神奈さんとアメリちゃん

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第百二十一話 ノーラ、駅前へ行く ―前編―

公開日時: 2021年4月24日(土) 10:01
文字数:2,069

「出発、しんこー!」


「おお~!」


 あれから三十分ほど経つと二人とも我に返ってくれたので、財布を取りに戻った白部さんを待ってから、車でいざ「るるる」へ!


 ノーラちゃんを挟み込むように三人が後部座席に掛けており、それぞれぎゅと手を繋いでいて実に尊い。


 ただ、拳を突き上げノリノリなアメリに対し、二人はまだ本調子ではない様子。まあ、ともかくも参りましょうか。


「そういえば白部さん。仕事中ノーラちゃんは、どうなさるおつもりなのでしょうか?」


 今後の懸念について尋ねてみる。


「職場に連れて行こうかとは思うのですけど、上司の判断次第ですね。私も彼も月曜出勤なので、当日伺いを立てるしかないのですが……。猫崎さん、お手数をかけますが上司が判断を決定するまで、仕事中ノーラちゃんを預かっていただくわけにはいかないでしょうか?」


「それぐらいお安いご用ですよ。どーんとお任せください!」


「ありがとうございます。ノーラちゃんの食事代はお渡ししますので」


 恐縮気味な声で応える彼女。


「いえいえ、困ったときはお互い様。そう長くはかからないでしょうし、それぐらいうちで持ちますよ」


 しばし「申し訳ないので」「いえ、構いませんよ」の応酬になったものの、白部さんが「では、機を見て何らかの形でお礼させていただきますね」と折れてくれました。


 彼女とこんな会話をしている間、アメリが白部さんに代わり、ノーラちゃんの「あれ何?」攻撃に答えていた。う~ん、実にほほえまなお姉さんムーブ!


 その後も雑談に花を咲かせ、いつもの地下駐車場にイン。


 シートベルトを外し、車外へ。


「おー! スッゲー!!」


 感嘆の声を上げ、走り出そうとするノーラちゃん。慌てて白部さんが、「こら、走らないの!」と抱きついて制止する。あはは、アメリも初めてここに来たときこんな感じだったなー。


「ああ、もうすぐお昼どきですねえ。まず、ごはんにしましょうか」


「賛成です」


「おお~、お腹空いた~!」


 三人に提案すると、白部さんとアメリがまず同意。


「おー、何だー? カリカリ食べるのかー?」


「ノーラちゃん、ノーラちゃんはこれから人間と同じ食事を食べるのよ。ほら、私がよく食べてるようなの」


「そーなのかー!」


 白部さんの説明で、何を食べるのかとわくわくなノーラちゃん。ほほえま!


 というわけで、「パルの木々」へやって来ました。


「とりあえず、スプーンだけで食べられるものでいきましょう」


 「そうですね」と、白部さんが同意。アメリも「オムライスだー!」と大はしゃぎ。


「オムライスって何だー?」


 疑問を呈するノーラちゃん。


「えっとね、とっても美味しい! ノーラも大好きになると思う!」


 アメリ語彙で魅力を説明する彼女。


「まあ、食べてみてのお楽しみね」


 三人とともに入店。


「私は……ほうれん草とクリームソースのレディースセットにしようかな。アメリは?」


「おお~! ドミグラスソース!」


「あはは、最初来たときと真逆になったね」


 アメリに微笑む。


「私は……オーソドックスにケチャップのにしますね。ノーラちゃんは、どれかこれ! っていうのある?」


「よくわかんないから、ルリ姉と同じのでいい!」


「じゃあ、頼みましょうか」


 挙手しようとする白部さん。


「あ、白部さん。このお店はSサイズが標準なので、気をつけてくださいね。ノーラちゃんにはSSサイズでちょうどいいと思います」


「ありがとうございます。危うく一個上のサイズを頼むところでした。すみませーん」


 店員さんを呼び、各自のオーダーを伝える。


 雑談することしばし、オムライスが運ばれてきました。


「おー! オムライスってこんなのかー!」


 実物を見て、興味深そうに声を上げるノーラちゃん。すると、いきなりそのまま口をつけて食べようとするじゃない!


「「ストーップ!」」


 私と白部さんが同時に止める。


「ノーラちゃん、スプーン使わないとダメよ。私の真似をしてみて」


 いただきますを言った後、お手本としてひと口食べる白部さん。ついでに、お水もひと口飲んで、コップの使い方を教える。


「う~、難しいぞー……」


 幼児独特の鷲掴みでスプーンを持ち、たどたどしく口元に運ぶノーラちゃん。なんとか最初のひと口を食べることに成功!


「うめーッ!!」


 絶叫するノーラちゃんを、しーっと黙らせる。ジェスチャーの意味がわからず、首を傾げる彼女。


「えーっと、とりあえず大声出しちゃダメ。追い出されちゃうからね」


 ノーラちゃんに白部さんが言い聞かせる。いやはや、猫耳人間になって間もない頃のアメリを思い出すなあ。ただ、猫時代に「やんちゃ」と白部さんが評してたように、アメリより手が掛かりそう。まあ、そこも含め愛してこそよね。


 ノーラちゃんの一挙一動にはらはらしながらオムライスをいただく私たち。とにかくフリーダムなノーラちゃんと、平常運転なアメリ。いやー、アメリがどれだけ手のかからない子だったか思い知らされます……。お口にケチャップたくさん付いてるよ、ノーラちゃん。


 ともかくも、無事みんなごちそうさま。この調子だと先が思いやられるけど、そこを乗り越えてこその子育てです、白部さん! ファイト!

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