サッカーの練習試合も終わり、一緒にF駅を経由して帰宅中。練習場は近くにパーキングがないので、バス利用。
バッグに入れたビデオカメラには、ノーラちゃんのかっこ可愛い活躍……もとい、貴重なデータが入っている。
今では初期の悪癖もすっかりなくなり、チームプレイに注力するようになった。
監督さんの評によれば、パス回しにとても光るものがあるらしい。それは、素人目にもなんとなくわかる。
この子は、夢を実現できるのだろうか。
もちろん、ノーラちゃんは頑張っている。座席で、船を漕ぎそうになるほどに、へとへとだ。
あとは、研究者である私がどこまで頑張れるか、かな。
◆ ◆ ◆
うつらうつらしているノーラちゃんの手を引き、我が家へ。
お世辞にも広いとはいえないけど、とりあえずはここで暮らすほかない。まさか、二人暮らしになるとは想定してなかったものねえ。
私も、医者とはいっても勤め人で、まだ駆け出し。ここへ越してくるだけでも、だいぶお金を使ってしまっている。
親に頼めば援助してくれるだろうけど、医大に通わせてもらった上で、そこまでしてもらうのは忍びない。大学も、早く無償化してほしいものだけど。
両親は、いつでもノーラちゃんを連れて、実家に戻ってきていいと言うものの、猫耳人間四人が揃う、この奇跡的なご近所を去るのも、もったいない。
「ただいまー。ほら、ノーラちゃんも」
「おー……ただいまー……」
ほんと疲れちゃってるのね。今日も、頑張ってたものねえ。
「お風呂だけ入っちゃったら、一眠りしていいからね。一緒に入りましょう?」
「おー……? ちょっと恥ずかしいぞー。一人で入れる~」
あら寂しい。最近、一緒に入ってくれないのよね。まあ、二人で入るには、狭いお風呂なのだけど。
「わかった。じゃあ、お湯だけ張っちゃうから、ユニフォーム脱いでね」
「お~……」
のそのそと、寝室へ向かう愛娘。大丈夫かな?
お湯を張り、寝室に入ると、ノーラちゃんが下着姿で床寝してました。
「こーら。そんな姿で寝ないの! すぐにお湯溜まるから、あとちょっと我慢!」
「おー……」
さっきから、「おー」ばっかり。思考力落ちちゃってるのね。
とりあえずお湯が溜まったので、入ってもらう。
ノーラちゃんが上がったら、私の番だ。
◆ ◆ ◆
……遅いな。出てくるのが遅い。
……。
まさか!
急いで、浴室のドアを開ける!
「大丈夫!?」
「わあ! 急に開けないでくれえ!」
湯船で身を縮こまらせる彼女。
「大丈夫!? 寝落ちしてない!?」
「してないから安心してくれー! キモチ良かっただけだー! 恥ずかしいから出てってくれよなー」
「あ、うん。ごめんね。寝落ちだけはほんと、気をつけてね」
そう言い残し、ドアを閉める。ふう、大事になってなかったようで一安心。
◆ ◆ ◆
「う~! キモチ良かった~!」
ノーラちゃんが、部屋着になって寝室に戻ってくる。
「いらっしゃい。ドライヤーかけてあげる」
「おー」
少し、元気が戻ったかな?
ドライヤーで乾かすと、ふさふさの毛並みが戻ってきた。
「いつもの、やっていい?」
「いいぞー」
すうう~と、愛娘の頭部の匂いを吸引。シャンプーの香りとともに、子供独特の柔らかい匂いを感じ取る。ああ、至福の時間。
「ぎゅ~って、していい?」
「そっちも、好きにしていいぞー」
ぎゅーっと、背後からハグ。最高の抱き心地!
まだ、こういうことを存分にさせてもらえるのは、ありがたいなあ。
猫崎さんが不安がっていたことだけど、いつかこういうことができなくなる日が、きっと来ることだろう。それまで、心ゆくまでこの感触と香りを楽しみたいと思う。
すると不意に、ノーラちゃんの体から力が抜けた!
「ノーラちゃん!?」
寝息を立てている。ああ、限界が来ちゃったのね。
「せめて、ベッドで寝ましょ」
揺すり起こして、むにゃむにゃいう娘をベッドに潜り込ませる。
おやすみなさい、愛しいノーラちゃん。起きたら、美味しいチキンステーキが待ってるからね!
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