神奈さんとアメリちゃん

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第九十八話 まりあさんが大変! ―前編―

公開日時: 2021年4月22日(木) 07:01
文字数:2,525

今日も今日とて朝食のトーストをもっそもっそとかじっていると、インタホンの呼び鈴が鳴る。はて、誰でしょー?


「はーい、どちら様ですかー?」


 大あくびしながら応対。


「あの、ボクです! お姉ちゃんが大変で、ボクどうしたらいいか……!」


 息切れしながら返答するクロちゃん。鬼気迫る様子に、一発で脳が覚醒する。


「今出るからね、ちょっと待ってて!」


 大急ぎで門に向かうと、不安をありありと湛えた表情のクロちゃんが、自転車に跨りながら立っていた。


「どうしたの?」


 私も内心不安だけど、なるべく落ち着かせようと穏やかに話しかける。


「あの、お姉ちゃんが咳がひどくて、調子悪そうで……。ボク電話使えないから、急いで走ってきたんです」


 風邪? あるいはインフルとか……。とにかく、状況を整理しよう。


「優輝さんたちには話した?」


「神奈お姉さんが出なかったら、次に行こうと思ってました」


「状態が悪いのはいつから?」


「今朝からです。昨日の夜から、なんか喉が痛いって言ってたんですけど」


 ふむ。とりあえず、現場に急行だね!


「急いで支度するから、少し待ってて。その間に、優輝さんたちにも話しておいてくれる?」


「わかりました」


 急いで戻り、口の中にトーストをねじ込み牛乳を一気飲みすると、早着替えしてアメリを連れ、自転車とともに再度門へ。クロちゃんと一緒に、黒と黄のスポーツサイクルにまたがった優輝さんが待ってました。


「おはようございます。クロちゃんから大体の話は聞きました」


「おはようございます。私たちも行きますね」


 というわけで、急いで宇多野家へ!



 ◆ ◆ ◆



 クロちゃんがドアを開けてくれたので、静かに中に入る。


「まりあさん、起きてますか?」


 案内された寝室の入り口で、ベッドに臥せっているまりあさんに話しかけると、咳に混じって「はい」というか弱い声が聞こえる。うーん、これはかなり状態が悪そうだ。


「立って着替えられますか?」


 優輝さんが問うと、「はい……なんとか」と答えて立ち上がろうとするので、二人で起床を手伝う。


「由香里に車回してもらいます」


 優輝さんが、離れたところで電話をかけるために移動する。


「まりあさん、着替えに助け要ります?」


「いえ、ごほっ。なん、ごほっ、とか」


 弱々しいながらも、大丈夫だとの返事。私に感染うつってもいけないし、着替えを見るのもあれなので、「何かあれば呼んで下さい」と一度ドアを閉める。


 扉の前で待つことしばし、「着替え終わりました」とまりあさんの声。ちょうどいい頃合いに、優輝さんも戻ってきた。


「由香里がすぐに来ます」


 寝室で待機しているまりあさんを残し、まんじりともせずリビングで待つ私たち。


 長かったような短かったような時間が過ぎ去って、インタホンの呼び鈴が鳴ったので優輝さんが応対に出る。


「……うん、連れて行くからちょっと車で待ってて。神奈さん、手を貸していただけますか?」


「はい」


 二人でまりあさんを補助し、バンへと連れて行く。マスクは寝室にちょうどあったようで、まりあさんはマスク装着状態。


「病院、かかりつけありますか?」


 由香里さんが後部座席のまりあさんに問う。


「松戸、ごほ、内科小児、ごほっ、科さんへお願い、ごほっ、します」


 「わかりました」と言い、車を発進させる由香里さん。大ごとじゃないといいけどなあ……。


「じゃあ神奈さん、クロちゃんのお世話しましょうか」


 残された優輝さんが、提案してくる。


「そうですね。クロちゃん、心配でしょうけど中に入りましょ」


 こうして、私たちは再度屋内へ。



 ◆ ◆ ◆



「それじゃ神奈さん、あたしは掃除してますんで。クロちゃん、朝ごはんまだだよね?」


 「はい」とうなずくクロちゃん。


「神奈さん、クロちゃんのごはんお願いしてもいいですか?」


「わかりました。クロちゃん、何か食べたいのある?」


 冷蔵庫を覗きながら尋ねてみる。


「あの、あまり食欲がなくて……」


「だめよクロちゃん。こういうときこそ、しっかり食べる! まりあさんに続いてクロちゃんまで倒れちゃったら、まりあさん泣いちゃうよ?」


「わかりました……。えと、あまり注文するのも悪いんですけど、うち朝は和食が多いので、和食だと嬉しいです……」


「了解!」


 さて、冷蔵庫にはアジの干物、ネギ、卵、冷凍庫にはラップにくるまれたお米など。よし、献立は決まった!


「焼きアジと卵焼きとお味噌汁でいい?」


「はい、お願いします」


 さて、三分でクッキングする脳内BGMを流す空気でもないけど、ここはあえて脳内MP3プレーヤーをスイッチオン! こういうときこそ、大人が気丈に振る舞わないと! クロちゃんに、不安を覚えさせるわけにいかないもんね。さすがに鼻歌なんてしないけれども。


 幸い、まりあさんのおうちはガスコンロ。IHと違って勝手がわかるから助かる。ワット数を確認して、お茶碗に入れたごはんをセット。まだ加熱ボタンは押さない。


 まずは、ネギを一本洗って斜め切りに。続いて手鍋にネギを入れ、お味噌汁一人分のお湯を沸かす。沸かしている間、魚焼きグリルで弱火でじっくりアジを焼く。もう片方のコンロでは、油を引いたフライパンにお砂糖とだし入り溶き卵を流し込む。ここで、ごはんを加熱。


 アジの様子をこまめに見ながら、卵を整形。よし、まずは卵焼き完成! アジが片面焼けたので、ひっくり返して背側を焼く。続いてお湯が沸いたので、火を止めだしと味噌を溶き入れる。ご飯もできてるので取り出して、と。


 アジの焼き上がりを待って、朝食完成!


「おまちどうさま~。クロちゃんのお箸どれ?」


「あ、その茶色い木のです」


 というわけで、箸立てからお箸も取り配膳。冷蔵庫に麦茶があったので、それもコップに注ぐ。


「まりあさんの味と違うから、お口に合うかわからないけれど」


「いえ、ありがとうございます。いただきます。……美味しい。神奈お姉さん、お料理上手なんですね」


「ありがとう。伊達に七年以上、自炊してないからねー」


 素直な賞賛の言葉に、ふふっと微笑む。


「おねーちゃん、アメリにも何かできることない?」


「そうねえ……。じゃあ、クロちゃんの話し相手お願いできる? 私、優輝さんのほう手伝ってくるから。クロちゃん、食べ終わったら教えてね」


 「わかった!」と「はい」と応える二人。さーて、優輝さんの応援ですよ!

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