神奈さんとアメリちゃん

退会したユーザー ?
退会したユーザー

第六十五話 ゲーム作りを取材しよう! その五

公開日時: 2021年4月18日(日) 18:31
文字数:2,615

「優輝さーん。何かお手伝いできることないですかー?」


 ご馳走になりっぱなしもなんなので、台所でピザ生地をこねている彼女にそっと声をかけてみる。


「こちらは大丈夫ですよ。ホストはゲストを楽しませ、くつろがせるのが役目ですから!」


 にこやかに返されてしまう。うーむ。


「いやー……どうにもこの、所在ないもので」


「うーん。じゃあ、ミケの面倒を見ていただけますか? 今、一番助かることがそれですから」


「はい! そうさせていただきます!」


 性分なんだろうな。もらいっぱなしとかそういうのがどうにも居心地が悪いたちなので、なにか仕事をもらえると逆に安心する。


「ミーケちゃん。優輝さんからミケちゃんのことお任せされたよー」


 リビングでソファに座りながら、アメリと歌の練習をしてるミケちゃんの隣に腰を落ち着け、話しかける。


「そう? まあ、ミケはお姉さんだから一人でも平気だけどね!」


 ふふん、と胸をそらす。むう。お世話させてくださいよ、お嬢様。


「それにしても、二人とも練習熱心だよねー」


「おおー! 頑張ってるよ! ミケと一緒に優勝する!」


 ふんすと鼻息も荒く拳を振り上げ、気合を入れるアメリ。


「二人とも、あんまり頑張りすぎると、ごはん食べてるとき寝ちゃうよ?」


 アメリが猫耳人間になった日、食事中に寝落ちしてしまったのを思い出す。


「大丈夫よ! お姉ちゃんだもの!」


 えっへんと、胸をそらすミケちゃん。根拠はわからないけど、すごい自信。


「まあ、ほどほどにね。で、ミケちゃん。何かしてほしいことなーい?」


 うーん、と腕組みした後、こんなことを言われてしまった。


「じゃあ、ジリツしたオンナである神奈おねーさんに質問! 立派なお姉さんになるにはどうしたらいいか教えて!」


 ほえ!? 自立した女とか、妙に大人ぶった言い回しを……。背伸びしたいお年頃なのね。


 しかし、立派なお姉さんになる方法かあ……なんとも哲学的なお題だこと。


「うーん、じゃあ逆に質問。ミケちゃんにとって、立派なお姉さんってどういう存在?」


 まずは、ここがわからないと話しようがないよね。しかし、問い返すとうんうん考え込んでしまう。


「……頼りにされる存在、かしら。どんなときでも強くて、くじけなくて。きっと、そういうの」


 熟慮の上に出された答え。しかし、ちょっと危うい理想だなと感じる。


「私の意見を言うとね、『ちゃんと助け合える人』がそういうのかなって思う。人はね、一人で何でもはできないのよ。普段人を助けつつ、逆に辛いとき、助けてほしいときには遠慮なく親しい人を頼れる。そして、そういう人間関係を作れるのが、立派な人だと思うよ。優輝さんたちも、そうやって助け合って暮らしているよね?」


 目をぱちくりさせるミケちゃん。少し考え込んでから、「そっか……」と一言つぶやく。


「アメリもね、そういう大人に将来なってほしいな」


 彼女も、「おお~! 頑張る!」と同意。


「さて! そーゆーわけで、早速頼ってほしいかな。何か、してあげられることない?」


 それじゃあと、歌の即席審査員をお願いされた。歌のことはあまり詳しくないけれど、できる限りの評価をしてみる。


 そうやって過ごしていると、「ピザ焼けましたよー」と、優輝さんが台所からひょこっと顔を出す。


 レッツ、ピッツァターイム!



 ◆ ◆ ◆



 全員が着席すると、優輝さんがオーブンからピザを取り出す。久美さんは、白ワインとワイングラスを手元に置いている。


「大きいですねー!」


 いや、ほんと大きい。宅配のLサイズより大きい。


「七人ぶん、十四ピースありますからね。パーティー用に大きいの買ったんで、もっと大きいのも焼けますよ」


 にこやかに答える優輝さん。お高かったでしょうに。さすが、豪快ガール。


 具はと言うと、エビ、イカ、ムール貝、サーモンといったシーフードがたくさん! こちらも実に豪快だ。


「じゃあ、さっそく食べましょう。いただきます!」


 優輝さんの言葉で、実食開始! おお~。チーズがふんだんに使われてて、マヨが合わさり非常にこってりしてる。久美さんは、まずは食前酒としてワイングラスを傾けていて、なんか優雅ね。


「美味しい!」


 瞳をキラキラ輝かせるアメリ。良きかな良きかな


「んで、神奈サン。訊きたいことってほかにはどんなの?」


 ピザをつまみながら問うてくる久美さん。おっといけない。デリシャスなピザで、危うく本題を忘れるところだった。


 とはいっても、私音楽は学校の授業でやった程度だから、何を尋ねたら良いものやら……。


 よし、技術的なことを教えてもらっても漫画では表現しにくいだろうし、ここはあえて心構えとかそういうのを尋ねてみよう。


「アバウトな質問で恐縮ですけど、作曲の際に心がけていることとかありますか?」


「心がけかー。やっぱ、さつきの絵と優輝の文章が前面にあるじゃん? だから劇伴的っていうか、あくまでもそれを支えるような感じで、出しゃばらないように控えめな作りを心がけてるよ」


 へー。


「あと、マインドセットっていうのかな。脚本の解釈が重要だと思ってて、そこが納得行かないと作業が進まないタイプだね」


「あー。さっき私がアメリの抱きしめるの見て、妹がどうとか言ってたのはそういう感じの?」


「そそ。あれで、晴美はるみ……攻略対象の一人なんだけど、彼女の感情があのBGMの時点では恋愛じゃなくて、妹に向けてるようなものだって気付いてさ。助かったよ」


「お役に立てて幸いです」


 久美さんがワインで喉を潤すのに合わせ、私もお水をいただく。ミネラルウォーターかな? 美味しい。


「前も言ったっすけど、姉さん、広報動画も作ってるんすよ」


「あー。そういえば、そんなお話も以前少し伺いましたね。そちらのほうは、なにか特別なソフトとかテクとかあるんですか?」


「ソフトは、『MPUTL』ってのを使ってる。古いフリーソフトだけど、動画製作者の間ではなんだかんだで未だに現役のソフトでね。今度、そっちの作業パートになったら作業風景見せるよ。テクは……雑に見せ場切り抜いて、字幕入れるだけだからなー。あんま大したことしてないよ」


「ありがとうございます。では、そのときにまたお願いします」


 インタビューはこんなところかな。


 その後はアメリを交えて、かくてるの皆さんやミケちゃんと楽しくおしゃべりしながら、食事を楽しみました。


 食後は丁重にお礼を述べて帰宅。


 私もアメリも、ほぼ一日がかりの取材と練習でお風呂上がりにはもうクタクタ。あっという間に、ぐっすりと眠りこんでしまいました。おやすみなさい。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート