今日は、白部さんとノーラちゃんが遊びに来ています。
私が「追い込み中なので、あまりお構いできませんが」と恐縮すると、ノーラちゃんを連れて「ご迷惑をおかけするわけにはいきませんよね」と、引き返そうとされました。
しかし、明らかにノーラちゃんが失意の横顔を見せるじゃありませんか。そこで、一旦呼び止めご相談。
最初、アメリを向こうに遊びに行かせようかと思ったけれど、ここで私の難儀な性質が立ちはだかりました。
私、アメリがそばにいないと調子が出ないのです。周りでわいわい騒いでても筆が平気で進むのに、こればかりはてんでダメ。
昔、猫アメリが入院したときは、全く集中できなくて参りました。そして何より、アメリもノーラちゃんと遊びたがっているわけで。
そんな事情をお話すると、「では、申し訳ないですが、お邪魔させていただきます」と恐縮されながら、上がっていただきました。
ただ、本当にお構いする余裕がないのでお出しできたのは紅茶のみという。恐縮です。
「がおー! 俺様は戻ってきたぞー、ゴッドレンジャー! ぐおー! がしゃーん!」
「ああ! カン姉の車がー! おのれー、バッドキング!」
なんか、後ろで私の愛車が酷い目に会っているらしい……。ちょっと切ない。
「にげて、かにざえもんさん!」
「きみをおいてにげるわけにいくもんか、ほえほえさん!」
さらに、アメリはゴッドレンジャーVSバッドキングの傍ら、相変わらず要救助者の魚介類同士で愛の劇場を展開。
てかほえほえさん、また相手役変わってない? そういえば、アメリの海産物ファミリーって逆ハーレム状態なのよね、よく考えたら。ちょっと、アメリの将来が心配だわ……。
などとしょうもないことを考えつつも、筆がすいすい進む。うーん、アメリパワーここに極まれり。
楽しげな遊び声をBGMに、ずんずん執筆。今日のノルマだいたい達成! 我ながら早いなあ。もうひと頑張りしようと思ったとき、PCの時計が五時半を指していることに気付く。
「白部さん、ピザ取ろうと思うんですけど、ご一緒にいかがですか?」
くるりと椅子ごと振り向く。
「えっ、悪いですよ」
「まあまあ。私とアメリだけじゃMサイズでも食べすぎになっちゃいますし」
「じゃあ、せめて半分お代を……」
財布を取り出す彼女。
「気を使っていただかなくて大丈夫ですよ。いつもアメリと遊んでいただいているお礼だと思ってください。特に今日なんて、私アメリを構ってあげられる余裕があるか怪しかったですし」
「そう仰るのでしたら……」
また善意の押し問答になるとご理解していただけたのか、白部さんが承諾してくださいました。
「じゃあ、善は急げということで。ピザ届くまで、三十分ぐらいかかりますからね。何か、好みのトッピングあります?」
最寄りのピザ屋のチラシをお見せすると、三人でわいわいがやがやと相談を始める。ちなみに、私はみんなのが決まったあとで野菜マシマシ系のを頼むつもり。
「全員決まりました」
白部さんがオーダーを伝えてくださるので、それプラス私の野菜系の四種乗せを注文。お会計はクレカで済ませる。
「では、引き続きアメリのことよろしくお願いします」
「はい、お任せください」
お辞儀して再びPCと向かい合う。作業に没頭することしばし、インタホンの呼び鈴が鳴りました。
立ち上がろうとすると、「私が取ってきます」と白部さんが仰るので、ご厚意に甘えさせていただき、「では、台所の食器棚から取り皿を一つお願いします」とお願いする。
ややあって白部さんが戻られたので、「行儀悪で失礼します」と断りつつ、取り皿に自分のぶんを取ってデスクでいただきながら執筆再開。シーフード系はアメリだろうけど、テリヤキチキンとペパロニは、それぞれ白部さんとノーラちゃんどちらのかしらね?
一人暮らし時代以来の、仕事と食事の同時進行というムーブをして、ひたすら筆を走らせる。うーん、お野菜美味しい。コーヒー牛乳で流し込むと、気分はイタリアン! いや、アメリカン? まあ、どっちでもいいや。
「……さん、猫崎さん?」
肩を叩かれ、驚いて振り返るとそこには白部さん。あやー、ずいぶんと集中していたらしい。
「夜も遅いので、そろそろお暇させていただきます」
「えっ、もうそんな時間ですか!?」
PCの時計を見ると、七時半を回っていた。折りたたみ机を見ると、ピザの箱はきれいに折りたたまれてどかされ、ノーラちゃんがゴッドレンジャーとひっくり返った私の車のミニカーを片付けながら、撤収作業をしている。マイカーが、またぞやなんだか悲惨な目にあった模様。しくしく。
「すみません。私、集中すると没頭してしまうタイプで……。門までお送りしますね」
「いえいえ、そういうときってありますよね。今日は、お忙しいところ失礼しました。ピザ、ごちそうさまでした」
というわけで、お二人は帰っていきました。互いに手を振り合うアメリとノーラちゃん。
ふー。肩と腰がバッキバキだあ。さすがに少し休憩したほうがいいね。お風呂入ろうかしら。
◆ ◆ ◆
「アメリ。クリスマスの日にね。サンタっていうおじいさんがアメリにプレゼントくれるよー」
浴槽で、そんな話を切り出す。
「おお? さんた?」
「うん。クリスマスイブ……二十四日の夜にね、良い子のところにプレゼントを配っていくおじいさんなの。アメリは良い子だからちゃ~んともらえるんだよー」
「おお~!」と、対面でキラキラ瞳を輝かせる彼女。ふふ、密かに注文した私のプレゼント、アメリはどのぐらい喜んでくれるかなー。楽しみ!
翌日、抱える程度の大きさをした通販のダンボール箱が届きました!
「おお~? おねーちゃん、何それ?」
興味深げに覗こうとするアメリ。
「んー? 個人的な買い物だよー」
アメリの手が届かないように、本棚の上に安置する。開けてびっくり、玉手箱! ってやつですよ、アメリちゃん。クリスマス、待ち遠しいなあ~。
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