神奈さんとアメリちゃん

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第三百五十八話 会話の交代制キャッチボール

公開日時: 2021年9月21日(火) 21:01
文字数:2,802

 今日も今日とてペンを走らせるワタクシ。


 ただ……。先ほどの件で雑念が生まれてしまい、ちょっと筆のノリが悪い。


 ぬーん! しっかりしなさい、猫崎神奈! みんながお前の漫画を待っているのよー!


「しまだくんってチンアナゴじゃなくてニシキアナゴだったの!」


「へえ。そうなんだ~」


 ううん。どうにも雑念が払えないな。子供たちの会話が気になってしょうがない。


 私を避けるように向こうに行った後、ミケちゃんとおしゃべりしっぱなしのアメリ。切ないわ。


 ……あれ? そういえば。


「メンダコってこういうのなんだけど」


「へんなのー。こんな面白いのが海にいるのね」


 写真図鑑を広げて見せるアメリ。うん?


「あとね、こないだリュウグウノツカイ、水族館で見たでしょー?」


「はーい、ちょっといいかなアメリちゃん」


 くるりと二人のほうを向き、ぱんぱん手を打って注目させる。


「おお? 何?」


「ダメよ、自分の好きなことばかり一方的に話しちゃ。ミケちゃんにも、好きなこと話させてあげないと」


「おお~……。ごめんなさい……」


 しゅんとするアメリ。いけない、ちょっと頭ごなしだったかな。


「待って! それならいいのよ」


 すると、ミケちゃんから意外な助け舟が。およ?


「実はね。こないだ優輝に『ミケは自分の話したいことを一方的に話しすぎる』って注意されたのよ。だから、話を譲ろうと思って、聞き手に回ってたの」


 なんとまあ。優輝さんも優輝さんで、きちんと目を配ってらっしゃるのだなあ。


 ただ……。


 この二人、どうにも会話のキャッチボールじゃなく、会話のピッチングマシンになってしまうようだ。


 何かこう、話し手と聞き手のバランスが良くなる方法はないかな?


 ふーむ。


 ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。


 ひらめきました!


「ちょっと、ちゅうもーく」


 二人の間に、ベッド横にあったデジタル時計を置く。


「こうしましょう。この時計が、十分じゅっぷん経つごとに、話し手を入れ替えよう。優輝さんには、私から言っておくから安心して」


「いいの?」


「うん。ミケちゃんも、千多せんたちゃんの話とかしたいでしょう?」


 こわごわというか、期待がこもったというか、そういう目で見上げるミケちゃんに大きくうなずく。


「ちょうど、三時になるね。じゃ、まずはミケちゃんからいってみよう! 私は、お菓子用意してくるね」


 子供たちに「はーい」と見送られながら、キッチンへ。


 ……おお、いただいたお菓子が重いと思ったら、缶入りのクッキーだ! 一番いいのを出すとおっしゃってただけあるなあ。


 これに、コラ・コーラとアルピス・ソーダか。あら、マスペまで。ありがとうございます。


 それじゃ、これを用意して戻りましょうね。


「ただいまー」


 お菓子とジュースを手に戻ると、「おかえりなさーい」と迎えられる。


「千多ちゃん、普段しっかりしてるんだけど意外とドジでね、こないだめんつゆと麦茶を間違えちゃったらしいの」


「おお~」


 ふむふむ。まだミケちゃんの番か。配膳しながら、話を耳にする。


「あ、十分じゅっぷん経ったわ。アメリの番」


 くるりと液晶を、アメリ側に向ける彼女。


「んーと、何話そうかな……。そうだ! 恐竜こないだ見たでしょ? ステゴサウルスって……」


 ふふ。交代制はちゃんと機能してるみたいね。


 安心してデスクに戻り、優輝さんに交代制を採らせたことをお伝えし、再び筆を執る。


 その後、二人はしばし話し込んだ後、互いに話の種が尽きたのかダンスゲームに移行。


 ときたま様子を見ると、やはりミケちゃんが常勝の模様。


 アメリは音楽にノッて体を動かすだけで楽しいようで、勝ち負けは例によって気にしてないみたい。


 そういえば、私も少し運動したいな。


「ねえ、ちょっとだけ混ざっていい?」


「ミケは構わないけど、アメリは?」


「アメリもいいよー」


 というわけで、三交代制で参戦!


