「それにしても、何がどうして、そうなっちゃったの?」
リビングのソファに隣同士で腰掛け、疑問を呈する。アメリが帰ってきて嬉しいことと、不可解極まる現象が気になるのは別問題。まったくもってそれはそれ、これはこれ。
「んーっとねー……。きれーな虹? の橋を歩いてたらね。なんかきれーなおねーさんがいてね。『あなたはまだ、こっちに来てはいけません』って言ったの。そしたらね、この体になってた! びっくりしちゃった!」
なんだろう。その女性は女神様かなにかかしら。だとしたら、あまりにも粋で、ありがたい計らいだこと。まあ、猫耳人間になってしまったのはちょっと、というか大いに困惑するけど。
アメリの身長はざっくり見た感じ、百三十にちょっと満たないぐらい。年齢は精神的な部分も含めて八歳児相当だろうか。いや、精神年齢はもっと幼いかも?
すると急に、アメリが立ち上がる。
「どうしたの?」
「おしっこ!」
ああ、おトイレか。
するとアメリ、愛用していた猫用箱型トイレに向かうじゃない!
「ちょっと待ったあ! アメリ、その体じゃそれ使えないから! 人間用の使おう」
彼女の手を引き、トイレへ連れて行く。初めて見る人間用トイレに興味津々。
「使い方教えるね」
それこそ子供に教えるように、一から十まで使い方をレクチャーする。いやはや、これが育児というものか。
ともかくも、無事初めての人間式お手洗いを済ませたアメリが、今度は「お腹すいた!」と訴える。
そういえば、私も牛乳しか飲んでないけど、アメリとの再会で俄然食欲が戻っている。オムライスでも作ろうかしらなどと考えていると、はたと重要なことに気付く。
(猫耳人間って、何食べさせればいいの!?)
猫に人間と同じもの、たとえばしょっぱいものとかネギ類はNGだ。はたして、今のアメリはそういうものを受け付けるのか?
「いつものカリカリでいい?」
「うん!」
結局、安全策を採って、いつも与えているキャットフードを食べさせることにした。
ダイニングに案内し、着席したアメリの前にテーブルにお皿とコップを置いて、キャットフードと水を注ぐ。今のアメリってどれぐらい食べるんだろう。とりあえずざっくり、二百グラムぐらいでいいかなあ?
注ぎ終わると、首を突っ込んで猫まんまな食べっぷりを披露する。水を飲むのも、これまた猫まんまで悪戦苦闘。うーん、これはちょっと……。
「アメリ、スプーン使ってみない?」
「すぷーん?」
「これこれ」
食器棚から、金属の大きなスプーンを取り出す。少しの間不思議な物を見る様子だったが、猫用おやつスープを飲ませるときに使っていたのを思い出したか、「あー!」と合点がいったような声を上げる。
「さすがに、その姿で直とか手づかみはちょっとね。とりあえず、あーんって口開けて。食べさせてあげる。慣れたら自分で使ってみようね」
というわけで、あーんさせて食べさせてみる。最初はちょっと戸惑っていたアメリも、少しずつ慣れてきたような気がする。
「美味しい?」
「うん!」
とりあえず、ごはんはキャットフードでいいみたいね。コップの使い方を教えると、「おお~!」と、その飲みやすさに感心の声を上げる。猫耳人間の情報とかどこにあるのか知らないけど、後で色々調べてみよう。
ところがアメリ、徐々に食べる勢いが弱まっている。ありゃ、二百グラムは多すぎたかな? と思っていると、目を閉じそうになっては開ける、という動作を繰り返している。これは幼児特有の、「食事中に寝落ちしちゃうムーブ」!
「眠いの?」
無言でうつらうつらする彼女。ああこれは確定だ。食事を中断し、抱っこする。さすがに、猫だった頃よりずいぶん重い。寝床まで連れて行って、はたと困った。よく考えたら、今のアメリ猫用ベッド使えないじゃない!
となると、自然選択肢は私のベッドになるわけで。シングルベッドだけど、まあアメリの大きさなら二人で寝られるかな。
ベッドに横にさせて、毛布をかける。
「おやすみ、アメリ」
起こさないように、そっと寝室を出る。さて、残ったキャットフードは袋に戻して、人間用の食事を作って食べるとしますか。
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