神奈さんとアメリちゃん

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第四百五十四話 だるまさんがころんだ!

公開日時: 2022年1月7日(金) 18:36
文字数:2,019

 白部さんは飲み物とお菓子を取りに、一度ご自宅に戻られています。


「さっきのまんじゅう、美味かったなー」


 味覚を反芻するノーラちゃん。


「由香里は、たまにこういう突飛もないこと思いつくのよね」


 ミケちゃん、やれやれといった感じに首を横に振ります。


「そういえば、そろそろトマトの具合、見てもらわないとなあ」


 由香里さんで思い至った。トマトとバジルもだいぶ育ってきて、経験者に収穫どきを見極めていただきたいところ。


 すると、チャイムが。白部さんかな? ……やはり、そうでした。お出迎え~。


「お待たせしました」


 恐縮する彼女。


「いえいえ」


「スポドリとアイスキャンディーです。冷やしておいていただけますと」


「ありがとうございます。子供たちは、寝室にいますので」


「わかりました。お邪魔します」


 というわけで、私はキッチンへ。彼女は奥へと向かうのでした。



 ◆ ◆ ◆



 寝室に戻ると、白部さんが子供たちに何やら話しています。


「何のお話ですか?」


「熱中症についてです。一番気をつけないといけないことですから」


 おおう、さすがお医者様。


「というわけで、少しでも体調に異変を感じたら、我慢せずに言ってね」


「「はーい」」


 レクチャーが、ちょうど終わったところだったようです。なんだかすでに懐かしい、キャスケットを日除けに被る子供たち。白部さんが昨日、持ってくるようにおっしゃってたのよね。


「じゃあ、外に行こうか。『だるまさんがころんだ』のルールは外で説明するね」


「私は窓を開けて仕事してますので、ご用の際は呼んでください」


「はい。じゃあ、行きましょー」


 親ガモ・子ガモ状態でぞろぞろ出ていく五人。


 私はコーヒー牛乳を置いて、デスクに着席。PCの電源をオン。


 起動の待ち時間に、窓を網戸に。暑いけれど、こうしないと連絡取れないからね。


 ややあって、白部さんや子供たちの話し声が、風に乗って聞こえてくる。窓を開放中につき、効率は悪いけど冷房を入れ、ついでうちわでばたばた扇ぎながら、お仕事開始。


 ちらりと様子を見ると、レクチャーは終わり、最初の鬼はアメリに決まった模様。頑張ってー。


 愛娘の、「だーるーまーさーんーがー……」という声をBGMにペンを走らせる。


「こちら、失礼します」


 白部さんが出入りのための石に腰掛け、ノートPCを起動する。


「暑くないですか?」


「暑いですね。でも、これがお仕事ですから」


 彼女も大変だなあ。


「脱水を感じたら、いつでも声をかけてくださいね。スポドリ取ってきますから」


 お医者様にいらぬ心配だとは思うけど、お声がけしておく。


「ありがとうございます。そのときは、お願いしますね」


 彼女が笑顔を向けながら、ハンカチで額の汗を拭う。


「長雨には参りましたけど、これからカンカン照りが続くと思うと、それはそれで辛いですね」


「そうですね。でも、海が楽しめると思えばですよ!」


 気さくに話しかけてくるので、同じく気さくに返す。


「子供っていいですね。可能性の塊というか」


 するといきなり、ポエミーなことを語りかけてくる。


「そうですね。あの子たちの夢が、叶ってほしいです」


 しかし、私も同感なので、同意を返しました。


 子供に限らず、大人だって本当は可能性の塊なのかもしれない。でも、社会は好きなように生きることを許してはくれない。


 私が突然、会社の正社員になりたいと言っても、企業が雇ってくれないだろう。学歴は高卒で、職歴は漫画家一本で八年超だ。悲しいけれど、そういうところで選別されてしまう。


 もちろん、漫画家を辞める気はないけれど、世の中窮屈だな。と、そんなことを思わざるを得ない。


 楽しげに遊ぶ子供たちを見て、彼女らが望む道を歩めることを、切に願うのでした。



 ◆ ◆ ◆



「あー……子供たち、一度中に入れたほうがいいですね。すみません、冷房を強めにしておいていただけますか?」


 白部さんに声をかけられ外を見ると、クロちゃんが明らかにバテている。ほかの子たちも、少々へばっているようだ。


「わかりました。スポドリとアイス、用意しますね」


 窓を閉め、冷房を強めに。折りたたみ机と座椅子を展開し、台所に向かう。


 果汁のアイスキャンディーと、グラス入りのスポドリをトレイに載せて戻ろうとしたとき、ちょうど五人と鉢合わせ。


「おかえりなさい」


「ただいま戻りました」


 白部さんに続き、子供たちも「ただいまー」と、ちょっと元気なく言う。


 最後尾からついていき、スポドリとアイスを配膳。四人が、私と白部さんにお礼を述べる。


「お疲れ様ー。ゆっくり休んでね。白部さんも、ご指導お疲れ様でした」


「ありがとうございます」


「「はーい……」」


 比較的余裕のある白部さんに対し、子供たちはちょっと疲れ気味なお返事。ほんと、年々暑くなるよねー。やんなっちゃう。


 配膳し終わると、デスクに戻り、お仕事を再開するのでした。


 予定通りいけば、今日……というか、夕方までには下書きが仕上がるはず。そしたら、気兼ねなく海に行けるってもんですよ!


 海なんて、ほんと何年ぶりだろうなあ。楽しみ~!

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