今日も、ミケちゃんとクロちゃんが来る日。白部さんがいないと、お勉強会ができないのがネックね。繁忙期を、抜けさえすれば……。あと、一息なんだけどなー。
今回はクロちゃんが早めに到着していて、ミケちゃんを待つだけだけど……。
お、呼び鈴。
「はーい。どちら様ですかー?」
一応確認しないとね。
「どうもー。わたしです、由香里です。ミケちゃんも一緒ですよ」
あら、送りに同行とは、最近では珍しい。とりあえず、出ましょ。
「こんにちは」
三者互いにご挨拶。相変わらず、二人ともおしゃれな服装ね。ミケちゃん、ツーサイドアップから、左右に黒いリボンに変えてる。
「由香里さん、お送りお疲れ様です。じゃあ、中に行こうか、ミケちゃん」
「あのー、すみません」
「はい?」
由香里さんに呼び止められる。
「わたしも、お邪魔してよろしいでしょうか?」
「はい?」
さっきと違い、若干「い」が上がったイントネーションで聞き返してしまう。
「ご迷惑でしょうか?」
「いえ! そんなことは! 変な声出してすみません。ご多忙な時期でしょうにと思って……」
「あー、だからこそでして……」
うーん、なんだかよくわからないけど、この日差しの中、立ち話させるもんじゃないね。
「わかりました、中へどうぞ」
というわけで、二人を招き入れました。
◆ ◆ ◆
「こちら、飲み物と菓子です」
「すみません、わざわざ」
由香里さんから、ビニール袋を渡される。また、いただきものをしてしまった。お返ししないとなあ。
「あ、気になさらないでくださいね。私も押しかける、ご迷惑代的に考えていただければ」
「いえいえ、迷惑だなんてそんな! とりあえず、こちらご用意させていただきますね。お先に、寝室で待っていてください」
「はい。ありがとうございます」
どうも、調子狂うな。由香里さんといえば、かくてるの大黒柱。うちにいらしてて、大丈夫なのかしら?
ソツのない彼女が、無計画にサボるとも思えないし。なんか事情がありそうな。
でも、私から深堀りするもんじゃないよね。事情があるなら、彼女が話すまで待とう。
トレイにパッキーとそれぞれのドリンクを乗せて、リビングを通りかかると、由香里さんがトマト&バジルを眺めてました。
「どうされました? 何か気になることでも?」
「あ、いえ。これ、収穫どきですね。早めに摘んだほうがいいですよ」
トマトを手に取り、つぶやく彼女。
「そうなんですか? あとで、そうしますね。飲み物とお菓子用意できましたので、寝室へ行きませんか?」
「そうですね。よく育ってたので、つい見とれてしまって」
「ありがとうございます」
褒められてしまった。それはさておき、寝室へ。
中に入ると、三人娘が最近のレッスンなどの、進み具合を話し合ってたようです。そういえばこの三人、趣味がバラバラなのよねー。
「いやー、ここも、仕事場を拝見して以来ですねー」
懐かしそうに、あたりを見回す彼女。
配膳も終わったので、「では、失礼してデスクに」と言って、仕事を再開する。
「実はわたし、失敗しちゃいまして」
「えっ!?」
突然語られる、重そうな話にびっくり。
「データを破壊しちゃった……とかですか!?」
「あ、いえ。そんな大げさなのじゃないんですけど、細かい凡ミスが続きまして」
「そーなのよ。こないだの料理とか、由香里にしてはビミョーなデキだったわ」
ミケちゃんが話に入ってくる。
「まあ、そんな感じで。わたし、家事炊事がストレス発散法なんですけど、それですらミスが目立って。『いっそ、丸一日羽根を伸ばしてきなよ』って、優輝ちゃんに勧められたんです」
ははあ、そういうことだったのね。
「そんなわけで、お邪魔した次第なんです」
「そういうことでしたら、ごゆっくりなさっていってください。あまりお構いできなくて、恐縮ですが」
「いえいえ。こうしているだけで、結構気が休まります」
ボトルを開ける音が聞こえる。彼女の好きな、オレンジジュースを飲んでるみたい。
「おお~。じゃあ、『大航海世代』やる? 由香里おねーちゃん」
「いいよー。みんなもやる?」
「やるやる」と、ミケちゃん、クロちゃんも同意。四人でゲームを始めました。
彼女、ゆっくりできるといいな。
◆ ◆ ◆
「由香里、強い~」
ミケちゃんが、うにゃあって感じの声を上げる。
ちょいと画面を見てみると、由香里さん圧勝。
「お上手ですね~」
思わず感服。
「いえいえ。運が良かっただけですよ。もう一回やる?」
「うん!」と子供たち同意。良き哉良き哉。
◆ ◆ ◆
「む~……。さっきから、全っ然由香里に勝てないわ……」
不満げな声を出すミケちゃん。
「ちょっと、ガチにやりすぎたかな……」
ふーむ。運の要素が強いゲームだけど、戦略・戦術が物を言う部分もあるからねー。かといって手を抜くと、それはそれで、ミケちゃんムキになりそうだし。
「すみません、由香里お姉さん。ハンディキャップつけてもらえますか? ボク、勝ち目ないです」
ここで、クロちゃんのさりげないアシスト。プライドの高いミケちゃんに代わり、ハンディキャップマッチを申請。
「じゃあ、初期資金……このぐらいかな。少なくしてスタートするね」
「ありがとうございます」
というわけで、ゲーム再開。
◆ ◆ ◆
「やったわ! 優勝よー!」
ミケちゃんのシャウト。一同から拍手が飛ぶ。私も拍手。
「おめでとー」
「まーね。ちょっとホンキを出せば、こんなもんよ」
顔は見えないけど、胸を反らしてるのがわかる。きっと、ドヤ顔を決めていることでしょう。
「ミケちゃん、上手だねー」
由香里さんも賞賛。
「むう。ハンデつけた由香里に言われてもなー……。とりあえず、休憩しない? 目が疲れちゃった」
「アメリもー」
「じゃあ、休憩しましょ」
というわけで、休憩タイム。私も、ちょっと休憩するか。疲れ目の目薬、注そ。
「疲れ目の目薬、みんなも使う?」
「使うー」と、子供たち。由香里さんも、「お借りします」と、注し回していきます。
「ありがとうございました」と、由香里さんが返しに来ようとするけど、「せっかくなので、そちらで話の輪に入らせていただきます」と、自分から出向きました。
「どうでしょう? 疲労というか、ストレスというか、そういうのは少しでも抜けた感じですか?」
「はい、おかげさまで。ただ、調子が戻ってきたせいか、なんだか料理がしたくなってきてしまいました。あの、差し支えなかったら、さっきのトマトとバジルで、サラダ作らせてもらえませんか?」
ひょ。また、突飛なお申し出を。でも、どうせ私たち二人だと、持て余す量だしなー。
「では、お願いできますか? あ、良ければ摘み方教えて下さい」
「いいですよー」
というわけで、レクチャーを受けながら、チョキンチョキンとハサミで切っていく。ふう。なかなか大変だな。子供たちは、後ろで見学。途中、自分もやってみたいと言うので、交代したり。
「……終わりましたー」
とれとれのトマトと、バジルがジャーン!
「お疲れ様です。では、お台所お借りしますね」
「調理器具とか、調味料の説明はおまかせを~」
彼女を先頭に、みんなでぞろぞろ。
とれたて野菜と、由香里さんの腕前の、奇跡のマリアージュに期待。
続く!
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