神奈さんとアメリちゃん

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第三百七十四話 夢の果てに

公開日時: 2021年10月7日(木) 21:01
更新日時: 2021年10月10日(日) 22:02
文字数:2,701

 座席券売り場では、先端が大きなハート型をしたファンシーなペンライトも売っていたので、せっかくだからと二つ購入。やるならトコトン! 今日はそんな気分です。


 当日券だけあって、いい席は予約勢でもう埋まってしまっているけど、全員あぶれることなく座れました。


 アメリと今日を振り返りながら開演を待っていると、ライトがゆっくり消えていく。ついに始まった!


 ケイテイちゃんが、「夢の大樹」の成り立ちをナレーションし始め、大樹が青く、淡く、そして控えめに輝くと、空中ブランコから下がった布に絡まった、アクロバット逆さ吊りなお姉さんが浮かび上がる。おお……。


 口上が終わると、ミュージックとともに一気に大樹の青い光が強まり、仮装したダンサーさんたち登場! 再び、背筋がぶわっとなる。


 そして、ミュージカル開始! 彼女らは大樹の妖精という設定らしく、「アニバーサリーを祝おう」と歌い上げる。そう、ここピュアランドは昨年で誕生三十周年。今年も引き続きお祝い中というわけです。


 アクロバットのお姉さんも器用に降りてきて、「お友達が遊びに来てくれたよ!」というセリフの後、CMでおなじみのあの歌が! ああああ! ナマだ! ナマパレードソングだ!!


 そして、ここのスターキャラたちのきぐるみが、ファンシーなカートに乗って、あるいは徒歩で次々に登場! あー! キラとラキもカートに乗ってやってきたー! やーん、私に手を振ってくれてる!? ペンライトを小ぶりにちょこちょこ振り、喜びを表現!


 もう、今の私はアラサーの漫画家、猫崎神奈ではない。夢見る小学生の女の子、かんなちゃんだ!


 あれれ? でも、一番のスター、ケイティちゃんは?


 歌とともに、舞い踊るダンサーとキャラたち。横のアメリが、「ケイティちゃんいない……」と、寂しそうにボソリとつぶやく。


 キャラたちもカートから降車し、踊りの輪に加わる。


 すると、突然ケイティちゃんのソロパートが。んん? どこ? どこにいるの? どゆこと?


 きょろきょろ見回していると、何人か上を指差す人がいたので、上を見てみる。


 わ! ゴンドラだ! ゴンドラが降りてくる!


 そこには、ケイティちゃんの姿が! さすが真打ち! 扱いが違う! アメリも隣で「おお~……!」と、ケイティちゃんの歌を邪魔しないように小声ながらも大興奮。マニュエルくんもここで登場。


 歌に合わせてキャラたちの名前を読み上げ始めるケイテイちゃん。へー、ライドでメロデイアちゃんと一緒にいた黒ずきんの子、ブラミちゃんっていうんだー。


 そして、再度ミュージカルパートに。うわー……。ステキ~……。


 ところが、歌も大盛り上がりというところで、暗転して突如嵐の音と雷鳴が! 何、何ごと!?


 はらはらしていると、天井に緑の渦が光り、おどろおどろしいBGMとともに「ヒカリガキライ、エガオガキライ、ユメガキライ……」と、女性の声が!


 なんか、黒くて大きな物体が運び込まれてきましたよ……?


「あれは、ブラック・クイーン!」


 ケイテイちゃんが叫ぶと、光が少し戻り、黒い物体の正体がわかる。黒い衣装の女の人でした! その大きいの、スカートだったのね。


 そして、ブラック・クイーンのネガテイブな歌詞のソロソングとともに、キャラ、ダンサー妖精、ブラック・クイーンの手下がアクロバットを交えながら、バトルシーンの体で舞い踊る! すごい!


 ミュージカルが終わり、劇パート。妖精さんたち大劣勢!


 「ブラック・クイーンを倒すんだ!」とマニュエルくんが挑みかかると、ケイティちゃんが「待って!」と制止。


「思い出して、みんな! 優しさと思いやりがあれば、誰とでも仲良くなれるの! みんなの光を集めて!」


 歌パートに突入。「光」とはこれのことね、と理解し、ペンライトを振る。


 舞台が少し明るくなり、「なぜ、光を取り戻せたのだ」というクイーンの問いに、「あなたを信じたから!」と答えるケイティちゃん。


 希望に満ちた歌詞のクイーンのソロソングに入り、ケイティちゃんが「あなた自身を信じて!」とブラック・クイーンに語りかけると、一瞬暗転した後にホワイト・クイーンに早変わり!


 巨大スカートがパカッと開けられ、クイーンも舞台に降り、夢の大樹が虹色にライトアップ!


 クイーンたちを交えて爽やかなミュージカルパートに突入! アクロバットお姉さんも再び上昇し、布でくるくると回る。


 ケイティちゃんの締めの言葉の後は、最後のサービスタイム。拍手を促しながら、ステージを回るキャラやダンサーさんたち。


 そして、一人ひとりと退場していく。ああ、キラとラキが行っちゃう……。


 こうして、今日三度目の夢は覚め、私は小学生のかんなちゃんから、漫画家・猫崎神奈に戻ったのです。



 ◆ ◆ ◆



「神奈さん、黒い涙が……」


 出口を出て落ち合うと、由香里さんがそう言って、自身の右頬をちょんちょんつつく。コンパクトで自分の顔を見ると、涙でメイクが落ちて、黒い涙の跡になっていました。やだ、私泣いちゃってたんだ。


「すみません、ちょっと直してきます」


 慌ててトイレに駆け込み、手早くメイクを直す。


 「お待たせしました」と戻ると、「おかえりなさい」と迎えられる。


「神奈さんのお気持ちわかります。わたしも感動しちゃって」


 まりあさんがシンパシーを感じてくださり、微笑みかけてくる。


「素晴らしいショーだったんですけど……空中ブランコとゴンドラ、落ちちゃうんじゃないかってすごく心配で、気が気じゃありませんでした」


 ぶるっと身震いする優輝さん。他人でも、ああいうのダメなのね。


「完全閉館には少し猶予がありますね。お土産買っていきたいんですけど、いかがでしょうか?」


「賛成です。私も、何か記念にと思っていたので」


 私の意見に、白部さんが賛成してくださいました、というわけで上に上がり、ショップでキラとラキのミニフィギュアを購入! ふふ、デスクに飾ろっと。白部さんは、ケイティちゃんの小さめのぬいぐるみを買われたようで、ほかの皆さんもめいめい欲しい物を買っていかれました。


 じーっと、ケイティちゃんマグカップを見つめるアメリ。


「んー……今日だけ特別ね。二つめのグッズ、買ってあげちゃう!」


「ほんと!? おねーちゃん、ありがとー!」


 ぎゅっとハグされてしまいました。あら~っ。


 こうして最後の用事も済ませると、駐車場へ。


 駐車場に向かう途中気づいたのが、帰っていくお客さんたちが私たちも含めて、みんな笑顔だということ。なんて素晴らしいんだろう。


 今日はヘトヘトなので、帰ったら冷凍食品で雑に済ませちゃいます。お昼、いっぱい食べたしね。アメリとクロちゃんは、後部座席で寝息を立てて、引き続き夢の世界へ。


 それにしても、本当に夢のような一日だったな。また、絶対みんなで来よう!

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