ネーム作業も大詰め、もうすぐ夕刻という時間帯。ほえほえさんたちと戯れているアメリを背に仕上げの作業に取り掛かっていると、不意にインタホンが鳴る。
「はい、どちらさまでしょう?」
「こんにちは、角照です。今大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。今出ます」
訪問者は角照さんだった。
門まで出ると、昨日とは少し違うけど相変わらずシュッとした格好の彼女が立っている。
「どうも。先ほどは、うちの三人がお世話になったそうで。あたしからも、お礼を言わせていただきに来ました。三人とも今手が離せないもので、代わりといっては何ですけど」
「いえいえ。元はといえば、私が斎藤さんに失礼なことを言ってしまったからですし。お礼を言われるほどのことは」
すると、苦笑する彼女。
「あ、すみません。さっそく、『今日、四回も子供に間違えられたー!』ってぼやかれたもので。本当に、酒飲みなのにしょっちゅう間違われるんですよ彼女。それにしても、縁は異なものとはよくいったものです」
「そうですね」
本当にその通りだと、口に手を当てふふっと笑う。
「それで本題なんですけど、あたしたちの状況が落ち着いたら引越し祝いとして、猫崎さんとアメリちゃんも招いてパーティーでも開こうかと思っていまして。いかがでしょう? あ、パーティーっていっても舞踏会とかじゃなく、庭でバーベキューでもしようかとかそんな感じです」
冗談を交えて、肩をすくめおどけてみせる角照さん。
「ええ、私たちはこれといって予定ないですけど……あ! さらにもう二人、呼んでいいでしょうか?」
「それは構いませんけど、どなたでしょうか?」
まりあさんとクロちゃんのことを、角照さんに説明する。
「へえ、他にも猫耳人間が……。すごい偶然ですね」
ほんとにね。世界で九十六人いるそうだけど、そのうち三人がこのF市にいるなんて。何か、運命力のようなものすら感じる……! は、さすがに漫画の読みすぎか。
「ともかくも、そういうことでしたらあたしたちは構わないですよ。むしろ、他の猫耳人間とその親御さんと知り合えるなんて、千載一遇の機会ですから」
「では、後でまりあさんにも話してみますね。そういえば、ミケちゃんは元気ですか?」
「あ、はい。相変わらずです。テレビとBDもセットし終わったので、今映画見てますよ」
ああ……角照さんの映画ってことは、サメが何かするB級映画なんだろうなー。
「では、これにて……っと、そうだ。猫崎さん、よかったら連絡先交換しませんか?」
「はい、ぜひ。スマホ取ってきますね」
一度寝室に戻り、スマホを持ってきてから「LIZE」で連絡先を交換。
「ありがとうございます。では、あたしもまだ荷解きが完全に終わってないので失礼しますね」
一礼して、お隣に戻る彼女。さて、早速まりあさんに打診だ!
◆ ◆ ◆
「ええ~! 猫耳人間の子とそのご身内の方が、そんなにたくさん越してこられたんですか! それでパーティーにお誘いを?」
早速連絡してみると、まりあさんもびっくり。
「ええ、細かい日取りは未定みたいですけど。とりあえずお誘いまでしてみましたが、いかがでしょう?」
「はい。それはもう、ぜひぜひ! 楽しみですねえ」
電話越しにも、声で嬉しそうなことが伝わってくる。
「では、角照さんにそのようにお伝えしておきますね」
その後は他愛もない雑談を続けるも、そろそろ夕飯の買い出しに行かなければいけないことに気づき、通話を終える。
さらに快諾いただいたことを角照さんに伝え、アメリと連れ立っていつものスーパーへGO!
◆ ◆ ◆
さて、今日は何にしましょうね。ネーム作業も本当に最終工程を残すのみだから、割と手の込んだ料理でもいいけど。
「これなーに?」
アメリが鮮魚コーナーの一角を不思議そうに眺めている。そこには、お寿司のパックが並んでいた。
「それはお寿司っていってね、おいしい食べ物だよ」
お寿司か。たまにはいいかもね。手巻き寿司なんてのも思いついたけど、ご飯炊いてから酢飯作ると時間かかりすぎるな。今日、お米水に浸してこなかったものねえ。
すると、シャリだけ入ったパックが目に入る。ああそうだ、最近はこういうのも多いよね。
よし! 今晩は半自家製握り寿司と洒落込もう!
シャリのパックとお刺身セットに、プラス練りわさびチューブ。朝ごはん用に、おなじみパンと牛乳。そしていつものように、コラ・コーラとマスペをかごに入れお会計~。
さあ。帰ったらお寿司祭りだ!
◆ ◆ ◆
ただいまの後は、買い物を冷蔵庫に入れてまずお風呂! 今日は火を全然使わないしね。
体をきれいにしたら、今回は生物に触れるので、手をさらに念入りに洗った後、ボウルに満たしたお酢に手を浸す。アメリにも同様の手順を踏ませ、準備完了!
「では、お寿司を握ります。といっても、このシャリにお刺身載っけるだけなんだけどね。さあ、やってみよー!」
お手本を示してマグロの握りを一貫作ると、彼女も真似をする。今私が握ったのはわさびを塗ってないから、アメリ用のお皿に置く。私のはちょいとわさびをシャリに付けて、別皿に置く。
締めて二十貫というなかなかの量のお寿司が完成! アメリが八貫、私が十二貫という内訳。
ネタは、マグロを筆頭に、カンパチ、イカ、タコ、サーモンとバラエティ豊か。猫がイカ食べると腰抜かすなんていうけど、今のアメリなら大丈夫よね。
お寿司に欠かせないお供である緑茶も湯呑に注ぎ、準備万端。
「さて、いただきますの前に……。今回はお箸使う練習してみようか」
「おはし?」
「これね」
お箸を持って、開閉してみせる。
「お寿司は手づかみでもいい料理なんだけど、せっかくだから練習しよう。アメリが使うのはこのお箸ね」
子供用の練習箸を渡す。横から見たフォルムがクリップのような形状になっており、自然に正しい持ち方になるというナイスアイテム。
「じゃあ、こうやって持ってみてね」
手首をひねり、持った箸を色んな角度から見せてみせる。
「お、おお~? 難しい……」
難儀するアメリ。頑張れ頑張れ! 応援してるぞ!
「じゃあ、適当になにかつまんでみよう。いただきます」
お手本として、マグロの握りにお醤油をかけ、食べてみせる。う~ん、美味しい! つい故郷の味と比べてしまうけど、それは無粋ってものよね。でも、福井のお魚が久しぶりに食べたくなってしまう。お正月が楽しみだな。
「さあ、やってみようか」
アメリもいただきますした後、真似してマグロの握りにお醤油をかけて、たどたどしくつまむ。一度お皿に落としてしまったが、なんとか口に運ぶことに成功。
「美味しい!」
「でしょ~。お寿司は人気の食べ物だからね」
彼女のペースに合わせてゆっくりお茶を飲みつつお寿司を食み、ほぼ同時に完食!
「ごちそうさまでした!」
一緒に締めのごちそうさまを言い、洗い物は食洗機へ。
「これから、少しずつお箸上手に使えるようになっていこうね。今日は初めてにしてはお上手でした!」
ぱちぱちと拍手すると、嬉しそうに微笑むアメリ。良き哉良き哉。
では、ネームのラストスパート頑張りましょー!
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