神奈さんとアメリちゃん

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第三百十七話 ミケの誕生日! ……前日のおはなし

公開日時: 2021年8月11日(水) 21:01
文字数:2,022

 きょ~うもお仕事バリバリ~。可愛いアメリを描いて~。


 陽気な脳内ソングを歌いながら筆を執る昼下がり、今日も子供たちと白部さんが遊びに来ています。白部さんはお仕事だけど。


「んふふ~。んふふふ~」


 そして、私以外にも陽気な人物がもう一人。誕生日を明日に控えたミケちゃんです。ちなみに、子供たちで今日も「大航海世代」中。


「おお~。ミケ、にこにこしてる~」


「ふふふん。だって、また一つお姉さんになれるのよ? みんなのお姉ちゃん、ミケだもの!」


 意味はよくわからないけど、とりあえずハイなことは伝わってくる。


「ああ、これであとはアイドルデビューできたらな~。『NKM33』のオーディション受けたいわ~」


「NKM33って、ミケちゃんぐらいの年齢でもオーディション受けられるの?」


 なんとなく、疑問を口にしてみる。


「たしか、十一歳からのはずよ。ミケの歳が、何歳扱いになるのかわかんないけど」


 ふむ。戸籍もないものねえ。白部さんが政治のほうで何か動いてるとおっしゃていたけど、そのへんの法整備も進んでいくのかしら?


 そのことを口にしようかどうか迷ったけど、そばにいる白部さんが何も言わないということは、まだ見通しが明るくないということなのかな。


 こういうのは勝手に伝言ゲームするより、白部さんが時期を見て話されるのを待つほうが良さそうね。


「いいなー。誕生日かー。アタシも祝われてーなー。みんな楽しそうだったもんなー」


 そうぼやくのはノーラちゃん。何しろ昨年末に転生したばかりだから、誕生パーティーは当分先だ。


「そうね。あと八ヶ月くらいか。お誕生日が来たら、みんなでお祝いしましょうね」


 愛娘に慈愛の笑顔を向ける白部さん。私たちが「娘」の成長を日々感じ、喜んでいるように、彼女もまた同様なわけで。ノーラちゃんの次ぐらいか、あるいはそれ以上に彼女の誕生日を心待ちにしいていることでしょう。


 この後は、五月三十日にまりあさん、六月十日に由香里さん、七月十五日にクロちゃんと、毎月誕生日ラッシュが続く。身内が十一人もいれば、まあそうなるよねって感じだけど。


 で、九月三日は記念すべきアメリの誕生日。私は当日、泣いてしまうかもしれない。


 おっと、想像が未来に飛んでしまった。目の前のお仕事に集中しましょ。



 ◆ ◆ ◆



「ねえ、みんなは将来何になりたい?」


 仕事に打ち込んでいると、不意に白部さんからそんな質問が子供たちにかかる。


「アイドル!」


「サッカー選手!」


「将棋の棋士になりたいです」


 即答する、ミケちゃん、ノーラちゃん、クロちゃん。クロちゃん渋いなあ。


「アメリは……先生になってみたい!」


 おお、さすが知的探究心の塊なうちの子! 先生かー。似合うだろうなー。


「それは、学校の先生という意味でいいのかな?」


「んー、よくわかんないけど、白部せんせーみたいの?」


 およ、研究路線志望ですか。これまた似合うなー。


「まあ、学校とか行ってないから、いまいちピンとこないよね。先生といっても、二つあるんだよ」


 教師と研究職の違いについて、噛み砕いて説明する白部さん。


「おお~……どっちも面白そう!」


 とりあえず、アメリは「知」の仕事に進みたいようだ。アメリがそのつもりなら、私は全力で応援したい。


「みんな、夢を持っていて素敵だね。私は、研究者としてできる限り、みんなの夢の実現に協力させてもらうね」


 ありがとうございます、白部さん! 私は一介の漫画家で、何もできないのが口惜しいな。


 おっと、気づけば三時だ。お茶菓子お出ししましょうね。



 ◆ ◆ ◆



「白部さん、私はアメリの夢のために何ができるでしょう?」


 折りたたみ机を囲みながら、私も場に混ざる。休憩も大事。


「猫崎さん、しっかりお勉強を教えられてますし、できる範囲で十分なことをなされてると思いますよ」


「ああ、いえ……なんと言いますか、もっと社会的な意味で、ですね。政治方面で話が動いていると以前おっしゃってたじゃないですか。署名とか集めたほうがいいのかなあとか、考えるんです」


「うーん……。私のほうにも、具体的にどんな話が動いてるかはまだ伝わってこないんですよね。そのへん、末端の悲しさといいますか。ですので、まずは我が子の育児をお互い頑張りましょう」


 一瞬切なそうな顔をしたものの、すぐ笑顔を向けてくる彼女。


 そうね。アメリを育てる、それこそがまずは至上命題だ。


「神奈おねーさんもセンセーも、明日の主役のこと忘れてなーい?」


 蚊帳の外感を感じたミケちゃんが、ちょっとむくれる。


「あ、ごめんね。そうよね。未来のことより、明日を最高のパーティーにしないとね!」


 慌ててフォロー。


「優輝たちがね、一生思い出に残るパーティーにするって張り切ってたのよ! みんなも楽しみにしててよね!」


 へー、優輝さんとか一番ノリノリなんだろうなあ。


 今までのパーティーも気合が入ってたけど、今回は愛する娘の誕生日だものね!


 思えば、今まで大人勢の誕生パーティーばかりで、子供たちではミケちゃんが初めてだ。私も、彼女に最高の一日を贈ろう!

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