神奈さんとアメリちゃん

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第三百一話 七度再来! 猫崎飯店!

公開日時: 2021年7月25日(日) 21:01
更新日時: 2022年2月27日(日) 12:07
文字数:2,907

 やー。これで書き落としないかしら?


 昨日、あのまま朝までグッスリ寝てしまったので、今日二時に来る予定の真留さんに見せるプロットのラストスパートなう。


 タイムリミットまで三十分。もう一度頭から最後までプロットを読み直す。……うん、これでいいと思う!


 候補が三種類といつもより少なめだけど、三十日から向こう忙しかったので許してください、真留さん。……酔っ払ってぐーすかぴーしてた人間のセリフじゃないわね。


 さあ、大急ぎで着替え&メイク! 女の支度は大変なのです!



 ◆ ◆ ◆



 身支度を済ませリビングを整えると、インタホンが鳴りました! ギリギリセーフ!


「こんにちは。真留です」


「はーい! 今お迎えに行きますね!」


 少々息切れしながら応対。


「アメリ、真留さんが来たよ。一緒に迎えに行く?」


「行くー!」


 猫耳と尻尾丸出しの部屋着でしゅびっと挙手。ふふふ、真留さん驚くだろうなあ。



 ◆ ◆ ◆



「こんにちは、アメリちゃん……」


 アメリの姿を見、目をまん丸にしてあっけにとられる我が担当さん。


「あの、先生。この姿で外に出して大丈夫なんですか?」


 心配そうにひそひそ声で尋ねられる。


「ええ。まあ、そのあたりの話はおいおいしましょう。立ち話もなんですから、中へどうぞ~」


 というわけで、中にお招き。紅茶を用意してリビングに行くと、例によってアメリにごろにゃんとまとわりつかれてました。


「ありがとうございます。まずは、仕事の話を先に済ませてしまいましょう。こちら、今月のファンレターです」


「ありがとうございます。この重み、漫画家冥利に尽きますよねー」


 というわけで、打ち合わせ開始。三案の中から、やはり史実に近いまりあさんの代理「ありあ」が黒猫の「クク」ちゃんを連れて遊びに来るという筋書きになりました。ただ、徒歩十五分は大変なので、ここは現実と違ってかなりご近所さんに変更しています。


