神奈さんとアメリちゃん

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第七十六話 新たなお向かいさん ―後編―

公開日時: 2021年4月19日(月) 17:01
文字数:2,591

雑談を楽しんでいると、インタホンの呼び鈴が。由香里さんが応対に出ると、果たしてまりあさんとクロちゃんのようだ。


「こんにちは。白部さんがいらっしゃっていると伺いまして」


 ややあって入室してきたので、一同ご挨拶。


「お久しぶりです。こちらの斜向はすむかいのアパートに越してきました。これから、よろしくお願いします」


 深々とお辞儀する白部さん。彼女の本性を知る私たちは、猫被りに苦笑をこらえるのでした。


「お久しぶりです。昨日もお仕事されていたのに、お引っ越し大変だったでしょう」


「いえ! 猫耳人間のあるところ、白部瑠璃ありです! もう、近所に猫耳人間が三人とか楽園エデンですよ! 楽園エデン!!」


 またまた、たっぱーんと波しぶきを背負ってそうな勢いで熱弁する彼女。それを見たまりあさんとクロちゃんは、やや引き気味。たまらず由香里さんがぷっと吹いてしまい、「失礼しました」と謝罪する。


「はあ……。ともかく、よろしくお願いしますね。クロちゃんもご挨拶」


「こんにちは、白部先生」


 ぺこりとお辞儀するクロちゃんに、白部さんが「はぁ~ん!」という嬌声を上げる。まりあさんたちは、やや引きからドン引きモードに移行。


「はあああ……クロちゃん可愛いなあ……。ね、ね、ぎゅーって抱きしめていいかな?」


 白部さんがいささか変質者チックに前のめりでお願いすると、身の危険を感じたのか、クロちゃんがささっとまりあさんの背後に隠れてしまう。


「すみません。クロちゃん、わたし以外とのスキンシップはあまり好まないので……」


 さあ、どう食い下がるのかと様子を見守っていると、「わかりました」とあっさり引き下がる。


「私、猫耳人間の嫌がることは絶対しませんので。YES猫耳、NOタッチというやつです」


 急に理知的モードに立ち戻り、きりりと言い放つ。いや、ミケちゃんとアメリにめっちゃ抱きついてたような……。まあ、いいか。しかし、姿はビシッとしてるのに言ってることはなんだかおかしい、このギャップ……。


「やあやあ、そちらなんとも楽しそうですねえ。まりあさん、クロちゃんこんにちは。ピザが焼き上がりましたので、皆さんどーぞ」


 キッチンからひょっこり顔を出してくる優輝さん。


「すみません、わたしたちまでご相伴に預かって」


「いえいえ。あたし大人数で食べるの好きですからね。遠慮はナシナシです!」


 恐縮するまりあさんに気さくに応える優輝さん。うんうん、まりあさん。優輝さんこういうキャラの方ですから。


 では、ピッツァターイム! と洒落込みましょうか。



 ◆ ◆ ◆



 いやー、大きい。こないだの十四ピースバージョンより二回りぐらいピザが大きい! 十人用、二十ピースだもんねえ。ピザのお化けですよこれは。


 優輝さんがピザをカットし、テリヤキチキンとエビマヨを一ピースずつセットで配っていく。気の利くことこの上ない由香里さんは、皆に飲み物を注いでいる。久美さんは白ワイン、私はマスペなど、ちゃんと各人の好みに合わせた飲み物なのが心憎い。しかし、久美さん真っ昼間からお酒か……。


「白部さんは何かお好みの飲み物はありますか?」


「アップルサイダーはありますか?」


「あー、ちょっとうちには今ないですね」


 意外なリクエストに、少々戸惑う由香里さん。


「では、アップルティーはどうでしょう?」


「それならありますよ。アイスとホットどちらがいいですか?


「では、アイスでお願いします。お砂糖入りで」


 由香里さんが了承し、アップルティーをれる準備をする。


「由香里ー、冷めちゃうから始めちゃっていいかな?」


「いいよー」


 優輝さんの催促に、OKを出す。


「では、新たな隣人・白部さんのご入居を記念して、ピザ・パーティーと行きましょう!」


 一同、ぱちぱちと拍手。そして、いただきますの合唱。


 この食卓は八人がけだけど、無理やり椅子を増設して、詰めて十人がけ状態にしている。


 アメリとミケちゃんに密着状態で挟まれて、ヘブン状態の白部さん。何というか、すごく締まりのない顔で幸せそうね。


 ミケちゃんは、大好物だけあって一心不乱に、テリヤキチキンとエビマヨのピザを食んでいる。


 一方、久美さんも文句を言っていた割には、それなりにピザを堪能している模様。


「そう言えば、白部さん」


「はい、何でしょう?」


 私の呼びかけに、ヘブンモードから戻ってきて応答する。


「いえ、何ていうか素朴な感想なんですけど。私をT総にご紹介してくださった松戸博子先生に、どことなく似てるなあと思いまして……」


 初対面のときから妙に気になっていたことをぶつけてみる。


「ああ。彼女、私の従姉妹なんです。ひろねえって呼んで、子供の頃よく遊んでもらってました」


「へー! ご親戚だったんですか!」


 これはまた、意外な縁。


「あ、ひろ姉は私がいるからT総勧めたってわけではなくて、このあたりの猫耳人間の研究最大手がT総なだけですから、誤解なさらないでいただければと。彼女、公私混同はしないタイプなんで」


 ほほー。松戸先生、つくづく常識人ね。どうして血を分けた従姉妹が、こんなエキセントリックな人に……。


 そんな雑感はともかく、会食は和やかに進み、お開きとなりました。



 ◆ ◆ ◆



「ごちそうさまでした。皆さん、これからもよろしくお願いします」


 門前で、互いに頭を下げ、別れを告げる。猫耳人間が絡むとアレだけど、なんだかんだで常識人よね、白部さん。


「はい。近くにミケたちの話が通じる人が増えるのは、あたしとしても嬉しいことです。何かあったら、いつでもいらしてください」


 優輝さんがにこやかに、白部さんと握手を交わす。


「ごちそうさまでした。では、わたしたちも失礼しますね。今日はありがとうございました」


 まりあさんはこの中では家が一番遠いので、一足先にお暇してしまう。


「では、私たちも行きましょうか白部さん。今日は、突然の訪問にも関わらず、お昼までありがとうございました」


 ぺこりと頭を下げ、白部さんとともにそれぞれの家のある方角を向く。すると、私たちの前を一匹の猫が走り抜けて行った。


「おお~! 猫だ!」


 ガッツリ反応するアメリ。


「首輪してなかったね。野良だね、あれは」


 毛色も雑種特有の、茶と黒基調の混ざり気の多い柄だ。


「猫か~。猫、いいですよねえ……」


 白部さんがうっとりした声を出す。やっぱりというかなんというか、猫も好きなのね。


 あの猫とは、この先深い関わりができそうな気がする。理由はわからないけれど、何となくそんな気がしました。

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