神奈さんとアメリちゃん

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第四百一話 スマホと親離れ

公開日時: 2021年11月6日(土) 21:01
更新日時: 2021年11月7日(日) 23:04
文字数:2,892

 白部先生による授業のもと、三人娘の勉強が進んでいく。


 BGMは、四人の抑え気味な喋りと、雨音のみ。なんだか、心が落ち着くなあ。


「なー、カン姉ー。おやつもうないのかー?」


 唐突に、ノーラちゃんから尋ねられる。折りたたみ机の上を見てみれば、用意したクッキーのお皿がすっかり空に。


「こら、厚かましいこと言わないの」


 たしなめる白部さん。


「いえいえ。子供なんて、無遠慮なぐらいがちょうどいいってもんですから。私もちょっと気分転換したいですし、カップケーキで良ければ作ってきますよ」


「やったー!」


 バンザイノーラちゃん。


「もう、この子はほんとに……めっ・・。すみません、それではご厚意に甘えさせていただきます」


「はい。では、少しお待ち下さいね。紅茶のおかわりもれてきます」


 ティーセットとお皿をトレイに載せ、キッチンへ向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



「お待たせしましたー」


 キング・オブ・お手軽おやつ、カップケーキとティーセットを手に、帰還~!


「ありがとうございます。ノーラちゃん、きちんとお礼言いましょう」


「ありがとー、カン姉ー!」


 アメリとノーラちゃんからも、お礼の言葉をもらう。


「せっかくですから、息抜きということで私も少しご同席しますね。勉強の進み具合は、どんな感じでしょう?」


 押し入れから座布団を引っ張り出し、角っこに掛ける。


「極めて順調ですね。ノーラちゃんがちょっと集中力に欠けるところがありますけど、エレメントレンジャーの本を読むためというと、やる気を出してくれるので」


「そうなんですね。みんな頑張ってますねー。あ、ということは、算数では気を向けさせるのに苦労してる感じですか?」


 カップケーキをひとすくいして、口に運ぶ。


「そこなんですよね。実は、それが密かな課題で」


 ノーラちゃんの頭を撫でながら、答える彼女。


「だって、運動のほうが楽しーんだもん。この雨、やんなるぜー」


 ふーむ、スポーツ少女の悩みだねー。


「あの、近くに生涯学習センターあるじゃないですか。あそこで、運動させてあげるのはいかがです?」


「ああ、それはいいかもしれませんね! 明日にでも行く?」


 愛娘に尋ねる白部さん。 彼女もここに移ってからまだ一年も経ってないので、ひらめかなくても仕方がない。


「おー? なんだそれー?」


「図書館とか宿泊施設があるんだけど、体育館とかトレーニングルーム……雨でも運動できるスペースもあるのよ。プールもあるんだけど、ノーラちゃんだと利用はちょっと難しいかなー?」


「あー、水泳帽必須ですもんね。あと、猫耳人間が利用していいのかもわかりませんし」


 猫耳人間が水泳帽なんて着けたら、耳が大変不自由なことになる。


「おー! 運動できるのか! なー、二人ともー、スポーツしようぜー!」


 キラキラと瞳を輝かせるノーラちゃん。


「おおー、面白そう!」


「そうねー。たまにはいいかも」


 アメリとミケちゃんもノリ気。


「クロちゃんは、一緒にやるかしら?」


 市バスが通っているので、この雨でも行けないことはない。


「性格的に乗ってこなさそうな気もしますけど、誘うだけ誘ってみたいですね。後で、電話してみます」


 ノーラちゃんに大好きな運動をさせてあげられるということで、ちょっと上機嫌な白部さん。


「あ、そうだ」


 クロちゃんの話題で思い出した。


「ミケちゃん、ブザーとスマホはどうなったの?」


「ふふーん。じゃーん!」


 おお! スカートのポッケから、赤い防犯ブザーとスマホが!


