます!」


「それと、昇級おめでとう!」


 優輝さんが付け加えるので、私たちもそれを称える。


「重ね重ね、ありがとうございます!」


 ぺこりとお辞儀するクロちゃん。


 由香里さんが、巨大おまんじゅうを切り分けていく。


「じゃあ、クロちゃん。音頭取りお願いね」


「いただきます」


 由香里さんに促され、いただきます宣言。


 ナイフとフォークでおまんじゅう食べるのって変な感じ。でも、面白いな。


 うん、たしかに皮が厚めで、ちょっと変わったケーキの範疇に収まってるね。これは、意外とって言ったら失礼だけど、美味しい。


「美味しいです。由香里お姉さん」


「ありがとう」


 主賓の賞賛に、微笑むパティシエール。


 おまんじゅうのおばけは成仏し、次に出てきたのは……精進料理!


「これ、ウチが作ってみた。クロ子が将棋で精進できますようにってね」


 ほほー、粋ですなあ。


 再び、クロちゃんのいただきます宣言で箸をつける私たち。


 あら。精進料理って味気ないと思ってたら、結構ボリューミー!


「油をたっぷり使うのが、満足感出すコツなんよ」


 へー、すごいなあ。そんなことまでご存じだとは。


「すごく美味しいです。ボク、お気持ちに応えて精進しますね」


 おお、クロちゃんの声が凛々しい。


 こうして、美味しくいただき終わりました。


「プレゼントは以前渡しちゃってますから、これでお開きですね。もっと盛り上がりたかったですけど、神奈さんお仕事ありますし」


 肩をすくめる優輝さん。


「すみません」


「いえいえ。お仕事第一ですよ」


 フォローが温かい。


「昇級は、皆さんのくださった本のおかげで掴み取れたものだと思ってます。ありがとうございました」


 深々とお辞儀するクロちゃん。一同、拍手。


「では、すみません。私たちはこのあたりでお先に上がらせていただきます」


「はい。では引き続き勉強会……じゃなかった、外遊びですね」


 というわけで、我が家に河岸を変え、子供たちが遊びに来るのでした。

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