 よっ! はっ! ……ひゃー、相変わらず二人に勝てなーい!


 まあ、体動かすのが目的だからいいいけどね。はー、いい汗かいた。


「ふう、楽しかったよ。それじゃ、私は仕事に戻るね」


「「はーい」」


 心地よい疲労感に包まれ、デスクチェアに腰掛ける。二人も踊り疲れたようで、コンピューターを交えての「大航海世代」に移った模様。


 読めない漢字は気合でなんとかしてるみたい。


 しかし、選択肢が二つってのも狭いわよね。そろそろ、何か三本目のゲームを買ってあげたほうがいいのかなー? 今度、かくてるの皆さんに相談してみましょ。


 そんなこんなで時間は過ぎていき、スマホのアラームが鳴る。ごはんを炊く時間、五時だ。


「ミケちゃん、五時になったけど帰らなくて大丈夫?」


「五時半までならいいって言われてるー」


 船を操作しながら、こちらを振り返りお返事。


 アメリはプレイ中だから、お米のセットしてきましょ。


 ……戻り! ついでにちょっと休憩~。


 コーヒー牛乳のカップを傾けながら、観戦なう。


 画面上の総資産ではミケちゃんがトップだけど、部門賞などでひっくり返ることがあるのがこのゲーム。どっちが真に優勢かな~?


 そして終局! ……なんと、部門賞とイベント発見数でアメリが僅差で逆転勝利!


「おお~!? 初めて勝った!?」


「ウソでしょ!? 妹に負けた~!」


 自分でも信じられないといった様子のアメリと、本当に悔しそうなミケちゃん。やっぱりというか、アメリとは逆に、勝負ごとにこだわるタイプなんだな。


 PCの時計を見ると、五時十五分。お時間もほどほどなようで。


「十五分ですよ~。ゲームはそこまでにしといたほうがいいわね」


「むう~。アメリ、今度また勝負よ!」


「おお~。いいよ~」


 リベンジモードなミケちゃんに対し、ひたすらマイペースな愛娘。この様子を見てると、お昼とその後の出来事が嘘のようだ。


 その後は、近々控えているT総の検査について、愚痴をこぼし合ってました。苦労をかけるねえ。


 そして、お時間となりミケちゃんは帰宅。約束通り、優輝さんにコールする。


「今日は、ありがとうございましたー! 今、迎えに行きますね」


 私たちも、彼女を出迎えるべく身だしなみを整える。すると、ほどなくしてインタホンが鳴りました!


 お出迎えし、互いに今日のお礼を述べ合う。


「そういえば、神奈さん。面白いこと思いつきましたね」


「と、おっしゃいますと?」


「時計で交代するやつです」


 ああ!


「ありがとうございます。なんとなくひらめいたんですよね」


「うちでも、ミケに喋らせるとき使ってみようかな。この子、本当にマシンガントークになっちゃうんで」


「何よ。神奈おねーさんについて話すときの優輝も、そんな感じじゃない」


「あ~、それ言われると弱いなあ……」


 頭を掻く優輝さん。ほほえまなやりとりに、ついくすりと笑ってしまう。


「私と作品を好きでいてくださって、本当にありがとうございます。では、そろそろ本格的に暗くなってしまいますし」


「そうですね。不肖・角照優輝、ずっと神奈先生のファンですので! それでは!」


 互いにお辞儀した後、仲良く連れ立ってお隣に入っていく姉妹。


 さーて、晩ごはんは回鍋肉ホイコーローですよ、回鍋肉! 楽しみですねえ。

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