「赤は、千多せんたちゃんのカラーなのよ」


「へー! すごいすごい! クロちゃんも買ってもらったのかしら?」


「ええ。さっそく、LIZEで友達登録したわ」


 おお~!


「アプリ、使わせてもらえてるんだ」


「連絡用のLIZEと、検索サイトと動画サイトだけね。色々制限付きだけど。あ、それとツイスターSNSとかいうの、だめって言われちゃった。千多ちゃん、フォローしたいのになあ」


 制限付きでも嬉しさ爆発という感じで、マイスマホを抱きしめる彼女。ほほえま可愛い~!


 ツイスターはあれよね。悪い人がアカウント乗っ取り用とかの悪質DM送る事件あるからね……。妥当な判断。


「あれ? でもなんで、クロちゃんも買ったってわかったの?」


「一昨日、優輝がまりあおねーさんと話したとき、確認したんだって」


 へー。


「あ、素朴な疑問といえばもうひとつ。ミケちゃん、その……本人確認書類とかないのに、よく買えたね?」


「あー、それ? そういうイミじゃこれ、ゲンミツにはミケのじゃないのよね。優輝の二台目ってことになってるの」


 なるほどね! クロちゃんのも、そうなんだろうな。


「ありがとう。私、素朴な疑問はどうにも尋ねないといられない性格で。白部さんは、ノーラちゃんのを導入ご検討されてないんです?」


「うちですか? 考えなくもないですけど、基本離れて行動することがないので、当面いいかなと。買うとしても、もっとノーラちゃんが世間慣れしてからですね。転生してから、まだ半年しか経ってませんし」


 そういえば、あれ転生は昨年十二月の出来事だったっけね。あのときは、白部さん本当に落ち込んでしまって。それが一転、奇跡が起きて。もし、白部さんたちに女神様が微笑んでくれなかったらと思うと……身震いしてしまうな。


 ちょっと寒気がしちゃった。紅茶飲も。


「……ふう。たしかに、まだまだ目が離せないですよね。私もアメリに初めてお使いさせたの、ついこないだですし」


「育児的な意味で、目が離せないというのもたしかにあるんですけど、ノーラちゃんの観察と、研究をする名目で在宅ワークを許されてるので、それをサボるわけにいかないというのもありまして」


「ああ~、そうですね! なるほど。ずっと一緒にいることが、お仕事ですもんね!」


 うんうんとうなずく。こうして勉強会を開いていただいておきながら、彼女本来の使命を一瞬失念してしまった。


 アメリはどうしたものかなあ。この先一人で色々と自由行動させてあげたいけれど、やっぱりちょっと心配だ。過干渉かなあ?


「私がアメリを基本的に一人で行動させないのは、やっぱり過干渉ですかねえ?」


 ついカップの縁をなぞる悪癖が出てしまったので、慌てて指を引っ込める。


「そうですねえ……。人間でいえばそろそろ九つですけど、そこは猫崎さんのご判断かなと。親離れしたくなったら、自然に距離をとってくると思いますよ」


 お母さんと同じことをおっしゃるなあ。さすが、元・小児科志望。


「ありがとうございます。アメリがそうしたいって言い出したら、改めて考えますね」


 当のアメリの頭を撫でると、「うにゅう」と気抜け声を上げる。


「アメリ、一人でお出かけしたくなったら、私に相談してね」


「うん!」


 良きかな良きかな


「あっ! ちょっと、くつろぎすぎてしまいましたね。仕事に戻ります」


「はい、では、私たちも勉強再開しますね」


 互いに頭を下げ、カップケーキと紅茶の残りを手に、デスクに戻るのでした。


 親離れに子離れか~。親離れの兆候は最近少しだけ見え隠れするけれど、正式に……っていい方は変だけど、そういう日はいつ訪れるのかな。私、寂しくて泣いちゃったりするのかなあ?


 まあ、なるようにしかならないものだし、気をもんでも仕方ないよね。


 お仕事に集中しーましょ!

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