神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第百五十九話 カニのセイコさん

公開日時: 2021年4月25日(日) 12:31
文字数:2,155

帰りはお母さんの運転で、通り道である東尋坊近くの食事処へ。そして、チョイスを任された私がピンと来たのは「かわに水産」さん!


 こちら宮内庁御用達の老舗で、レビューサイトの評価も高い。というわけで、駐車場に車を停め入店~。


 席に通されたので、メニューを眺める。おお、どれも美味しそう~。


 お、ありましたありました! 福井県民・冬の心の味、セイコガニ丼!


 セイコガニというのは、卵を抱いたメスズワイガニのこと。この内子が、じ~つ~に~美味なのです!


 ただ、これまるっと一杯はアメリには多すぎるね。


「ねえアメリ、これ半分こしない?」


 写真を指し示しながら、提案する。


「おお? カニ? ……カニ!? かにざえもん、バラバラになってる!」


 ひょおおっと身をすくめるアメリ。


「あー、これは女の子のカニさんだから、かにざえもんと関係ないよ~」


「お、おお~……。かにざえもん無事だったんだね。でも、セイコさん可哀想……」


 優しいねえ、アメリは。キャスゲット越しに頭を撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。


「僕たちもセイコガニ丼にしようか」


「そうしましょう。神奈、残りの運転頼んでいい?」


「あー、呑みたいのね。りょーかい、任せてちょーだい」


 さて、私はアルコールも頼めないとなると、何かちょっとした主食が欲しいな。昨日も食べたばかりだけど、この焼きとうもろこしでいいか。ほかにちょうどいいのないのよね。お蕎麦とかじゃ食べすぎだし。


 というわけで、セイコガニ丼三杯と日本酒二本、焼きとうもろこしをオーダー。


 水族館の感想で盛り上がっていると、来ました、セイコガニ丼とその他!


「いただきます」


「おお~、いただきます! セイコさんごめんなさい」


 なんだかセイコさんにやたら感情移入してるアメリだけれど、やっぱりさっきカニと触れ合ったせいかな。


 とはいえ、きちんと食べることが供養……食べ物のためになることだと教えたことがあるので、しっかり口に運んでいく。


「美味しい!」


 一転して、瞳をキラキラ輝かせるアメリ。


「でしょ~?」


 私はアメリが半分食べ終わるまで、とうもろこしなう。


「ごちそうさまでした」


 とアメリが食べ終わったので、丼を引き継ぐ。


 うふふ、これですよ、これこれ! この内子のプチプチ感と濃厚さがもうね! サイコーなのですよ!


 もちろん、肉も美味しい。というか、セイコガニはふんどしえら以外、捨てる身がない。


 私もこれで日本酒をキュッといきたいところだけど、我慢我慢。


 ふう、ごちそうさまでした。



 ◆ ◆ ◆



 みんな食べ終わったので、お会計を済ませて車に乗り込む。


「シートベルト、おっけー?」


 ハンドルを握り確認すると全員マルとのことで、アクセルを踏む。


「それにしても、今日は魚介尽くしだったね~」


 水族館とかわに水産の食事を思い出しながら、ハンドルを切る。


「おお~! ウミガメとか、すごかった!」


 楽しそうに返答するアメリ。


 こんな感じで今日一日を振り返りながら、家路を辿る。


 すると、後部座席のお母さんが「神奈、お父さん。しーっ」と声を押さえて言う。


 ピンと来てバックミラーでアメリの様子を見ると、すやすやと眠り込んでしまっている。


 今日随分歩いてはしゃいだし、お腹もいっぱいになって眠くなっちゃったんだね。


 私は運転に集中、お父さんたちはスマホで時間を潰しながら、道を進むのでした。



 ◆ ◆ ◆



「アメリちゃん、起きて起きて」


 お母さんがアメリを揺すり起こすと、気だるげにまぶたを開ける。


「おお……? ここ、どこ?」


「うちに帰ってきたの。さ、中に入りましょ」


 アメリが、半分寝ぼけながらシートベルトを外すとお父さんがおんぶし、中へと連れて行く。


「さ、アメリ。頑張って歯を磨こう」


 歯ブラシとコップを手渡し、うつらうつらしている彼女に歯を磨かせる。


 ……けど、船漕いで全然進まないね。しょうがない。


「今日だけだよー」


 と言いながら、代わりに歯ブラシを動かす。


 うがいは自分でないと無理なので、それはアメリに頑張ってもらう。


「さ、後はお風呂だけど……雑にシャワーだけでいいかな」


 この様子じゃ、どうもゆっくり入浴というわけにはいかなそうだ。


 なんとか服を脱がせ、さっとシャンプーとシャワーだけする。


 着替えを手伝い、今日の服は洗濯してやっとの思いで客間で横にならせた。


「ふう~。この調子で、明日大丈夫かしらね?」


 ともかく、次は私の入浴タイムだ。今日の汗をゆっくり流しましょ。



 ◆ ◆ ◆



「あー、いいお湯だったー。お母さん、次どうぞー」


 リビングに戻り、パジャマ姿でこたつに入る。入れ替わりにお風呂に向かうお母さん。


「アメリ、相当疲れたみたいだね」


 お茶を片手に、お父さんが話しかけてきた。


「丸一日遊び倒したからねー。私もお茶飲もっと」


 お茶をれ、お父さんの対面に座る。


「それにしてもさ、中学のあの日、お父さんがアメリをお迎えしてくれなかったら、今日という日はなかったんだね」


 しみじみと語る。縁は異なもの。ここ最近、特に感じることだ。


「そうだね。何よりきっと、神奈がアメリを愛しきちんと育てたからだよ」


 笑顔を向けてくるお父さん。


「ふふ、ありがと。そうだね。思えば私の人生の半分は、アメリと歩んできた日々なんだなあ……」


 微笑み、じっと湯呑の水面みなもを見つめる。


 これからもアメリと一緒に人生を歩み、大切に育てていこう。そう、決意を新たにするのでした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート