帰りはお母さんの運転で、通り道である東尋坊近くの食事処へ。そして、チョイスを任された私がピンと来たのは「かわに水産」さん!
こちら宮内庁御用達の老舗で、レビューサイトの評価も高い。というわけで、駐車場に車を停め入店~。
席に通されたので、メニューを眺める。おお、どれも美味しそう~。
お、ありましたありました! 福井県民・冬の心の味、セイコガニ丼!
セイコガニというのは、卵を抱いたメスズワイガニのこと。この内子が、じ~つ~に~美味なのです!
ただ、これまるっと一杯はアメリには多すぎるね。
「ねえアメリ、これ半分こしない?」
写真を指し示しながら、提案する。
「おお? カニ? ……カニ!? かにざえもん、バラバラになってる!」
ひょおおっと身をすくめるアメリ。
「あー、これは女の子のカニさんだから、かにざえもんと関係ないよ~」
「お、おお~……。かにざえもん無事だったんだね。でも、セイコさん可哀想……」
優しいねえ、アメリは。キャスゲット越しに頭を撫でると、「うにゅう」という気抜け声を上げる。
「僕たちもセイコガニ丼にしようか」
「そうしましょう。神奈、残りの運転頼んでいい?」
「あー、呑みたいのね。りょーかい、任せてちょーだい」
さて、私はアルコールも頼めないとなると、何かちょっとした主食が欲しいな。昨日も食べたばかりだけど、この焼きとうもろこしでいいか。ほかにちょうどいいのないのよね。お蕎麦とかじゃ食べすぎだし。
というわけで、セイコガニ丼三杯と日本酒二本、焼きとうもろこしをオーダー。
水族館の感想で盛り上がっていると、来ました、セイコガニ丼とその他!
「いただきます」
「おお~、いただきます! セイコさんごめんなさい」
なんだかセイコさんにやたら感情移入してるアメリだけれど、やっぱりさっきカニと触れ合ったせいかな。
とはいえ、きちんと食べることが供養……食べ物のためになることだと教えたことがあるので、しっかり口に運んでいく。
「美味しい!」
一転して、瞳をキラキラ輝かせるアメリ。
「でしょ~?」
私はアメリが半分食べ終わるまで、とうもろこしなう。
「ごちそうさまでした」
とアメリが食べ終わったので、丼を引き継ぐ。
うふふ、これですよ、これこれ! この内子のプチプチ感と濃厚さがもうね! サイコーなのですよ!
もちろん、肉も美味しい。というか、セイコガニはふんどし以外、捨てる身がない。
私もこれで日本酒をキュッといきたいところだけど、我慢我慢。
ふう、ごちそうさまでした。
◆ ◆ ◆
みんな食べ終わったので、お会計を済ませて車に乗り込む。
「シートベルト、おっけー?」
ハンドルを握り確認すると全員マルとのことで、アクセルを踏む。
「それにしても、今日は魚介尽くしだったね~」
水族館とかわに水産の食事を思い出しながら、ハンドルを切る。
「おお~! ウミガメとか、すごかった!」
楽しそうに返答するアメリ。
こんな感じで今日一日を振り返りながら、家路を辿る。
すると、後部座席のお母さんが「神奈、お父さん。しーっ」と声を押さえて言う。
ピンと来てバックミラーでアメリの様子を見ると、すやすやと眠り込んでしまっている。
今日随分歩いてはしゃいだし、お腹もいっぱいになって眠くなっちゃったんだね。
私は運転に集中、お父さんたちはスマホで時間を潰しながら、道を進むのでした。
◆ ◆ ◆
「アメリちゃん、起きて起きて」
お母さんがアメリを揺すり起こすと、気だるげにまぶたを開ける。
「おお……? ここ、どこ?」
「うちに帰ってきたの。さ、中に入りましょ」
アメリが、半分寝ぼけながらシートベルトを外すとお父さんがおんぶし、中へと連れて行く。
「さ、アメリ。頑張って歯を磨こう」
歯ブラシとコップを手渡し、うつらうつらしている彼女に歯を磨かせる。
……けど、船漕いで全然進まないね。しょうがない。
「今日だけだよー」
と言いながら、代わりに歯ブラシを動かす。
うがいは自分でないと無理なので、それはアメリに頑張ってもらう。
「さ、後はお風呂だけど……雑にシャワーだけでいいかな」
この様子じゃ、どうもゆっくり入浴というわけにはいかなそうだ。
なんとか服を脱がせ、さっとシャンプーとシャワーだけする。
着替えを手伝い、今日の服は洗濯してやっとの思いで客間で横にならせた。
「ふう~。この調子で、明日大丈夫かしらね?」
ともかく、次は私の入浴タイムだ。今日の汗をゆっくり流しましょ。
◆ ◆ ◆
「あー、いいお湯だったー。お母さん、次どうぞー」
リビングに戻り、パジャマ姿でこたつに入る。入れ替わりにお風呂に向かうお母さん。
「アメリ、相当疲れたみたいだね」
お茶を片手に、お父さんが話しかけてきた。
「丸一日遊び倒したからねー。私もお茶飲もっと」
お茶を淹れ、お父さんの対面に座る。
「それにしてもさ、中学のあの日、お父さんがアメリをお迎えしてくれなかったら、今日という日はなかったんだね」
しみじみと語る。縁は異なもの。ここ最近、特に感じることだ。
「そうだね。何よりきっと、神奈がアメリを愛しきちんと育てたからだよ」
笑顔を向けてくるお父さん。
「ふふ、ありがと。そうだね。思えば私の人生の半分は、アメリと歩んできた日々なんだなあ……」
微笑み、じっと湯呑の水面を見つめる。
これからもアメリと一緒に人生を歩み、大切に育てていこう。そう、決意を新たにするのでした。
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