神奈さんとアメリちゃん

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第二百九話 たしかに、チキンライスだけど!

公開日時: 2021年4月29日(木) 20:01
更新日時: 2021年7月16日(金) 00:07
文字数:2,098

「姉さん、由香里ちゃん」


 一度キッチンに消えたさつきさんが、またひょっこり顔を出す。


「冷蔵庫の鶏もも肉、使っちゃっていいっすか? 優輝ちゃんは構わないって言ってるっすけど」


「ウチも構わん。由香里は?」


「わたしが今夜使おうと思ってたけど、さっちゃんが使うなら別の材料にするから、構わないよー」


「じゃあ、チキンライス作らせてもらうっすね~」


 明るい口調でまた引っ込むさつきさん。


 はて、チキンライスとはまたフツーな。まあ、急な話だったしねー。


 やることもないので、美術館の感想を語り合う私と由香里さん。花系の絵は互いに好みとして共有できたので、主にそのへんについて語る。彼女的には、色々感性を磨く機会になったようだ。


 久美さんは一度マスペを取りに行き、ボトル片手にアメリたちのダンスを観戦中。


 「やっぱ、ミケ子に一日の長があるなー」とは彼女の弁。実際、多少ルールがわかった上で二人の対戦を見てみると、ミケちゃんが始終優勢だ。


 「アメリー、頑張ってー!」と声援を送ると、「おおー!」と気合の入った声とともにステップを加速させる。しかし、元気だこと。わたしゃもう歳ですかねえ。


 その後、久美さんや由香里さんに選手交代しながら、ダンス勝負は続いていく。美術館巡りで体力が尽きてしまった私は、ひたすら応援モード。


 そんな感じで過ごしていると、「お待たせっすー。どうぞっすー」と、さつきさんがダイニングから顔を出し呼びかけてくる。


 皆でぞろぞろ移動すると、テーブルにはケチャップライスではなく、味がついてそうな白いごはんとスライスチキン、トマトときゅうりのこれまたスライスとパクチー、たれ入れに入ったたれが待ち受けていました。飲み物には、ホット烏龍茶。


 !? いや、たしかにチキンとライスだけど! 私の知ってるチキンライスと違う!


「お? 神奈さん鳩が豆鉄砲食らったような表情っすね。……ははーん、さてはケチャップライスのアレだと思ったっすね?」


「……ご明察です」


「これ、シンガポールのチキンライスっす。美味しいっすよ」


 シンガポールかー……。さすが、マスターアジア。こんな料理があるんだー。


「どもー、遅くなりましたー。あ、神奈さん、アメリちゃん、こんにちはー。うちにいらしてたんですね」


 優輝さんも入室してきて、着席する。私とアメリも、ご挨拶を返す。


「じゃ、さっそくいただくっすか。いただきますっす!」


 というわけで、皆でいただきますの合唱。


 たれを、チキンにかければいいのかな? ……ぱくっ! む、これは生姜の風味が効いていて美味しい!


 ごはんは……これまた美味しい! チキンの旨味が染み込んでいて、刻み玉ねぎの甘みとさっきのチキンがよく調和する。


 続いて、ここで野菜たちを口に運ぶ。う~ん、みずみずしくて爽やか。パクチーの風味がまた良し。


「美味しいですね、さつきさん!」


「お褒めに預かり光栄っす!」


 素直な賞賛を述べると、笑顔が返ってくる。


「アメリちゃんは、お口に合うっすか?」


「おおー! 美味しい!! さつきおねーちゃん、お料理上手だね!」


「ありがとうっす! 照れるっすねー」


 そう言って、面映おもはゆそうに自分の後頭部を撫でる彼女。


「あ、そうだ優輝ちゃん。進捗どう?」


「あと一息で、マスターにできる」


「動画ももう、上げちゃっていいってことだな?」


 由香里さん、優輝さん、久美さんがまた打ち合わせに突入する。


「ジュンチョーみたいっすね。やっと、軽いお財布が潤いそうっす……」


 心底ほっとしたように、息を吐くさつきさん。


「さっちゃんは、フィギュア見境なく買い過ぎなのよ」


「いやいや、由香里ちゃん。フィギュアとの出会いは一期一会なんすよ。欲しいときが買うべきときなんす」


 ちっちっちっと指を振り、ドヤ顔で説く。自慢げな所恐縮だけど、ドヤ顔で語るような話ではないと思います……。


「まー、借金作るようなことはするなよ? 仲間内でも関係おかしくなるからな?」


「肝に銘じておくっす」


 敬愛する姉貴分の忠告に、素直に耳を傾ける彼女。相手が久美さんだからってだけじゃなく、いい加減そうに見えて、そういうところの線引きはきちんとできる人なんだろうな。


 かくてるの皆さんが、互いの絆をとても大切にしてるんだというのが伝わってくる。


「そういえば、ミケは分数って覚えた?」


「えっ! ナニソレ!?」


「えっとねー……」


 アメリの問いに驚愕するミケちゃん。そんな彼女に、私から教わった内容を説明するアメリ。


「むう!? アメリ、もうそんなとこまでやってるの!? 妹には負けられないわ! 優輝、後で教えてよ!」


「あー、ごめん。あたし仕事が……」


「自分で良かったら、教えるっすよ?」


「ほんと!? じゃあ、食べ終わったらソッコー教えてよね!」


 姉としてのプライドが高いミケちゃんのこと、俄然対抗心が芽生えてしまったらしい。


 しかし、優輝さんのおおらかな性格から来る教育方針もあるんだろうけど、一年以上先輩のミケちゃんを追い越しつつあるのか。アメリ、ちょっとすごいなあ。才能もあるだろうけど、向学心が非常に強いのが大きいのだと思う。


 そんなこんなで、急遽路線変更から始まった楽しい昼食会も終了。皆さんにお礼とお別れを告げ、帰宅するのでした。

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