神奈さんとアメリちゃん

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第三百十五話 まりあ、凹む

公開日時: 2021年8月9日(月) 21:01
更新日時: 2021年8月11日(水) 18:26
文字数:2,302

 日は一日飛んで、十六日。今日もT総で検査を終え、お疲れ様会としてどこかで食事しましょうかなんて相談してる私たち。


 T総が猫耳人間の研究機関のひとつであることは、白部さんのテレビ出演ですでに明らかにされており、うちの子たちは全員猫耳モードです。ちなみに、今日のミケちゃんの付添いはさつきさん。


 待合所で、どのレストランに寄っていこうかなんてみんなで話していると、どうもまりあさんの様子が暗い。


「あの、まりあさん。浮かないお顔ですね? クロちゃんの検査で、良くない結果でも出たのでしょうか?」


 心配になって、尋ねてみる。


「あ、いえ。そういうわけでは……。顔に出てましたか。その、以前私がティーパーティーめちゃくちゃにしちゃったじゃないですか。それで、その償いができないかなあってあれから思い悩んでまして」


「いやいやいや! あれは自分のミスのせいっすし! まりあさんは悪くないっすよ!!」


 慌ててフォローするさつきさん。


「ですが……」


 まりあさんの表情は暗いままだ。彼女も思い詰めるタイプだからなあ……。そうだ!


「あの、提案なんですけど、もう一度ティーパーティーをやり直すってのはいかがでしょう!」


「それっす! 名案っす! そうしましょうっす、まりあさん!」


 さつきさんが、ぽんと手を打つ。


「でしたら、ケーキやお菓子は、わたしにご用意させていただけませんか? せめてものお詫びに」


 顔を見合わせる一同。ここで断ったら、まりあさんはずっと引きずったままになってしまうだろう。


「そういうことでしたら、お願いするっす。『カトレーヌ』っていう美味しいお菓子屋さんがあるんで、そこに途中寄るっすね。駐車場に出たら、家のみんなに連絡するっす」


 かくして、かくてるハウスで昼食兼おやつを取る方向になったのでした。



 ◆ ◆ ◆



 カトレーヌに着くと、俄然張り切ってみんなの好みを尋ねてくるまりあさん。ここで遠慮してもまりあさんの罪悪感は晴れないし、私はモンブラン、アメリはかわいいウサギちゃんのケーキを指名。


 さつきさんはいちごのホールケーキを、白部姉妹はりんごのケーキを選びました。


 これにさらに、ワッフルなど細々こまごましたお菓子も買っていくまりあさん。その表情は生き生きとしており、贖罪しょくざいの気持ちが満たされているであろうことと、やはり人のために何かしてあげるのが好きなのだと痛感させられる。


 かくしてお会計を済ませ、それぞれの自宅の駐車場に一旦向かい、かくてるハウスに再集合。


「さっちゃんからお話は伺っています。今、お茶をれますね」


「あたしはお菓子の用意してきます」


 由香里さんと優輝さんが出迎えてくださり、一同リビングでくつろぐ。久美さんもスタンバイ済みで、さつきさんがミケちゃんの今日の様子を報告する。


 かくして、ホールケーキも切り分けられ、いつぞやのアフタヌーンティースタンドに載って出てきました!


「まりあサン、由香里のことだからミスはないと思うけど、一応香りを確認してもらえる?」


 念のためにと促す久美さん。


「……大丈夫です。アルコール臭はしません」


「……ん。ちゃんとウチのほうに入ってるみたいだね」


 二人で匂いを確認。


 かくして、みんなでいただきますを言う。


 うーん、モンブラン美味しい! モンブランは私の好物の一つ。ありがたや。この、ちょこんとてっぺんに載った栗がニクいね! ふふ。


 これに、紅茶がよく合う。さすが由香里さん、れるのがお上手だ。


 アメリちゃんもウサギさんにごめんなさいしながら、美味しそうに食べている。


「さつきー、お前よくバクバク食うねー。珍しいな」


「いやー、お昼兼っすからねー」


 たしかに、私もモンブラン一つじゃ足りないな。ワッフルもいただこう。う~ん、これまた美味!


 まりあさんの様子を見ると、病院での暗さがなくなり、いつもの穏やかな表情に戻っている。良きかな良きかな


「そういえば、皆さんお仕事は順調ですか?」


 お茶会に無粋な話かもしれないけれど、私には大型連休に皆さんを福井案内するという役目があるので、進捗が気になる。


「由香里、どんなもん?」


「順調そのもの! 大型連休に旅行しても問題ないと思うよ」


 優輝さんの質問に由香里さんが答える。さすが由香里さん、意図を察していただけたようでソツがない。


「なるほど、そういうことですか。私は在宅勤務になってますけど、普通に大型連休はお休みをいただけてますので問題ありません。飛び石の三十日も有給申請してあります」


「わたしも、順調にいけば大型連休までには脱稿できると思います」


 一同から、おお~と声が上がる。


「まりあさんの新作、楽しみです~。今度は何を描かれてるんですか?」


「『うどんのめがみさま』の続編、とだけ言っておきますね。ネタバレしても良くないですし」


「うわー、気になります~」


 まりあワールドの大ファンである我々一同、期待に胸を膨らませる。


 もっとも、ノーラちゃんだけは趣味が男の子っぽくて波長が合わなかったものだから、黙々とお菓子を食べてるけど。


 こんな感じで今度こそお茶会は無事盛り上がり、平穏にお開きとなりました。


「今回は、わたしに償いの機会を与えていただき、ありがとうございました。ご迷惑でなければ、またお茶会にお誘いただければ幸いです」


「いえいえ。そんなかしこまらないでくださいよ。楽しければオールオッケーです! こちらこそ、美味しいお菓子をごちそうさまでした」


 互いに頭を下げ合う、まりあさんと優輝さん。


 その後、笑顔を向け合い、「では、ご自宅までお送りしますね」と、まりあさんをバンに案内するのでした。


 私たちも、お別れを述べ合い帰宅。ふう、楽しいお茶会だった! 何より、まりあさんの気持ちが救われたのが良かった良かった。

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