エプロン締めながら思案なう。生物から消費していきたいところだけれど、四人ぶん作ることになるとは思ってなかったから、材料が中途半端なのよね。
となると、何か保存食とごはんの組み合わせで……。よし、あれを作ってみますか。
「なー、神奈サン。何か手伝おうか?」
「いえ、久美さんはくつろいでいて構わないですよ」
「んー、ただ見てるだけってのも居心地悪くてさ」
ふむ。まあそう言われたら、何か仕事を振るほうがいいのかしら?
「では、一緒におにぎり作りましょう」
「おー、シンプルでいいな! 食べるにしても、あんま気を使わなくて済んでありがたいぜ」
「といっても、これをおにぎりにしようかと思いまして」
戸棚からポーク缶を取り出す。
「お! ポーク缶のおにぎりか! ウチ、これ大好物だわ」
あら、ちょうどよかった。
「では、こちらを作っていきましょう。幸い、量はかなり買ってありますから。アメリはミケちゃんの話し相手になってあげてね」
「わかった!」
しゅびっと挙手するお嬢様。
何ぶん、作るのが作るものだけに、特筆するようなことは特になし。しかし、久美さんの握りっぷり、お見事ね。やはりお上手だわ。
これにキャベツの千切りとプチトマトをサラダにして野菜成分もゲット!
「では、いただきますしましょう。いただきます!」
今日は、アメリは対面ではなく隣に着座なう。
うーん、ポーク缶の素朴な味わいと、自家製マヨソースの取り合わせがグッド!
サラダもシンプルに美味しい。
「いやー、やっぱ好きだわコレ」
久美さんもご満悦。
「おお~。初めて食べたけど、美味しい!」
「久美がよく作るのとはちょっと味付けが違うみたいだけど、これも美味しいわね!」
子供たちも満足してくれたようで、良き哉良き哉。
「片したら寝室に行きますので、先に戻っていてください」
後片付けを一手に引き受け、三人にはゆっくりしていてもらう。アメリは手伝うと言ってくれたけど、「ありがとう。でも、また今度ね」と頭を撫でて思いとどまらせた。
なぜそうしたかというと、少し一人で考える時間が欲しかったからだ。
◆ ◆ ◆
「ただいま戻りました」
お茶の載ったトレイを手に、寝室に戻る。
「遅かったじゃん、神奈サン。やっぱウチらも手伝ったほうが良かった?」
三人でブロック遊びをしていた久美さんが、ばつが悪そうに声をかけてきた。
「いえ、少し考え事がしたかったんです」
「内容訊くと、差し支えある?」
「むしろ、相談に乗っていただけますか? 私、アメリのこと、積極的に公表したいなって考え始めてまして」
配膳しながら、動機の背景として浦野さんに勇気づけられたことを付け加えると、「うーん」と腕組みして考え込む彼女。
「ウチとしては、賛成したいのはある。このままアメ子を、ずっと閉じ込めっぱなしってわけにもいかないだろうし。ただ、みんなの意見も聞いてみたほうがいい気がするな」
「わかりました。ちょっと、LIZEで尋ねてみますね」
「ウチも入るわ。悪りーけど、二人でちょっと遊んでてな」
子供たちに断り、スマホを取り出す久美さん。私はデスクに座りPCを立ち上げる。
グループチャットに入ると、今朝の報道の話題で持ち切りでした。
こんにちはとご挨拶すると、皆さんもご挨拶を返してくださったので、さっそく先ほどの話を切り出す。
まず、久美さんの援護射撃もあり、楽天家のさつきさんが賛成。優輝さんもそちら側のタイプなので、さつきさんに同意する。人を疑うという発想がなさそうなまりあさんも同様。
やはり、皆さんアメリと私のストレスを考えての発言。
逆に、悩み猫スタンプとともに「うーん……」と考え込んでしまったのが白部さん。もともと、慎重派だったものね。
由香里さんは中庸やや慎重寄り。ストレスは考慮しなければいけないけど、さりとて手放しで同意するわけにも……という感じ。
「猫崎さん。この件、私に預けていただくわけにはいきませんか?」
「白部さんに、ですか?」
私の行動についてなのに、こう言っては何だけど、妙なことを仰られる。
「上司に、猫崎さんのご意見を発表する場を設けてもらうよう、説得します。上司には、さらに上のほうに話を持っていってもらおうかと」
「どのぐらいかかるでしょうか?」
「上の決定することですから、はっきりしたことは……。ただ、猫崎さんにご許可いただければ、上司への意見書はこれから作成して、出来上がり次第提出します」
ありがたいな。慎重派の白部さんが、ここまで仰ってくださるとは。
「はい、ぜひお願いします。ありがとうございます!」
お辞儀猫スタンプとともに、お礼を述べる。由香里さんも、「そういうことなら」と、方針に同意してくださいました。
「良かったな、神奈サン。一歩前進するかもしれねーぜ」
「ですね。あ、そうだ」
あのニュースやツイスターの動きを把握してるかわからないけれど、真留さんにもこの件について一報入れる。ことによると、仕事に影響があるかもしれないからだ。とりあえず、真留さんはお忙しいので、気長にお返事を待ちましょう。
◆ ◆ ◆
白部さんは意見書を迅速に提出してくださり、明日会議に出席することになったようです。
そのようなわけで、またノーラちゃんを一日預かることになりました。久美さんも引き続き、こちらにいらしてくださるとのこと。
「よろしければ、晩ごはんも召し上がっていきませんか?」
帰り支度を始める二人を、つい引き止めてしまう。私も、心細いのだろうか。
「いやー、さすがに二タテでゴチは悪いよ。それに、夕飯前にはミケ子連れ帰らないと、優輝が心配するしさ」
「そうですね。わかりました。では、明日もまたよろしくお願いします」
深々とお辞儀する。
二人を門まで見送り、名残り惜しみながら、手を振り続けるのでした。
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