神奈さんとアメリちゃん

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第三百三十八話 ときには人を頼るのも大切なこと

公開日時: 2021年9月1日(水) 21:01
文字数:2,662

「おねーちゃーん」


「なーにー?」


 朝、もっそもっそとトーストをかじっていると、対面のアメリちゃんから声をかけられました。


「そろそろ新しいお勉強教わりたーい」


 ほむ……次は小数か、分数の掛け算か。あ、ダメ……頭回んないわ。


「もっとしゃっきりしてから考えていーい?」


「うん!」


 愛しい我が子のためにも、頑張って覚醒しましょ……あふぅ。



 ◆ ◆ ◆



 意識もしっかりして、寝室に戻ってPCを立ち上げたのはいいけれど。


 さて、何を教えたものか。問題は、私が今繁忙期だってことなのよね。


 アメリのために、一時間ぐらい割いてあげたいところではあるけれど。復習も入れると、結構時間を食うっちゃ食う。


 ……む。ひらめいた! 持つべきものは友! いささか厚かましいお願いだけど、彼女にとっても悪い話ではないはずだ。


 さっそくコール。


「おはようございます。いかがされました?」


 通話相手は白部さん。


「おはようございます。厚かましくて恐縮なのですが、その、私が繁忙期に入ってしまっているもので、アメリに勉強を教えてあげていただけないかなあ……なんて思いまして」


「ぜひ喜んで!」


「あ、ありがとうございます。でも、ご迷惑じゃありません?」


 予想外の食い気味な好反応に戸惑う。


「いえいえ。猫耳人間の学習を直に受け持てるとか、むしろありがたいお話ですよ。そうだ、ミケちゃんやクロちゃんも誘っていいですか?」


「あ、はい、うちは構いません。ただ、あまりお構いできませんが、よろしいでしょうか?」


 私はそばにアメリがいないと、能率がガタ落ちになるというのは彼女にも話してあるので、かくてるハウスなどでお勉強では、かえって作業効率が落ちて元も子もなくなってしまうと理解を得ている。そんなわけで、自然と集合場所は我が家。


「大丈夫です。私は一向に構いませんよ。ちょっと、グループ通話に切り替えます」


 一度通話が切れたので、原稿を進めながら待つ。おっと、コールが来ました。


「はい」


「おはようございま~す」


「おはようございます」


 それぞれ、優輝さんとまりあさんの声だ。「おはようございます」とご挨拶する。


「どーもどーも、今日は勉強会のお誘いいただきまして」


「恐縮です。せっかくですから、みんなのお勉強を見たいなと思いまして」


 優輝さんと白部さんの会話。


「どうもすみません。私がした提案から、何だか大きな話になってしまって……」


 電話口で頭を下げる。


「いえいえ。みんなで勉強会、いいと思いますよ。ただ、何時から始めましょう?」


「そうですね……四人に同時に教えていきますから、早めのほうが時間をあまり気にしなくて済みますね」


 今度は、まりあさんと白部さんが会話。主導権が、すっかり白部さんに移ってしまったな。まあ、構わないけれど。


「猫崎さん」


「はいっ!」


 蚊帳の外っぽさにぼーっと話を聞きながら筆を走らせていたら急に呼びかけられたので、びくっとなる。


「猫崎さんのご都合に合わせますよ。何時がいいですか?」


「あ、ちょっとアメリに訊いてみます」


 送話口を塞ぎ、「アメリー、みんなでお勉強会開くけど、何時がいーい?」と問う。


「何時でもいーよー!」


 力強いお言葉をいただいてしまった。


「えーと、何時でもいいとのことです」


「では、今九時ですから……十一時頃伺いましょうか? 私、ノーラちゃんと一緒にお弁当持っていきますね。宇多野さんと角照さんはいかがでしょう?」


「お! お弁当ですか! 腕が鳴りますねえ! いいですよー」


「わたしもそれで構いません。クロちゃんにお弁当持たせますね」


 うーん、なんだかおんぶにだっこで恐縮だなあ。


「アメリー。遊園地でお菓子買ったでしょう? あれ、みんなと一緒に食べるんでいいかな?」


 手つかずのお土産を思い出し、送話口を塞いで当人に提案してみる。


「いいよー!」


「あ、すみません。お菓子はこちらで用意できそうです。お茶もご用意させていただきますね」


「ありがとうございます。クロちゃんは、私が迎えに行きますね。では、十一時に」


 みんなで「お疲れ様でした」と、通話終了。いやはや、こんな突飛なお話を快く引き受けてくださって、なんて素晴らしい人たちだろう。


 さて、うちのごはんはどうしようかな?


 よし、ここは日本が誇るキング・オブ・お弁当、おにぎりにしよう!


「アメリちゃん、今日のお昼はおにぎりにしますよー」


「おおー、アメリ作る!」


「そうね。最初に作り方見せてあげるから、お願いしようかな」


 「おおー!」と気合い充分なお嬢様。


「ごはん炊くのもやる?」


「やるー!」


「じゃあ、二合……二カップお願いね」


 「はーい」と立ち上がり、とてとてキッチンに向かうシェフ。


 ふう、何だか私も家事で少し楽できるようになって、ありがたいなあ。


 だからこそアメリの負担になってるようなら、きちんと気をつけないとね!



 ◆ ◆ ◆



 十時半。アメリと一緒にツナマヨおにぎりを、ころころりんと握ります。熱さに戸惑うアメリちゃん。少し冷ましてから握りましょうか。


 少し時間を潰してから再チャレンジ。アメリの握ったおにぎりはちょっと不格好だけど「初めてにしては上手だよ!」と手を叩いて褒める。


「おおー、ほんと? でも、おねーちゃんの握ったほうがきれいだね。次、もっと頑張る!」


 と、いつもの強い向上心を見せる。本当に、努力家さんだねえ。


 ちなみに、三角形で海苔付きがうちのスタイル。では、このまま置いておきましょー。


 仕事をしながら皆さんをお待ちしていると、インタホンが鳴りました!


「はーい、どちらさまでしょう?」


「あ、あたしらです。ミケを送って来ました」


「今、伺いまーす」


 アメリと一緒に門へ。


「こんにちは。白部さんたちはもう?」


「こんにちは。いえ、お二人が先ですね」


 なんてご挨拶してから、ミケちゃんを中に招き入れる。優輝さんは、「何かあれば、いつでも呼んでください」と、お隣に帰って行きました。


「アメリ、今日はお姉ちゃんのお姉ちゃんたるユエンを見せてあげるわ!」


 寝室で胸をそらしドヤ顔。相変わらず可愛いことで。


 千多せんたちゃん愛あふれる限界トークを繰り広げるミケちゃんと、「おお~」と相槌を打ちながら聞き手に回るアメリの会話に耳を傾けつつ筆を走らせていると、インタホンが再び鳴りました!


 応対に出ると、果たして白部さんたち。


 門まで迎えに行き、ご挨拶の後、中にお通しする。


「では、今日はよろしくお願いします」


「はい。お任せください。みんなも、今日はよろしくね」


 お茶を配膳して白部さんに一礼し、私は再度お仕事モードに。「はーい!」と元気に応える子供たち。


 さてさて、どんなお勉強会が開かれるのでしょーか?

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

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