今日も今日とてペンを走らせるワタクシ。
ただ……。先ほどの件で雑念が生まれてしまい、ちょっと筆のノリが悪い。
ぬーん! しっかりしなさい、猫崎神奈! みんながお前の漫画を待っているのよー!
「しまだくんってチンアナゴじゃなくてニシキアナゴだったの!」
「へえ。そうなんだ~」
ううん。どうにも雑念が払えないな。子供たちの会話が気になってしょうがない。
私を避けるように向こうに行った後、ミケちゃんとおしゃべりしっぱなしのアメリ。切ないわ。
……あれ? そういえば。
「メンダコってこういうのなんだけど」
「へんなのー。こんな面白いのが海にいるのね」
写真図鑑を広げて見せるアメリ。うん?
「あとね、こないだリュウグウノツカイ、水族館で見たでしょー?」
「はーい、ちょっといいかなアメリちゃん」
くるりと二人のほうを向き、ぱんぱん手を打って注目させる。
「おお? 何?」
「ダメよ、自分の好きなことばかり一方的に話しちゃ。ミケちゃんにも、好きなこと話させてあげないと」
「おお~……。ごめんなさい……」
しゅんとするアメリ。いけない、ちょっと頭ごなしだったかな。
「待って! それならいいのよ」
すると、ミケちゃんから意外な助け舟が。およ?
「実はね。こないだ優輝に『ミケは自分の話したいことを一方的に話しすぎる』って注意されたのよ。だから、話を譲ろうと思って、聞き手に回ってたの」
なんとまあ。優輝さんも優輝さんで、きちんと目を配ってらっしゃるのだなあ。
ただ……。
この二人、どうにも会話のキャッチボールじゃなく、会話のピッチングマシンになってしまうようだ。
何かこう、話し手と聞き手のバランスが良くなる方法はないかな?
ふーむ。
ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
ひらめきました!
「ちょっと、ちゅうもーく」
二人の間に、ベッド横にあったデジタル時計を置く。
「こうしましょう。この時計が、十分経つごとに、話し手を入れ替えよう。優輝さんには、私から言っておくから安心して」
「いいの?」
「うん。ミケちゃんも、千多ちゃんの話とかしたいでしょう?」
こわごわというか、期待がこもったというか、そういう目で見上げるミケちゃんに大きく頷く。
「ちょうど、三時になるね。じゃ、まずはミケちゃんからいってみよう! 私は、お菓子用意してくるね」
子供たちに「はーい」と見送られながら、キッチンへ。
……おお、いただいたお菓子が重いと思ったら、缶入りのクッキーだ! 一番いいのを出すと仰ってただけあるなあ。
これに、コラ・コーラとアルピス・ソーダか。あら、マスペまで。ありがとうございます。
それじゃ、これを用意して戻りましょうね。
「ただいまー」
お菓子とジュースを手に戻ると、「おかえりなさーい」と迎えられる。
「千多ちゃん、普段しっかりしてるんだけど意外とドジでね、こないだめんつゆと麦茶を間違えちゃったらしいの」
「おお~」
ふむふむ。まだミケちゃんの番か。配膳しながら、話を耳にする。
「あ、十分経ったわ。アメリの番」
くるりと液晶を、アメリ側に向ける彼女。
「んーと、何話そうかな……。そうだ! 恐竜こないだ見たでしょ? ステゴサウルスって……」
ふふ。交代制はちゃんと機能してるみたいね。
安心してデスクに戻り、優輝さんに交代制を採らせたことをお伝えし、再び筆を執る。
その後、二人はしばし話し込んだ後、互いに話の種が尽きたのかダンスゲームに移行。
ときたま様子を見ると、やはりミケちゃんが常勝の模様。
アメリは音楽にノッて体を動かすだけで楽しいようで、勝ち負けは例によって気にしてないみたい。
そういえば、私も少し運動したいな。
「ねえ、ちょっとだけ混ざっていい?」
「ミケは構わないけど、アメリは?」
「アメリもいいよー」
というわけで、三交代制で参戦!
よっ! はっ! ……ひゃー、相変わらず二人に勝てなーい!
まあ、体動かすのが目的だからいいいけどね。はー、いい汗かいた。
「ふう、楽しかったよ。それじゃ、私は仕事に戻るね」
「「はーい」」
心地よい疲労感に包まれ、デスクチェアに腰掛ける。二人も踊り疲れたようで、コンピューターを交えての「大航海世代」に移った模様。
読めない漢字は気合でなんとかしてるみたい。
しかし、選択肢が二つってのも狭いわよね。そろそろ、何か三本目のゲームを買ってあげたほうがいいのかなー? 今度、かくてるの皆さんに相談してみましょ。
そんなこんなで時間は過ぎていき、スマホのアラームが鳴る。ごはんを炊く時間、五時だ。
「ミケちゃん、五時になったけど帰らなくて大丈夫?」
「五時半までならいいって言われてるー」
船を操作しながら、こちらを振り返りお返事。
アメリはプレイ中だから、お米のセットしてきましょ。
……戻り! ついでにちょっと休憩~。
コーヒー牛乳のカップを傾けながら、観戦なう。
画面上の総資産ではミケちゃんがトップだけど、部門賞などでひっくり返ることがあるのがこのゲーム。どっちが真に優勢かな~?
そして終局! ……なんと、部門賞とイベント発見数でアメリが僅差で逆転勝利!
「おお~!? 初めて勝った!?」
「ウソでしょ!? 妹に負けた~!」
自分でも信じられないといった様子のアメリと、本当に悔しそうなミケちゃん。やっぱりというか、アメリとは逆に、勝負ごとにこだわるタイプなんだな。
PCの時計を見ると、五時十五分。お時間もほどほどなようで。
「十五分ですよ~。ゲームはそこまでにしといたほうがいいわね」
「むう~。アメリ、今度また勝負よ!」
「おお~。いいよ~」
リベンジモードなミケちゃんに対し、ひたすらマイペースな愛娘。この様子を見てると、お昼とその後の出来事が嘘のようだ。
その後は、近々控えているT総の検査について、愚痴をこぼし合ってました。苦労をかけるねえ。
そして、お時間となりミケちゃんは帰宅。約束通り、優輝さんにコールする。
「今日は、ありがとうございましたー! 今、迎えに行きますね」
私たちも、彼女を出迎えるべく身だしなみを整える。すると、ほどなくしてインタホンが鳴りました!
お出迎えし、互いに今日のお礼を述べ合う。
「そういえば、神奈さん。面白いこと思いつきましたね」
「と、仰いますと?」
「時計で交代するやつです」
ああ!
「ありがとうございます。なんとなくひらめいたんですよね」
「うちでも、ミケに喋らせるとき使ってみようかな。この子、本当にマシンガントークになっちゃうんで」
「何よ。神奈おねーさんについて話すときの優輝も、そんな感じじゃない」
「あ~、それ言われると弱いなあ……」
頭を掻く優輝さん。ほほえまなやりとりに、ついくすりと笑ってしまう。
「私と作品を好きでいてくださって、本当にありがとうございます。では、そろそろ本格的に暗くなってしまいますし」
「そうですね。不肖・角照優輝、ずっと神奈先生のファンですので! それでは!」
互いにお辞儀した後、仲良く連れ立ってお隣に入っていく姉妹。
さーて、晩ごはんは回鍋肉ですよ、回鍋肉! 楽しみですねえ。
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