「優輝さーん。何かお手伝いできることないですかー?」
ご馳走になりっぱなしもなんなので、台所でピザ生地をこねている彼女にそっと声をかけてみる。
「こちらは大丈夫ですよ。ホストはゲストを楽しませ、くつろがせるのが役目ですから!」
にこやかに返されてしまう。うーむ。
「いやー……どうにもこの、所在ないもので」
「うーん。じゃあ、ミケの面倒を見ていただけますか? 今、一番助かることがそれですから」
「はい! そうさせていただきます!」
性分なんだろうな。もらいっぱなしとかそういうのがどうにも居心地が悪い質なので、なにか仕事をもらえると逆に安心する。
「ミーケちゃん。優輝さんからミケちゃんのことお任せされたよー」
リビングでソファに座りながら、アメリと歌の練習をしてるミケちゃんの隣に腰を落ち着け、話しかける。
「そう? まあ、ミケはお姉さんだから一人でも平気だけどね!」
ふふん、と胸をそらす。むう。お世話させてくださいよ、お嬢様。
「それにしても、二人とも練習熱心だよねー」
「おおー! 頑張ってるよ! ミケと一緒に優勝する!」
ふんすと鼻息も荒く拳を振り上げ、気合を入れるアメリ。
「二人とも、あんまり頑張りすぎると、ごはん食べてるとき寝ちゃうよ?」
アメリが猫耳人間になった日、食事中に寝落ちしてしまったのを思い出す。
「大丈夫よ! お姉ちゃんだもの!」
えっへんと、胸をそらすミケちゃん。根拠はわからないけど、すごい自信。
「まあ、ほどほどにね。で、ミケちゃん。何かしてほしいことなーい?」
うーん、と腕組みした後、こんなことを言われてしまった。
「じゃあ、ジリツしたオンナである神奈おねーさんに質問! 立派なお姉さんになるにはどうしたらいいか教えて!」
ほえ!? 自立した女とか、妙に大人ぶった言い回しを……。背伸びしたいお年頃なのね。
しかし、立派なお姉さんになる方法かあ……なんとも哲学的なお題だこと。
「うーん、じゃあ逆に質問。ミケちゃんにとって、立派なお姉さんってどういう存在?」
まずは、ここがわからないと話しようがないよね。しかし、問い返すとうんうん考え込んでしまう。
「……頼りにされる存在、かしら。どんなときでも強くて、くじけなくて。きっと、そういうの」
熟慮の上に出された答え。しかし、ちょっと危うい理想だなと感じる。
「私の意見を言うとね、『ちゃんと助け合える人』がそういうのかなって思う。人はね、一人で何でもはできないのよ。普段人を助けつつ、逆に辛いとき、助けてほしいときには遠慮なく親しい人を頼れる。そして、そういう人間関係を作れるのが、立派な人だと思うよ。優輝さんたちも、そうやって助け合って暮らしているよね?」
目をぱちくりさせるミケちゃん。少し考え込んでから、「そっか……」と一言つぶやく。
「アメリもね、そういう大人に将来なってほしいな」
彼女も、「おお~! 頑張る!」と同意。
「さて! そーゆーわけで、早速頼ってほしいかな。何か、してあげられることない?」
それじゃあと、歌の即席審査員をお願いされた。歌のことはあまり詳しくないけれど、できる限りの評価をしてみる。
そうやって過ごしていると、「ピザ焼けましたよー」と、優輝さんが台所からひょこっと顔を出す。
レッツ、ピッツァターイム!
◆ ◆ ◆
全員が着席すると、優輝さんがオーブンからピザを取り出す。久美さんは、白ワインとワイングラスを手元に置いている。
「大きいですねー!」
いや、ほんと大きい。宅配のLサイズより大きい。
「七人ぶん、十四ピースありますからね。パーティー用に大きいの買ったんで、もっと大きいのも焼けますよ」
にこやかに答える優輝さん。お高かったでしょうに。さすが、豪快ガール。
具はと言うと、エビ、イカ、ムール貝、サーモンといったシーフードがたくさん! こちらも実に豪快だ。
「じゃあ、さっそく食べましょう。いただきます!」
優輝さんの言葉で、実食開始! おお~。チーズがふんだんに使われてて、マヨが合わさり非常にこってりしてる。久美さんは、まずは食前酒としてワイングラスを傾けていて、なんか優雅ね。
「美味しい!」
瞳をキラキラ輝かせるアメリ。良き哉良き哉。
「んで、神奈サン。訊きたいことってほかにはどんなの?」
ピザをつまみながら問うてくる久美さん。おっといけない。デリシャスなピザで、危うく本題を忘れるところだった。
とはいっても、私音楽は学校の授業でやった程度だから、何を尋ねたら良いものやら……。
よし、技術的なことを教えてもらっても漫画では表現しにくいだろうし、ここはあえて心構えとかそういうのを尋ねてみよう。
「アバウトな質問で恐縮ですけど、作曲の際に心がけていることとかありますか?」
「心がけかー。やっぱ、さつきの絵と優輝の文章が前面にあるじゃん? だから劇伴的っていうか、あくまでもそれを支えるような感じで、出しゃばらないように控えめな作りを心がけてるよ」
へー。
「あと、マインドセットっていうのかな。脚本の解釈が重要だと思ってて、そこが納得行かないと作業が進まないタイプだね」
「あー。さっき私がアメリの抱きしめるの見て、妹がどうとか言ってたのはそういう感じの?」
「そそ。あれで、晴美……攻略対象の一人なんだけど、彼女の感情があのBGMの時点では恋愛じゃなくて、妹に向けてるようなものだって気付いてさ。助かったよ」
「お役に立てて幸いです」
久美さんがワインで喉を潤すのに合わせ、私もお水をいただく。ミネラルウォーターかな? 美味しい。
「前も言ったっすけど、姉さん、広報動画も作ってるんすよ」
「あー。そういえば、そんなお話も以前少し伺いましたね。そちらのほうは、なにか特別なソフトとかテクとかあるんですか?」
「ソフトは、『MPUTL』ってのを使ってる。古いフリーソフトだけど、動画製作者の間ではなんだかんだで未だに現役のソフトでね。今度、そっちの作業パートになったら作業風景見せるよ。テクは……雑に見せ場切り抜いて、字幕入れるだけだからなー。あんま大したことしてないよ」
「ありがとうございます。では、そのときにまたお願いします」
インタビューはこんなところかな。
その後はアメリを交えて、かくてるの皆さんやミケちゃんと楽しくおしゃべりしながら、食事を楽しみました。
食後は丁重にお礼を述べて帰宅。
私もアメリも、ほぼ一日がかりの取材と練習でお風呂上がりにはもうクタクタ。あっという間に、ぐっすりと眠りこんでしまいました。おやすみなさい。
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