「あと、お話いただいた今後の漫画内のアメリちゃんの処遇ですが、ひと月考える猶予を与えていただけませんか? 班長に打ち明けるべきか、悩んでるんです」


 慎重派の真留さんらしい提案だ。実際、「ねこきっく」の読者は猫が見たくて本を買っている。そこに、猫耳人間をいきなり投入するのはどうだろうという話なわけで。


「わかりました。では、アメリについてはとりあえず現状維持で」


 さて、お仕事の話はこれで片付いたけれど……。


「それで先生。私、正体バレとテレビ出演まではお話を伺っていますけれど、先ほどのは……?」


「あー、はい。実は……」


 児童公園や買い物に連れて行って、カミングアウトしたことを話す。


「はあ~……。ずいぶん思い切ったことをされましたねえ」


 紅茶を一口飲み、なんともいえない表情をする彼女。


「アメリが長いこと蟄居ちっきょ状態でしたからね。さすがに可哀想で」


「今のところトラブルはないんですね?」


「はい、ありがたいことに。いい人が多いですね、この街は」


 私も紅茶を飲む。東京は怖いところだなんて言われるけど、こうして住んでみると場所によりけりだと思う。


 真留さん、ふむと考え込んで、「まあ、何かトラブルがあればこちらに回してください」と改めて守護を誓ってくださる。


「はい。ご心配をおかけします」


「あのね、真留おねーさん! お外っていろんな音がするの! びっくりしちゃった!」


 当のアメリはのんきなもの。真留さんに頭を撫でられ、「うにゅう~」と気抜けボイスを出す。


「さて、アメリちゃんとのお別れは名残り惜しいですが、事情も把握できましたし、次の先生のところに伺わないと。失礼します」


 ティーカップの口紅を拭い、立ち上がる彼女。


「アメリと門までお送りしますね」


「ありがとうございます」


 というわけで、お見送り。真留さんの姿が見えなくなるまで、手を振り続けるアメリちゃんでした。


 お昼は雑にトーストで済ませたし、夜は一昨日買ったまま使わなかった食材があるしで、今日の買い物はいいかな。さっそく、ネーム切りましょ。


 こつこつ。すらすら。


 アメリちゃんは静かに読書中。途中、スマホが「お米を炊いてくださいな」とばかりに五時を知らせる。おっと、かなり打ち込んでいたらしい。炊飯準備をして、お仕事再開。


 さらに一時間経ち、スマホが「お米炊けたで~」という感じに再度鳴る。では、キッチンに行きまっしょい!



 ◆ ◆ ◆



「さて、アメリちゃん。今日は昨日食べそこなった棒々鶏バンバンジーという料理を作りますよ。アメリシェフには、きゅうりの千切りと、トマトを五ミリ幅に縦斬りするのをお願いします。ヘタは取ってね」


「はーい!」


 しゅびっと挙手。では、いつもの脳内BGMをかけて、鶏肉と調味料に取り掛かりますか。


 まず、ポットのお湯で鍋にお湯を沸かして時短。手早く、鶏むねを均一の厚さに開く。


 お鍋に料理酒大さじ二杯を加え、沸騰したお湯で鶏肉を加熱。茹で上がったらザルに揚げて水を切り、冷ます。


 今のうちに、たれを調合。味噌とすりごま大さじ二杯ずつ、みりんとお砂糖大さじ一杯ずつ、おしょうゆ大さじ半、ごま油小さじ一杯入れ、よく混ぜ合わせる。ごはんも切っておこう。


 さて、鶏さんは……まだちょっと熱いけど、まあ焼き茄子の皮剥くのに比べたら。


 あちちと言いながら、筋繊維に沿ってほぐしていく。


「できたー!」


 お、ナイスタイミングです。アメリシェフ。


「はーい、ありがとー。置いといてねー」


 あとは、トマト、きゅうり、鶏、たれの順に盛り付ける。


「出っ来上がりでーす」


 買いだめ期間に購入済みの烏龍茶を注ぎ、棒々鶏とごはんを配膳する。


「では、いただきましょう。いただきます!」


「いただきます!」


 きゅうりは旬の走り。みずみずしくて、コリコリしてて美味しいね。トマトも鮮度が落ちてないか心配だったけど、大丈夫みたい。美味しい美味しい。


 そして、鶏肉。棒々鶏のソースと実に合う。これを烏龍茶で流すと、気分は実に中華!


「美味しいね!」


「ねー!」


 ご満悦のアメリちゃんに、笑顔で返す。


 とりあえずリアルの難所が、仕事が本格化する前に片付いてよかったなあ。これが繁忙期だったらパンクしていたかもしれない。


 今日の平和に、ほっと胸をなでおろすのでした。



 ◆ ◆ ◆



「皆さん。あてんしょーん!」


 寝室に戻り、LIZEのグループチャットに呼びかける。


「福井旅行ですが、今のうちに予約取らないと新幹線の座席なくなりますよー。気を付けてくださーい」


「あー、そういえば福井にお誘いされてましたね。これから予約入れます」


 と、まりあさん。


 由香里さんはそつなく、メンバー全員分の座席をすでに取ってらっしゃるとのこと。さすが。


 白部さんも、「予約取りますね!」と、購入操作を始めた模様。


「宿も抑えておいてくださいね。客間を使えば二人ぐらいお泊めできるかもですけど、それ以上はさすがに」


 皆さんからおすすめの宿を訊かれるけど、何ぶん地元民だからホテルだの旅館だの使ったことないのよね。なので、申し訳ないけど見繕いは皆さんにお任せしました。


 大型連休前から特別進行が始まる。連休前には真留さんから次々号と増刊号のネームにOKをもらわなければいけない。また年末のような繁忙期が訪れるけど、これも親に顔を見せるため、皆さんに福井を楽しんでもらうため。


 頑張りまっしょーい!

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